ここ最近、寒が緩んで、降るのは、雨。昨日もマンハッタンに出かけたのですけど、摩天楼は、雨で霞んでいました。いつも寒いのは嫌だ、と文句ばかり言ってますけど、降るんだったら、雪の方が濡れなくていいかも。なんて、勝手なことを思っております。
(雨のタイムズスクエア)
大学受験も佳境に入ってきましたけど、11月30日付けのニューヨークタイムズでショッキングな記事を見つけました。ユーチューブで有名になったルイジアナの学校の実情は、『トンデモナイ!』と言うお話。
この学校、ランドリー大学進学予備校(T.M. Landry College Preparatory School)と言いますけど、ホームスクーリングから始まったので、州から認可が下りていません。小学校から高校まであって、総生徒数は180だとか。まあ、小さい学校です。
で、何でこの学校が有名だったかというと、こんな小さい田舎の学校からハーバードを始めとして、アイビーリーグや名門大学への進学者をバシバシ出しているということです。たった、50人くらいの卒業生で、ハーバード、イェール、ブラウン、コロンビア、MIT, スタンフォード、ニューヨーク大学、ウェズリアンなんて、大勢行っちゃうんですから、世間は驚いたわけです。この学校、生徒はほとんど黒人中心。この1、2年は、この学校の凄い進学成功率を知って、若干ですけど、白人とアジア人が入学したりしたようですけどね。
始まりは、2005年に黒人のランドリー夫妻が自分の子供たちにホームスクーリング始めたこと。この時、近所の子供も入れて全部で6人、ちなみにこのオリジナルの6名の内、2人は刑務所に入っているそうです。つまり、この学校、普通の学校に入れないいわゆる落ちこぼれのための学校だった。ホームスクーリングというのは、アメリカでは珍しくないのですけど、要は、自分の家で勉強させて、卒業の資格認定のテストを受けるいうスタイルの教育方法です。アメリカは広いですから、簡単に学校に通えない場所に住む子供たちとか、学校に馴染めない子供だとか、仕事を持っている子供だとか(子役とか天才ピアニストとか)まあ、親の方針で育てたいとかの理由で、行われています。
この学校の問題は、何だったのか。
以前、このブログでも書きましたけど、大学はなんだかんだと言っても、多様性を求めています。だから、この学校は、大学が求めているような人材を作り上げた。ウソで。アイビーリーグでこの学校の卒業生を初めて入れたのがブラウン大学。2013年です。それから、他のアイビーリーグも追随しちゃった。この学校は、成績表というのを生徒自身にも公表していないようですけど、要は、めちゃくちゃにかさ上げした成績表を作っています。しかも、取ってもいないような授業をリストアップして。その上、ここの生徒たちは、みんな黒人ですから、それだけでも目立つ。その子達が成績優秀なんですから、それは、アイビーリーグも欲しい。
成績だけじゃあ、十分じゃないので、劣悪な家庭環境であることもアピールする。父親がアル中で、子供は年中殴られている。母親はいくつも仕事を持ってフラフラになるまで働いている。生徒自身も家計を助けるために働いている。その上、野球部で活躍してMVPを取った。それから、自分と同じように家庭で虐待を受けている子供たちをサポートするサークルを作った。ねっ、凄いでしょ。アイビーリーグも買いますよね。でも、全部ウソ。
もちろん、統一テストの点がある程度良くないと、マズイので、ここの授業は、何と統一テスト対策のみ。他のクラスも一応、あるそうですけど、ここの授業は自由参加でほとんど誰もちゃんとしたクラスは取っていない。まあ、何年もこのテストの準備だけしてればいいんですから、そこそこ点は取れるようになりますよね。いやあ、驚いた。
で、何でバレたか。この学校は、体罰が酷くて、ムチで打たれたり、首を絞められたり、蹴られたり、するらしんですけど、この傷害事件で捕まった。結局、実刑は免れたみたいですけど、それで、注目があたってしまった。警察は、傷害事件として校長夫妻と他の教師を起訴したんですが、この学校自体、州の認可が下りていないので、学校法が適用されない。だから、そのまま野放し。ですけど、生徒とか、親とかが実態を話し始めてしまったんですね。
『黒人が上りつめるためには、何でもする』という信念を元に、アイビーリーグやその他の名門私立大学の『何もない家庭環境から出てきたけれど、その逆境を物ともせず、頭脳優秀で、やる気がある子に育った学生』が欲しいという理念を逆手に取って、この校長は、突き進んだ。不認可の学校だからお国がどうすることも出来ないし、盲点でしたよね。ちなみに、この校長、セールスマンでした。きっと、凄腕だったんでしょうねえ。
NYタイムズは、卒業生、在校生、父兄、元教師らに精力的にインタビューしてこの学校の実情を暴露したのがこの記事です。実際にエリート大学に入った生徒は、多くは、厳しい大学の授業について行けなくて、退学したり、他の低いレベルの大学にトランスファーしたりしているのが残念ながら大半のようです。まあ、そうでしょうねえ。この学校で、何も勉強していないんですから。でも、大学側にお願いして補習を受けたり、特別な処置をしてもらったりして、頑張っている学生も若干ですがいるようです。せっかく手に入れた機会を物に出来れば、本当にその子は実力があったということで、それはそれで誇ればいいと思います。
因みに、ハーバードは、ここ出身の学生の現在についてはノーコメント。ですが、どの大学もこれからは、もっと慎重に合否審査をする、と声明を出しています。ここからは、少なくともしばらくは、学生を取らないんでしょうねえ。
単にエリート大学に進学することだけを目標にすれば、これは究極の選択でしょうけど、アメリカの大学は、入れば出れるというものではないですからねえ。本当に、小さい時から、頑張って来た学生の寄り集まりであるエリート大学の学生というのは、掛け値無しに優秀ですから。みんな、入るべくして入った。その中では、偽物は、メッキが剥がれちゃう。
受験戦争の歪んだお話でした。やり切れませんねえ。