さて、前回の続きです。お待たせしました。
ちょっとおさらいから。ジュリアードを出たビオラ奏者ナディアさんとNYフィルのオープニング曲でソロを弾いたバスーン奏者のレベッカさんのパネルディスカッションに行ったと言うお話から、この二人がここまでに行き着いた経緯を始めた所で、前回は、幕でした。犬の世話がありましたし、その後で、ちょっとオハイオまで出かけて、昨晩帰って来たので。(ちょっと、間があきました。)
(NYフィル主催のパネルディスカッションの様子)
で、NYフィルに今年から雇われたナディアさんの仕事は何か。NYには沢山の音楽家がいます。クラッシックと言うと、みんな、ベートーベンだとか、チャイコフスキーだとか、新しくても、せいぜいホルストとかストラビンスキーくらいしか思いつかない訳なんですが、新しい音楽を作っている人がもちろんいます。でも、なかなか日の目を見ない。で、ナディアさんは、こんな人たちを紹介して行こうと言うんですね。現代音楽と言うのは、狭義の意味でのクラッシックと言うジャンルを超えて、面白いものが沢山ある。だから、若い人たちにもどんどんアピール出来るのではないか、と言う訳です。ほら、ショスタコービッチだって、ジャズのシリーズを作曲しましたよね。全然、普通のジャズとは違いますけど、あれは、あれで、非常に面白い。筆者は、結構好きです。
NYフィルもこのままだとコンサートには、年寄りばかりが来る訳で、先細り。これを打開したい。新しい試みをして見たい。それでナディアさんを雇った。まず、彼女が企画したのは、ナイトキャップ。つまり、バーで、ミュージシャンとお酒を飲みながら、つるんじゃいましょうと言う企画。さっき、NYフィルが演奏した新曲を書いた作曲家に、『えっ、なんであんな変な音楽を思いついたんですか?』とか聞けるイベント。ちょっと、面白いかも。うまく行くといいですねえ。
もう一人のパネリストは、オーバーリン音大を卒業したレベッカさんですけど、この人も結構面白い。音大を出て、楽器もバスーンですからね、とにかくオーケストラに入団するのが普通の成功への道筋。で、この人、沢山オーディションを受けて、見事オーケストラ団員になった。ところが、目覚めちゃったんですね。自分の意志とは関係なく、オーケストラで決められた曲を演奏しないといけない、しかも、指揮者が思うように弾かないといけない。これが我慢出来なくなった。で、何と、1年で辞めて、荷物をまとめて取り敢えず、NYに出て来てしまったと言う訳です。
このレベッカさんもナディアさんと同じく、とにかく色々なイベントに顔を出し、ねえねえ、弾かせてよ、と言うお願いをし続けた。その間、ウェイトレスの仕事をしたらしいです。ふたりとも言ってましたけど、ミュージシャンは、ほとんど、昼間の仕事を持っているみたいですね。そうこうしているうちに、今年NYフィルのオープニングを飾った作曲家に行き着く訳です。まあ、バスーン奏者としての腕ももちろんあったんでしょうけど、世の中ネットワーキングが大切と言うお話です。
昼間の仕事といえば、筆者が以前コーポレートの世界で働いていた時、あるプロジェクトでチームを組んだITスタッフの中にジュリアード卒がいました。フルート奏者。毎日、蝶ネクタイをしていたのが、やっぱりジュリアード出と言う感じで、カッコよかったですねえ。ミュージシャンで、食べて行くのは、厳しい。もう一人、イーストマン音大を出て、オーケストラ団員を経て、銀行員になった変わり種を知ってます。この人も面白いのは、いつもトロンボーンのマウスピースをどこに行く時もポケット中に持っていた。通勤中に、車が渋滞して動かないと、マウスピースを吹いていると、言ってましたねえ。何をやっても音楽から離れられない。
パネルディスカッションの最後は、お決まりの質疑応答でしたけど、びっくりしたのは、筆者の真後ろに座っていた若い女性。『私は、ロシアの音大を出て、NYに来た所です。ビオラです。どうやって、仕事を見つければいいですか?』思わず、振り返って、マジマジ見ちゃいました。こんな質問を聞くとは、思いませんでしたから。
で、パネリストの回答。『とにかくできるだけ、イベントに出かけなさい。それで、コンサートの後、すぐ帰らないこと。そして、ミュージシャンが出て来たら、捕まえて、まず、褒めまくること。これ、大事。それから、自分の感想を言うこと。ほぐれて来たら、ビオラ弾くんだけど、何かないですかねえ、と話をする。こうやって、コネを作ろう』と。勉強になりますねえ。なににでも応用出来そう。
『世の中、やはりコネ。コネが無くても、自分で作る。』パネリストも言ってました。世の中自分より、上手い人はいる、だけど、チャンスをものに出来なければ、どうしようもない。ジュリアードを出た後は、営業活動が待っていると言うことなんですかねえ。
(オーバーリン音大が先週末上演したオペラのピットオーケストラ)
最後に、ジュリアードとかオーバーリンとかの有名音大を出て、順風満帆にオーケストラに入った場合について。(決して、楽に手に入る道ではないですけどね。念のため。)今月の初めに出たニューヨークタイムズマガジンの記事にありましたけど、指揮者のスーパースター、LAフィルの常任指揮者グスターボ・デューダメルのお給料。300万ドル。(3億円ちょっと)LAフィルは待遇がいいので有名ですけど、団員は、15万ドル(約1500万円)。この他、外からの招聘もあるし、年収は、かなりになりますよねえ。団員だって、音大出たばかりで、初任給こんなに貰えるのは、嬉しい。個人レッスンも出来るし。どうですか、皆さん。ちょっと、やる気が起きましたか?
とは言え、ジュリアードを出ても、将来は、保証されていないと言うお話でした。でも、出ないより、出た方が、コネも作りやすいでしょうけどね。どちら様も精進して、頑張って下さい。