東京医科大学の不正入試の件、問題は、他の私立医大にも飛び火してしまって、この騒ぎまだまだ続きそうですね。この事件、色々、考えさせてくれました。
問題は、女子受験生にハンディを背負わせると言うことから始まったようですけど、それに付け加わって、問題になっているのは、浪人生。1浪までは、いいけど、それ以上は、減点対象だとか。逆に寄付金(裏口入学?)を出す人や、親が同窓だったりすると、下駄を履かせてもらえるだとか。問題は、益々、炎上しているようで、受験シーズンも近づいていますから、早く終息してもらいたいものです。じゃないと、受験生もどこを受ければいいのか、分からないし、大学も学生が集まらないだろうし。
何だか、日本の有識者(?)が天下の御意見番よろしく、コメントを出されているようなので、それにどうこう言うつもりは、ないのですが、アメリカの大学進学の視点から、お話をしたいと思っています。
『世の中、フェアじゃない』ことをまず、肝に銘じる必要があると思います。まあ、これは、語弊があるのですが、『どの学生もそれぞれの役割を大学で負わされている』と言うべきか。前々から、筆者は、アメリカの有名大学は、多様性を求めるために様々な処置をしていると言ってきました。そのために、下駄を履かせてもらっている学生もいます。だから、日本で問題になっているテストの点だけから考えると、フェアではない、と言えるかもしれません。例えば、アメリカでは、『成績が学年で1番だったジョンは、アイビーリーグに合格出来ずに、UCLAに行くことになった。でも、学年2番のトムがアイビーリーグに合格した』と言う話は良く聞きます。つまり、トムは、フットボールで活躍して、チームをリーグ優勝に導いたと言うプラス要因とかがあったわけです。大学は、頭でっかちのジョンよりも成績も良くてスポーツも出来るトムの方が魅力的な学生だと判断した、と言う事です。いわゆる『総合的判断』。
じゃあ、何が総合的判断なのか。
特に、有名私立は、自分たちのイメージを大切にしています。だから、男女比率も勿論、考慮している。大体半分・半分になるように。理工系の学部は、女子の数が少ないですから、女子を入れたいと思っている。理工系の女子に与えられる奨学金、と言うのを出しているところもあります。入学事務局の委員会では、受験生一人一人について、合否判定の話し合いが持たれますが、その時に、性別、人種、学校の成績、統一テストの成績、部活、賞罰、ボランティア、等の他に、親がその大学出身かどうか(レガシー)、まで、データとして上がってきます。アイビーリーグもレガシー入学が20%ー40%だとか、あると言われています。びっくりしましたか?
ハーバード大学は、合否を決める委員会で、すべて点数化して判断するらしいですが、その時、レガシーの学生には、始めからポイントが追加されているとか。アイビーリーグの中で、一番レガシーが効くのは、ペンシルベニア大学と言われています。筆者の知り合いにペンシルベニア大学卒業の若い女性がいますが、この人、近々、同級生と結婚を予定しています。それで、彼女と婚約者は、まだ産まれてもいない子供のために、せっかくのダブルレガシーを無駄にしないように、寄付の金額を増やした、と言っていました。子供が出来る前から、大学進学の計画をしている人もいると言うお話。寄付をずっとしていたと言う事をきちんと大学にアピールしようと言うわけです。アメリカの親も子供が有利になるためには、なりふり構いません。
アイビーリーグ大学では、このレガシーは、タイブレーカーとして、使われることが多いようです。つまり、どっちの学生を選ぼうかな、と言う時は、レガシーの学生にする、と言うことです。
『えっ、不公平じゃないの?』と言うのは簡単ですけど、そう言い切れるのか?既に親がこの大学出身と言うことで、ある程度の質を望めること。そして、忠誠心がある。ペンシルベニア大学卒業生の話をしましたけど、特に有名アメリカ大学の卒業生は、本当に愛校心が強くて、自分の大学がもっと有名になってくれる事を望んでいます。実際、社会でも、自分の大学の名前が上がれば、それだけ、自分の為にもなりますしね。だから、卒業後もずっと寄付を続けています。その上、大学の同窓会の名前が入っているクレジットカードまであります。要は、ポイントを自分のために溜めるのではなく、自分の大学にそのポイントを渡している。考えて見てください。こう言う同窓生がずっと卒業後に毎年、寄付しているんですから、一体、総額いくらになっているんだか。そんな人たちの子供が将来大学に行く時に、大学側も温情が働くのは、納得出来るような気がしますけど、いかがですか?これもある意味での大学への貢献。
アイビーリーグのブラウン大学の事務局の人に、このレガシーについて聞いてみました。『優秀な学生を選んで、蓋を開けて見たら、結構、レガシーの子がいるんですよ。レガシーだから、って選んだわけじゃあないんですよ』っと言っていました。(どこまで、丸呑みに出来るかは、不明ですけど。)それに、こう言う指摘もありました。レガシーの学生は、親が既に、同窓生なので、複数のアイビーリーグ大学に受かっても、来てくれる可能性が高い。(ハーバードを蹴って来るかは、ちょっと疑問ですけどね。)それに、レガシーの学生は、始めからそこを本命にしてくれている事が多くて、アーリーディシジョン(一般応募の前に、1校だけ出願を許されている制度)を使って、応募して来る確率が高い、とのこと。受かったら、必ずその大学に入学することがお約束ですから、確実に入学が見込めるので、大学側は、こう言う学生を当然、好みます。
1校だけに出願するアーリーディシジョンではなく、一般応募の場合、合否委員会で公表されるデータには、受験している他大学の名前もリストアップされます。だから、いくら良さそうな学生でも、まあ、うちには、来ないだろうなぁ、と言うのも考慮されることになります。例えば、複数のアイビーリーグ大学がリストされているのを見て、コネティカット大学の合格判定委員会は、まあ、うちは、滑り留めだよなあ、と言うことを思うわけです。(コネティカット大学さん、ごめんなさい。こんな例であげて。とっても良いリベラルアーツ大学だと知っていますからね!)こう言うデータを見ながら、出来るだけ、入学してもらえそうな良い学生を選ばないといけないわけです。だから、日本の私立医大の選定委員会も、総合的な判断にたつとすれば、色々な要因を考えちゃうことになるのかと。
さっき、学生一人一人には、役割がある、と言いました。アイビーリーグ大学は、大金持ちの子供も大勢います。(この人たちからは免除なしの授業料、そして寄付金が期待出来ます。)ですが、親のお金が無くても物凄く優秀な学生もいます。こんな学生たちがここで将来のネットワークを作り出していると考えると良いと思います。大会社の御曹司が大学で、使える頭脳を見つけて、そのまま自分の下に引っ張って来ることもあるでしょう。逆に、頭のいい学生が自分の特許の実現化に投資してくれるコネをここで見つけることもあるでしょう。さっきも言いましたけど、アメリカの有名大学では、同窓会の結束は非常に固いです。卒業しても、同窓生を助けるためのネットワークが機能しています。だから、お金を持っている、と言うのもその大学に貢献する要因になります。学術やスポーツで名を成すのも大学への貢献になります。
もう一度、繰り返します。どの学生にも大学は、それぞれの役割を果たしてもらいたいと思っています。金銭的(ちょっと身も蓋もないですけど、これは、大切)、頭脳、ネームバリュー(ハリー・ポッターでハーマイオニーを演じたエマ・ワトソンはブラウン大学)、人種的な見地(優秀なアメリカインディアンやヒスパニックは引く手あまた)、大学コミュニティーに貢献が期待できる、芸術的才能(あの世界的チェロ奏者のヨーヨーマはジュリアードじゃなくて、ハーバード出身)、スポーツ(タイガーウッズは、スタンフォード)、レガシー(先述)等々。
だから、日本の私立医大も私立なんですから、『入試の点数とその他の要因を総合的に判断して、学生を選びます』で、いいんじゃないですかねえ。私立なんですから。世間からお金をもらっているわけじゃないんですから。その他の要因は、単に、『自分の大学に貢献してくれる学生』と言うことで、十分かと。大学それぞれの事情と言うことで。図書館を親が建ててくれるとか、いいじゃないですか。建てて貰えば、どれだけ、大学全体のためになるか!それより、国民みんなに影響がある国家試験を厳しくして、医師の資格をきちんと審査してもらうことにして。
どちら様も、自分の役割が大いに発揮出来る、大学を選んで下さいね。応援しています!