バークリー音楽大学のちょっと風変わりな実技試験 | 双子をアイビーリーグに入れた母が綴る『知らないと損をするアメリカの教育事情』

双子をアイビーリーグに入れた母が綴る『知らないと損をするアメリカの教育事情』

双子の子供を2人ともアイビーリーグに入学させた母親であるフレックスラーニングのシニアカウンセラーがニューヨーク近郊から発信しています。フレックスラーニングはアメリカ大学進学相談、オンライン家庭教師のプロです。

『あんたのブログは、アイビーリーグだのスタンフォードだの一般庶民には、縁のない話ばかりじゃないの。もっと、一般人が自分の話だと思って読める内容を書いた方がいいんじゃないの?』

 

と言う忠告をロスアンジェルスに住む20年来の友人から貰いました。で、ひねくれ者の筆者は、そんなことを言うなら、もっと普通の人に関係のない大学の話を書くか、と思って、バークリー音楽大学の話を書くことにしました。ちょっと、ザマアミロ、です。でも、自分で自分の首をしめているのかしらん。

 

(バークリー音楽大学)

 

バークリー音楽大学は、変わり種の音大です。普通の音大と言うのは、クラッシック中心で、ちょと、コンテポラリー音楽とかジャズなんかを教えているんですけど、バークリーは、自らのことを『今日の音楽、そして明日の音楽を学ぶための世界最初の研究所』と呼んでいます。そうです。だからここは、ジャズもあれば、ロックもあると言う現代音楽の最高峰教育機関という位置付けです。

 

で、その世界最高峰と言う自負は、果たして、結果を生んでいるのか、と言うと、生んでいると思います。1945年に設立されて以来、ここの出身者が何と283ものグラミー賞を獲得しているんですから!凄いでしょう。ジュリアードだって、到底敵いません。そう言えば、ここ出身の日本人ジャズピアニスト上原ひろみさんもグラミーを取ってますよね。この大学には、グラミー受賞者の写真とかが飾ってあるんですけど、彼女の写真もありました!ちょっと、嬉しい。親戚じゃあ、ないですけど。グラミーだけじゃなくて、オスカーだとか、トニーアワードとか、芸能関係の賞を卒業生が軒並み受賞しています。

 

筆者が好きな漫画に『ブルージャイアント』と言うジャズのサックスプレーヤーを目指す青年の話があるんですけど、この青年の先生が、バークリー出と言う設定でした。『大(だい)君、ヨーロッパでも頑張って欲しいなあ。』(大君と言うのは、主人公の名前で、現段階でヨーロッパを放浪、ジャズ修行中です。)で、この大君の先生も言っているように、バークリーには、ジャズで身を立てたい人たちが世界中から集まって来ます。

 

ロスアンジェルスの友人の術中にハマるのは、悔しいですけど、普通の人は、音大受験のことなんてあまりご存知じゃないでしょうし、ましてや、その中でも変わり種のバークリーの試験のことなんて、『????』ですよね。すみません。順を追って、お話します。

 

ジュリアードとかの普通の音大は、受験生に課題曲を出します。課題曲と言っても、例えば、バッハ作曲のもの1曲。古典派または、ロマン派から1曲。その上、近代・現代(20世紀以降)から1曲なんて具合で、2−4曲弾かされます。それと、聴音と理論のテスト。大体の音大は、数多い受験生を一人一人聞いているのは、堪らないので、まず、録画したものを提出させて第一次審査を通った人だけが、試験官を前にしたライブの実技試験に呼んでもらえます。

 

(普通の音大であるピーボディ音楽大学)

 

余談ですけど、音大は、録音じゃなくて、録画したものを要求します。本人がちゃんと弾いているか、確認出来ませんから。この録画は、もちろん、修正不可。アイドルが(アイドルを決してバカにしていませんから、念のため。他の歌手もそうしますから、ご心配なく)レコードを出す時に、訂正したい部分だけを歌い直して、パンチインしたりするんですけど、音大受験の場合は、ダメです。クラッシックの長い曲を、通しで演奏しないと行けないので、結構、時間がかかります。最後の最後に『あっ、間違った!もう一度!』何てことになると、また、始めからですから。『あああーーー!』ピアノだったら、まだいいんですけど、ピアノの伴奏者を雇わないといけないバイオリンとかだと、結構、辛いです。その分、伴奏者を拘束することになるので、録画に立ち会う親は、財布の中身を計算しながら、冷や汗ものです。それに、録画に使うスタジオ代もかかりますからね。音楽は、お金がかかります。

 

もっと、余談ですけど、音大以外の大学にも、こうして、本人とスポンサーである親の汗と涙の結晶である録画を提出することが出来ます。要は、この録画こそが、どんなに芸能に優れているかを大学に証明する手段にもなると言う訳です。もちろん、どこの音大の課題も似たり寄ったりですから、録画は、複数の音大に有効です。ちょっと、良かったでしょ。

 

やっと、バークリーに辿り着きました。バークリーは、録画を求めず、何と志願者全員、ボストンに集められ、集団実技試験です。集団と言うと語弊があるんですけど、物凄い数の受験者が講堂に集められます。実技試験は、11月と2月。どちらも2、3日あります。凄い人数ですからね。朝の8時から始まりますが、1時間毎の枠があって、100人ずつくらいのグループに分けて、呼び出されます。親も一緒に来ていることが多いので、講堂は、一杯です。

 

講堂のステージには、大きなスクリーンがあって、そこには、1−10番までの番号が出ています。つまり、10の試験部屋があって、そこに試験官が2人づつくらい入っているのです。で、10分おきとかの間隔で、スクリーン上の番号の下に名前と専攻が映し出されます。例えば、『1番 ジョン・スミス、バイオリン』と言った具合です。自分の名前が出るとまずは、各番号の下に置いてある椅子に座って、奥の試験部屋に誘導されるのを待つ仕組みです。

 

で、同じ講堂にいる受験生と父兄は、椅子に座った受験生を見て、『ああ、あの人は、ピアノね。ちょっと、上手そうねえ。』と言った調子で、品定め出来るわけです。バークリーも大学内でオーケストラを組ませたい、とかいう理由があるのか、最近は、積極的にクラッシック畑の学生も勧誘していますが、『クラッシックの子だな』と言うのが、この椅子に座った瞬間に分かるのも一興です。髪を赤とか青とかに染めて、革ジャンで、破れたジーパンを履いているロックギターを抱えた受験生の横に、白いドレスシャツに蝶ネクタイをしめたタキシードの受験生が座ったりするんですから。受験生は、それどころではないんでしょうけど、結構、これは面白いです。ホント、バークリーじゃないと見られない光景です。

 

他の音大と違うのは、音楽年表に従って、課題曲があるわけではなくて、何でもいいから1曲、弾く、または、歌うことを求められます。その他にテストされるのが、聴音と、何とジャズの即興。流石、バークリーですね。聴音は、試験官がピアノで(試験官によっては、他の楽器の可能性もある)弾いた1、2フレーズを聴き取って、自分の楽器で同じように弾いて見せます。インプロビゼーションの方は、試験官が演奏した始めの音と1フレーズを受けて、その続きを即興で演奏させられる訳です。ちゃんと、始めの音を理解すること、そして、即時にリズムとコードプログレッションを掴むことが要求されます。これは、厳しいテストですよねえ。いくら、練習を積んでいても、その時にアガってしまったら、何も出来ずに終わってしまうんですから。クラッシック畑の受験生も、バークリー受験対策を別にしないといけません。彼らは、譜面通りに演奏することを長年、訓練されて来ただけなので。

 

どうですか?このお話、やっぱり役に立ちませんかねえ。そうでしょうねえ。でも、『ふーーん、そうなんだ。』くらい思いませんでしたか?上原ひろみさんに続いて、世界で活躍したい野心のある人も、ただの野次馬の人も、誰でも、バークリーの実技試験には、呼んでもらえますから、世界中から集まる個性的な未来のスーパースターを見にボストンまで行ってみませんか?冗談ですけど。

 

『こんなことを書いてしまったんで、また、ロスアンジェルスの友人から、メールが来るんだろうなあ。。。』気を取り直して、それでは、皆さま、ご機嫌よう!

 

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