子どもの頃、親は絶対的な存在だと思っていた。
怒られるのも、褒められるのも、すべてが完璧に見えたからだ。
でも、大人になり、親になった今、親もまた成長していたのだと気づく瞬間がある。
ボクの母は、お金に厳しかった。
「贅沢は人間をダメにする」
「身の丈にあったことをしなさい」
とよく言っていた。
誕生日かクリスマスにしかオモチャを買ってもらえないルールは、幼いボクには厳しく感じられたけれど、それが母の価値観だった。
母は、幼少期に祖父を結核で亡くし、女手一つで祖母に育ててもらっている。
貧しい生活の中で”コツコツと真面目に生きること”を学び、その価値観をボクにも伝えようとしたのだろう。
でも、そんな厳しい母も、幼いボクにはとても甘かった。
泣き虫で甘えん坊だったボクに、”なんとかしてあげなきゃ”と手を差し伸べてくれる優しさがあった。
母は心配性だったから、初めての子であるボクには特に甘くなってしまったのかもしれない。
そんな母が、怒った夜のことを今でも覚えている。
ある日、夕食中にいたずらをして母の逆鱗に触れ、こっぴどく怒られた。
夜、布団に潜って泣いていたボクのもとに、母がそっとやってきてこう言った。
「怒ってしまってごめんね」
母は涙を流しながらボクを抱きしめた。母の震える声と温かさを感じながら、幼いボクも涙が止まらなかった。
大人になった今、母にそのときのことを聞くと、
「未熟だったから感情をコントロールできなかったのよね。ごめんね」
こう言われて、グッとくるものがあった。
親は完璧ではない。
子どもを育てながら、自分も一緒に成長していくのだ。
そのことに気づいたとき、ボクは自分が親になり、子どもと向き合うことの重みを改めて感じた。
親も未熟さを抱えながら、全力で子どもと向き合う。
だからこそ、今のボクがある。
母が教えてくれたその姿を、今度はボクが自分の子どもに伝えていきたいと思っている。

