手に汗握る泥仕合だった。結果論をいえば中田を降板させなかったことがそれに繋がったように思えるが、引っ張ったことは彼のこれからに繋がるように思う。谷繁の恫喝を活かしてほしい。
赤いアレックスがいる。4回の本塁打は、内角攻めを腕をたたんで打球が弧を描き、同点に追いつかれた悔しさよりもまた見られたという嬉しさが勝った。ウッズも嬉しかろう。相乗効果でスランプ脱出を頼む。最近、試合を見ていなかったが、打線は活発と思っていいのだろうか。井上の心強いこと。
レンタルジャンベはテンションが張っておらず、僕のテンションも上がらない。音とやる気は比例する。集中できなかった。
打面に手が接地している時間はできるだけ短くして、音の開放がジャンベを伸びやかにする。今日は逆の、ミュートの方法を教わった。あえて止めることで切れ味を出す。その後は応用力でバリエーションを広げる。そろそろソロのスキルを教わろうという段階にきていた。時に考え、時に無心で、来週に修理から帰ってくるRe:ヒロシで早く叩きたい。
鏡を見ると長髪になっていた。10年ぶりだ。髪を結わこうとしたらばらばら抜け落ちる。手が真っ黒になった。鏡を見るとすっかりハゲ散らかしていた。
心を折られたところで目を覚ます。汗の量が半端ではなかった。髪に手をやる。頭皮のにおいが嬉しかった。いつかはそうなることとして覚悟はしていたつもりだが、いざ直面すると辛い。いきなりは怖い。徐々に、できることならゆっくりと、せめて生涯の相手が見つかるまでは、粘ってほしいものだ。
電車は空いていた。大股で浅く座り、足を投げ出す。近くにいる人といえば斜め向かいの、清潔そうでない格好をした男性が目につく程度だった。あちこちに汚れがあるズボンの裾をまくり、ふくらはぎをひっきりなしにかいている。かき終わると寝癖頭をかいた。
そこをサラリーマン風のスーツを着た男性が通ろうとしたので足を引っ込めた。僕より5つ上くらいの年頃に見える、僕より5センチくらい背の高い彼は車両を移動するつもりだ。連結部分でドアを開けようとしたがどうやら固いらしい。半分も開かない。しばらく粘ったが途中で諦め、次の駅で隣の車両へ移った。
電車はなお空く。次に前を通ったのは男子中学生で、まだ成長期が訪れていない彼は細く、小さく、長いまつげが学ランよりもセーラー服のほうが似合うのではないかと思わせる。先のサラリーマンが断念したドアに、彼もまた苦戦したが、体をねじまげて開けることができた。
かき終った斜め向かいの男はしばらく口を開けて中吊り広告を見ていた。程なくして「あ」と声を出すとおもむろに立ち上がり、彼もまたあの固いドアに向かう。栄養が足りていないような、先の中学生より細い体で、そこは通れまいと予想したが、油を差したばかりであるかの如くそれはスラリと開いた。実はたくましい。


