近くのコンビニに行くと店先で女子中学生が二人、談笑していた。その内の一人がこちらを見ていて、うかがいながら会釈する。誰だか一瞬分からなかったが、それはディーバ だった。普段は快活に挨拶をしている彼女だが、外では無視されるかもという不安があってぎこちなかったのかも知らん。実際、マンションの中だと彼女と疑わないが、敷地を出ると認識に時間がかかってしまった。
「こんにち、こんばんは」僕は大人の余裕を見せて会釈に応えようとしたが、時間帯を間違えた。それでも作り笑顔を添えたレスポンスで、ディーバは安堵の表情を見せる。分かりやすい子は好きだ。最近はタイミングが合わず歌声を聞いていない。
交通事故でジュリーは重症を負い、目覚めた時に同乗していた夫と一人娘の死を知った。超クローズアップでジュリーの目に医者が映る。彼女の失意が計り知れない。至近距離のカメラがジュリーを追い、息づかいまで聞こえた。
著名な音楽家だった夫は欧州統合の協奏曲を作成している最中だった。彼の友人で協力者ありながらジュリーをひそかに思い続けていたオリヴィエが、未完だったその作曲に着手する。それはジュリーが破棄したはずだったが、オリヴィエはコピーを受け取っていたのだった。楽譜をなぞるとその音楽が流れる。
ジュリーは実生活中にしばしば思考停止に陥った。数秒も暗転しても場面は転換せず、その間には協奏曲が流れる。彼女の頭に失った家族がよぎって、喪失感や焦燥感が表されていた。屋敷と私財を捨ててパリで新しい生活を始めても、ふと、どうしようもない悲しみが襲ってくる。
トリコロールの青は自由を意味しているという。気丈に、勤めて自由に生きようとするジュリーに、ジュリエット・ビノシュがぴったりだった。キェシロフスキの最後の愛の始まり。
個人情報との引き換えに、劇場鑑賞券
が届いた。封を開けると2枚入っている。得をしたというよりも、映画は恋人や友人または家族と、という傾向が当然のごとくまかり通っているようで腹が立つ。恋人はいないし、友人は少ないし、家族と行くのもどうかと思う。なぜなら例えばこの「イーオン・フラックス」を見た直後に誰かから「最近、映画は何を見た?」と聞かれたとしても、センスを疑われることを恐れてこの作品名は出さず、その前に見た作品を挙げるだろうから。
告知
ということで「イーオン・フラックス」に少し興味があり、なおかつ「映画は一人で見るのが基本」と思ってらっしゃる方、いらっしゃいましたら1枚差し上げたいと思います。あて先はこちらまで
。
豪邸が立ち並ぶ閑静な住宅街を朝、歩いた。その中で浮いている家を見つける。白を基調としながら扉や窓の枠は黄緑で縁取られ、ところどころに金色の何かがある。何だろう。分からない。洋館のようでいてそうとも言い切れない。宗教の教祖か、センスが突拍子もない暴力団幹部か。家主は特殊な業界に身を置き、そこでかなりの額を稼いでいそうなたたずまいだった。セコムのシールと防犯カメラで、僕はシャッターが切れない。デジカメを表に出すことすらできない。
門の前に高級車と、その中にはお抱えの運転手。読書をしながら主人を待っていた。狭い歩幅の僕と目が合い、本を助手席にある鞄にしまった。背表紙に「ゴルゴ13」のロゴが確認できた。
メンバー6人は予想以上に年配だった。ついでにロボ宙も若いと思っていたら40近いと知った。ベースの笹沼コネクションでそんなロボ宙とスチャダラパーも参加したSly Mongooseの新作はリズム'n'ムードに磨きがかかる。ダブ系のアーティストに強面またはヤクザ面が多いのはなぜだろう。
“ツボを押さえた引きの美学”は“かわし 欺き 無闇に目立たずに”SDPのリリックが彼らを表すのに端的だった。ベースを中心にギター、ドラム、パーカッション、キーボード、トランペット全ての音が立ったインストバンドを、以前に燻ると言語化
したがそれは正しかった。
SLY MONGOOSE
TIP OF THE TONGUE STATE
ネットの低いセパタクローのようなスポーツをして、兵士たちはつかの間の休息を楽しんでいる。コートには朝鮮半島が描かれ、ネットによってそれは南北に分断された。彼らは北側からのスパイ侵入を防ぐため、海岸線を警備する。“夜7時以降の侵入者はスパイとみなし射殺する”浜辺にそう記された看板が浜辺にあった。
カン上等兵は迷彩を施して任務に燃えた。顔をカムフラージュすると、白目が際立って異様に鋭く見える。彼を演じたチャン・ドンゴンの眼光が鋭く、狂気を帯びていた。夜、海岸にて淫行するカップルをスパイと見間違えて、カンは容赦なく引き金を引いた。上になっていた男は凶弾に倒れ、とどめの手榴弾で四散する。下になっていた女・ミヨンは顔を怪我しただけだったが、気が狂う。カンの狂れ具合もこれを機に本格化していった。
適切な判断として、誤認による射殺でもカンは表彰された。縦社会や隠ぺい工作など軍のあり方を見つめたのは、監督キム・ギドクの5年に及ぶ海兵隊経験によるものに違いない。狂気を生んだのは南北分断と軍気質にあるような、そう語っているように見えた。ラストシーンでは先の朝鮮半島を分かつネットがストップモーションと共に消える。


