なぜだろう?
目新しいというよりは、これほどにもスタンダードなラブストーリーはないと言わんばかりの展開なのに、ものすごく共感できます。
最後の恋にいかがでしょうか。
『世界にひとつのプレイブック』
原 題:SILVER LININGS PLAYBOOK
製作年:2012年
製作国:アメリカ
日本公開:2013年2月22日
上映時間:2時間2分
監 督:デヴィッド・O・ラッセル
キャスト:ブラッドリー・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ロバート・デ・ニーロ、ジャッキー・ウィーバー、クリス・タッカー、アヌパム・カー、シェー・ウィガム、ジュリア・スタイルズ、ブレア・ビー
「世界にひとつのプレイブック」、なんと最85回アカデミー賞に、作品賞、主演男優賞(ブラッドリー・クーパー)、主演女優賞(ジェニファー・ローレンス)、助演男優賞(ロバート・デ・ニーロ)、助演女優賞(ジャッキー・ウィーヴァー)、監督賞、脚本賞、編集賞の8部門がノミネートされました。
そして、見事ジェニファー・ローレンスが主演女優賞を受賞されました。
ジェニファー・ローレンスさん、1990年8月15日生まれですから、御年22歳になられます。
「あの日、欲望の大地で」(2008)ではメリル・ストリープの再来と言われ、「ウィンターズ・ボーン」(2010)ではありとあらゆる映画賞にノミネートされました。
そして、弱冠22歳という若さでアカデミー賞主演女優賞という頂点を極めました。
個人的にはあまり得意ではない顔立ちなのですが、その肉体から放たれるパッションにどことなく惹かれてしまいます。
では、感想です(ネタバレあるかもしれません)。
プレイブックとは「作戦図」のことです。
「世界にひとつだけのプレイブック」を、みんながそれぞれひとつずつ持っているんだと、この作品は気づかせてくれます。
好きな人ができたり、自分がしたいことをするためにだったり、自分のビジネスのためにだったり……みんな、ああしようこうしようって、自分の行動を中心にして周りの人を動かそうと考えたりしますよね。
それがプレイブック(作戦図)です。
男女の間なら、それがどこかでかみ合ってくると恋がはじまり、2人のそれぞれのプレイブックがひとつになることでハッピーになれると。
2つのプレイブックがひとつになれないと、結局は離れていくことになるのかもしれません。
ティファニーとパットのそれぞれのプレイブックが痛いくらいに突き刺さってきます。
何度も何度も同じパンチを食らってしまうようなことばかり、それぞれの身に降りかかります。
それは、2人が少しだけ普通の人よりも心に傷を負っているから、つい引き寄せてしまうのかもしれません。
それでも、この2人、なぜだかワクワクさせてくれるから不思議です。
高校教師をしていたパットは、妻と同僚の浮気の現場を目撃してしまいます。
このときに流れていたのが、自分たちの結婚式で流したスティービー・ワンダーの「My Cherie Amour 」です。
妻の浮気もさることながら、結婚式の曲をバックに浮気していたことがトリガーになります。
パットは妻の浮気相手に暴力を振るい、妻への接近禁止命令が下されます。
妻の浮気が原因で、パットは心のバランスを崩してしまいます。
友人宅の食事会で、事故で夫を亡くし、自暴自虐からか職場の男性全員と寝てしまうティファニーと出会います。
彼女も切れやすく心のバランスを保つのが精一杯な人生を歩んでいます。
ティファニーは立ち直るためにダンスコンテストの参加を決め、パットをパートナーにします。
いやがるパットに、ティファニーは、私ならパットの妻に手紙を渡せるチャンスがあるとほのめかします。
2人の利害関係が一致します。
利害関係が一致するということは、2人のプレイブックが同じ方向に動き出したということです。
自分のことを好きだと思ってくれている相手に恋の悩みを相談したりしているうちに、多少なりとも、意識はじめたりする……直球すぎるくらいまっすぐなストーリーです。
ただ、「世界にひとつのプレイブック」の場合、男女ともに精神的な障害を抱えていて、何がトリガーとなって心のバランスが崩れていくのか、本人はもちろんのこと、周りもわかっていないということが現実的でリアルです。
そして、心のバランスがギリギリのところにいるからこそ、普通の人なら日常的に何の問題がないことでも小さなトリガーとなり、それが重なりあって大きなトリガーとなってしまうのです。
さらに、普通なら回避できるであろうその何でもないような日常の出来事に、なぜか巻き込まれていくのも、心のバランスを崩した人たちの特徴だったりするのかもしれません。
そのあたりの、描き方、絶妙だと思います。
なんで、なんでと観ていて、ちょっとやきもきしてしまいます。
この心のバランスのポジションといろいろなことに巻き込まれたり、友達に支えられたり、家族に助けられたり、すべてが現代における現実的な側面を兼ね備えているのが好感を生むのかもしれません。
ティファニーはパットから妻への手紙を預かろうとしなかったり、預かったり、そして、返事をもらってきたと、妻らからの手紙にパットに渡します。
この手紙にもしかけがあったり……。
そのあたりすべてが互いのプレイブックに則っているのですが、やはり、こういったところは女性の方が上手な気がします。
ダンスコンテストは、参加者のほとんどがプロ級の腕前のなか、パットとティファニーも健闘します。
ダンスコンテストの会場にはパットの妻も来ています。
ダンスが終わったあと、パットは妻のもとに歩み寄り、耳元で何やらささやきます。
その姿を見たティファニーは、ダンス会場から走り出ていってしまいます。
ロバート・デ・ニーロがパットの父親役で出ているのですが、その存在感たるや、さすがです。
職業はアメフトの試合の勝敗で賭けをするノミ屋。
イーグルスが勝つための験担ぎ(げんかつぎ)をしたり、ティファニーとの絡みも絶妙です。
パットの父親も多少心のバランスを崩しているのでしょう、実はアメフトの試合が行われているスタジアムには近づいてはイケないようです。
みんな壊れそうな心を持ちながらも、素敵に暮らしているのは、やっぱり母親の愛情であり、家族愛です。
どうという捉え方はされていませんが、何でもないことだけど、帰るところがある日常の美しさ、守っていくという誇りを感じることができます。
話は戻りますが、ダンスが終わったあとに、パットが妻と何やら話ているのを見て、パットの父親は、パットに、おまえを捨てた妻ではなくティファニーとの恋を選ぶように背中を押します。
パットの気持ちの舵を取らせたひと言がこちら。
「今が人生の選択の時だ」
素敵なお父さんです。
パットは去っていこうとするティファニーを捕まえ、
「過去にとらわれて気づくまで時間がかかった。
君が僕の“希望の光”だ」
と、強く抱きしめます。
終わり方も、圧倒的にありがちなのですが、なぜでしょう、ハッピーエンドも悪くないって、素直にハートが熱くなりました。
そう、この映画に共感してしまうのは、互いにいろいろなことがある人生を生きてきたのは百も承知で、今、目の前の君が僕には一番ピッタリな人だなんだと、気がつく出逢いができたことの素晴らしさを、理解させてくれるからかもしれません。
やっぱり、「最後の恋の見つけ方」というのが共感してしまいます。
ジェニファー・ローレンス、アカデミー賞の授賞式にフレアのロングドレスで灯除しています。
主演女優賞の栄冠を勝ち取って壇上に上がろうとしたとき、ドレスの裾を踏んで転んでしまいました。
ジェニファー・ローレンスさん、なかなかセクシーな肉体をされています。
セクシーといえば、パット役のブラッドリー・クーパー、今や“世界で一番セクシーな男”と呼ばれています。
なかなかいい男です。
世界にひとつのプレイブック (集英社文庫)
マシュー・クイック 佐宗 鈴夫
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