10/28(土)
日を追うごとに秋色は濃くなっていく。
長良川から夏の喧騒は消え去り、澄んだ青空の下を滔々と流れている。
あれだけ賑やかだった長い瀬にも人影はない。
久しぶりに郡上美並の福手さんのところに遊びにいくと、工房には留守で、奥さんに聞くと川らしい。
早朝から網漁をしてるとのこと。
「昨晩に夕立があっただろう…」
この時期の落ち鮎は、少しの水位変化と濁りをきっかけに一斉に下るのだという。
それも、未明から夜明け頃に群れで動くらしい。
そんな長年の経験による読みで、昨晩に入れた夜網を今朝上げると沢山の鮎が掛かっていたとのことだった。
更に下ってくる鮎を、今度は投げ網で狙っていたのだ。
風も無い小春日和の土手に二人で座り、網を解きながらいろいろな話をした。
福手さんも、もう88歳。
体を心配した奥さんが川に行くのを止めるのだが、どうしても鮎が気になって仕方ないのだと言いながら笑った。
若い頃から、もう何十年も鮎釣りと網漁で生きてきた漁師の血が騒ぐのだ。
尽きない話の途中で突然…
「見てみろ」
と川面を指さした。
いつのまにか鮎の大きな群れが来ていた。
音もなく、すっと立った福手さんの右手には投げ網が握られてる。
水面を睨むそれは「漁師の目」だった。
じっと群れの動きを読んでいる。
直後、右手がピクリと動いた。
迷いも無駄もない一瞬の動きだった。
手から放たれた網が鮎の群れを囲むように広がって川面に落ちたと同時に、手前に小石を投げて鮎を網に追う。
年齢などまったく感じさせない見事な技だった。
覗くと、水中では20匹ほどの鮎が網の中で銀色の身をくねらせていた。
福手さんはゆっくりと舟を出し、慣れた手つきで網を上げていく。
それでも、今年の鮎は小さいという。
網に掛かった鮎を外していると、福手さんが
「今日はそろそろ終わりだな」
と言った。
直後、それまで鏡のように静かだった水面に強い風が吹きだした。
老漁師には、川のことは何でも分かるらしい。
昨年の今頃は一日で60㎏も獲った日があったというが、この日の漁では15㎏。
昼になり、川から舟を上げる。
この古舟も作られてから33年もの長い間、福手さんと一緒に長良川をみてきた。
鮎が落ち終わると、長良川もいよいよ長い冬に向かう。