有名な自然科学系誌も話題性で記事を書く? | プロライトジャパンのブログ

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19世紀に創刊されたナショナルジオグラフィック誌の記事にも話題性重視か、誤解を招く記事が有りました。

 

偶然、私が知っているカテゴリーだったので発見できました。と言う事は他にも有りそうです。

 

National Geographic Magazine は最近の記事「夏は金色で冬は青くなるトナカイの目、どうなっている?」の記事に何箇所か気になる記載が有りました。

 

高緯度地方/極地の夜空はディープ.ブルー/青いとよく聞きます。

 

北緯78度の冬期夜間のブルーの光

 

今回のポイントはトナカイの眼が、高緯度地方(極地)の夜の青い光に適応進化している事でした。

 

トナカイの眼の網膜の後ろに有る輝板(タペタム)の反射光が冬はブルーに変化する事が他の動物との違いになりま。

 

多くのネコ科、犬科のタペタムの色は黄色系と聞いています。反射光の色はエメラルドグリーンです。

 

グラフの498 nm が暗い時の視神経 桿体細胞(Rod Cell)の感度ピークが498 nmの光(エメラルドグリーン)だからでしょう。

 

 

 

 

文中の「空に巨大なフィルターがかかっているようです。そのフィルターが、オレンジの光を取り除いて、青色だけを通過させるわけです」

 

フィルターは間違いです。

 

極夜の空が青いのは地平線下の太陽光の短波長光の方が多くレイリー散乱で大気中に拡散しているからです。

 

可視光線の波長は上のグラフの様に短波長から(紫外線:不可視光)「バイオレット、ブルー、エメラルドグリーン、イエロー、オレンジ、レッド」(赤外線:不可視光)です。

 

下は左が短波長、右が長波長:数字上は周波数(単位:THz)、下が波長(単位:nm)

 

レイリー散乱は可視光線とその前後の波長の全波長を散乱しています。

 

レイリー散乱の波長毎の散乱率の違いと太陽光の波長の比率が極地の夜をブルーの世界にしています。

 

散乱の量が波長の4乗に反比例するので、長い波長の散乱が大きく減ります。

 

結果、波長が短いブルー、ヴァイオレット、紫外線の比率が大きく増えます。

 

450 nmの青色光と630 nmの赤色光の場合は青色光のレイリー散乱は約3.8倍になります。

 

更に、太陽光の成分バランスは460 nmのブルーの光がピークです。

 

直射日光の波長ピークは約460 nmの青色光です。

 

下のグラフの解説

1:イエロー表示は大気圏外(宇宙空間)の太陽光波長分布グラフ

2:レッド表示は地表面の直射日光の波長分布グラフ

3:イエローとレッドの差分がレイリー散乱、水蒸気、大気成分の散乱&吸収

4:酸素 (O2), 水蒸気(H2O)の吸収はグラフに記載

5:左側:"Visible"のエリアのイエローとレッドの差がは上のレイリー散乱のグラフの形状と類似形です。

6:下図, "Visible"のイエローとレッドの差分がレイリー散乱で「太陽光から大気中に散乱したブルーが多い光」になります。

 

地球の昼間、青空が明るいのはレイリー散乱が有るからです。

 

逆に大気が無い宇宙空間では太陽が見えていても、光源の太陽以外は真っ暗です。

 

ハッブル宇宙望遠鏡は、事実上何時も太陽が見える位置に有りますが。

 

しかし周囲に散乱光が無いので地球上のどの望遠鏡よりも遠方の星の写真撮影が可能です。

 

これがレイリー散乱の有無の違いです。

 

 

高緯度地方の日没時です。

 

乾燥した大気でのレイリー散乱(極地よりは低緯度ですが、欧州では頻繁に見られる色調です。)

 

 

レイリー散乱以外の夜空が青い理由

 

次の「極夜の薄明りは夏の昼間と比較すると10万分の1以下の明るさ

 

1/100,000と書くと凄い差と感じます。人間が行動可能なのか?と思うでしょう。

 

夜間に昼の1/100,000の明るさは特に暗いことは有りません。

 

明るい晴天時の満月の夜の4〜5倍の明るさです。

 

晴天、新月の夜=大気光&星明かりの数百倍の明るさです。

 

参考に中緯度地域の夜間の照度です

快晴の正午の直射日光:70,000-100,000 lx(ルクス)湿度、大気汚染などで変化

曇天:30,000 lx 前後

精密作業をする室内:1,000 lx

オフィス:300-500 lx

リビングルーム:100-200 lx (日本は200-300lx)

夜間の歩道:20-100 lx

夜間満月:0.2-0.25 lx

夜間 月明り無し=大気光 Only:0.002 lx (中緯度地域)

夜間曇天月明り無し=星明かり Only:0.0001 lx

 

 

極夜の2番目の光源は中緯度&低緯度地方と同じ大気光(Airglow)です。

 

大気光(Airglow, Nightglow)という高高度の大気中の化学反応からの光です。

 

大気光(Airglow):1

 

大気光:2

 

十分青い光です。

 

人間も夜行性の動物も月が出ていない夜はこの大気光を頼っています。星明いははるかに光量が少なくなります。

 

3番目の光源は高緯度地方の特殊な雲からの光です。

 

高度80km付近の夜光雲(Noctilucent cloud)

 

 

次の誤解を生む表現です。

 

「トナカイはそれよりも短い波長の紫外線まで知覚できる。紫外線は人間の目には有害で、雪目などの損傷の原因となる。」

 

人間も紫外線も見える素養を持っています。

 

下の"S"のラインが人間の視神経の錐体細胞(Cone Cell)の内、ブルー&バイオレットに反応する視神経の感度曲線です。

 

365nm前後の紫外線にもピークの50%程度の感度を持っています。

 

人間が紫外線を観られないのは、角膜と水晶体が紫外線を吸収するからです。水晶体を手術で取り除いた人は紫外線が見えると聞いています。

 

他にも鳥類、爬虫類、哺乳類の一部、には4色色覚で紫外線をずっと積極的に見られる生物もいます。

 

文中の「暗闇でトナカイの瞳孔が開き、目の中を流れる水を排出する小さな出口がふさがれ、眼圧が上昇する。すると、輝板のコラーゲンが圧迫されて、水晶体の形が変わる。」

 

輝板は網膜の裏です。水晶体とは反対の位置ですね。

 

これは「水晶体が薄くなり紫外線透過率が上がる」と推測します。

 

人間が雪目などの目の炎症を紫外線で起こすのは、雪に反射した紫外線での炎症です。

 

直射日光にも十分紫外線は含まれています。太陽光の紫外線が危険なら昼外出できません。

 

極夜の1/100,000の光の量の場合は問題は起きません。

 

「トナカイの眼の輝板の色が冬は青くなり、極夜の光の環境下で大きく進化した。」

 

だけに絞って記事を書いて欲しいですね。

 

また太陽光にフィルターがかかり、という様な誤解を生む表現はやめて欲しいです。

 

写真:Copy Right  Wikipedia