レッドラムの騒動から発展した鬼邪高と鳳仙学園の戦いは、双方を襲撃して争わせるよう仕向けたのがDOUBTだと判明し収束、そのDOUBTも創設者の蘭丸がWhiteRascalsのリーダー・ROCKYに倒されたことで、SWORDが大混乱に陥る事態は免れたと思われたが・・・この日、マジ女の生徒会室に集まっていた一行は深刻な表情を浮かべていた。
さくら「・・・鬼邪高の、校舎が・・・!?」
ミュゼ「ええ・・・番長の村山が全日と鳳仙の戦いを仲裁しに行った間に、九龍の構成員達が人の少ない校舎に攻め入って、火災を引き起こしたらしいわ。無名街の時よりは火の勢いが弱かった方だけど・・・」
プリンセス「なんてこと・・・鬼邪高と鳳仙の戦いで生まれた隙を、よりによって九龍に突かれるなんて・・・!」
シンガー「DOUBTって、九龍との関係もそんなに浅くなかったよね?手柄の独り占めもいいとこだよ・・・」
シャドウ「Rascalsに加勢した達磨も仕切っていた鉄火場が荒らされて、山王街も多くの店が立ち退きを迫られている状況だ」
ウサギ「そんな・・・」
シャドウ「・・・話によると、DOUBTとSWORDの決着がついた黒白堂駅に善信善龍が現れたらしい」
ツル「善信、善龍・・・?」
ミュゼ「今の九龍は総裁の跡目を決める為の二大派閥に分かれているところもあって、その内の一派を率いているのが最大規模の構成員を従えた暴君・・・善信善龍なのよ」
メンドウ「それって、九龍の中でもかなり偉い人ってことですか・・・!?」
シスター「そんな人達に喧嘩を売っちゃって、大丈夫なのかな・・・?」
ゼロ「総裁の九世龍心が1回逮捕されてる以上、遅かれ早かれ連中が動き出すのは分かってた・・・でも、流石にこの状況はまずい」
タイヨウ「DOUBTやMIGHTYの襲撃も、鳳仙との戦いも・・・何もかもが、九龍の思い通りに運んでたっていうの?」
ツクヨミ「・・・また・・・」
さくら「菜緒・・・?」
ツクヨミ「・・・また、こんな風に・・・お姉ちゃん達がいた頃のマジ女も、捨照護路に情報を売られてから悲劇が続いた。先代の部長の死も、土地が買収される動きも、ヤクザとの抗争も!全部、あいつらの掌で踊らされて・・・っ」
かつてのマジ女に降りかかった悲劇と同じように、全てが九龍の思い通りに事が運んでしまっていることに、やりきれない悔しさを感じるツクヨミ。さくら達も同じ思いを抱いていると、そこにモデルとプッシュが慌てた様子で走って来た。
モデル「・・・ねえ!矢場久根の奴らが、変な連中に襲われてるみたいよ!?」
ウサギ「矢場久根が・・・!?」
シンガー「九龍の奴ら、捨照護路との同盟をチャラにしたあいつらを今になって・・・!?」
プッシュ「いや、九龍の使いっぱしりがどうかは分かんねえんだけど・・・ただ、如何にもチャラそうな男が4人くらいそいつらを率いてるみたいで・・・!」
ツル「チャラそうな・・・?」
ゼロ「・・・!まさか、MIGHTY WARRIORS・・・!?」
さくら「えっ・・・!?」
ゼロ「湾岸のコンテナ街で、スモーキーを襲ってた奴らと一緒にいた金髪の肌黒男・・・あいつは『Change or Die』っていうMIGHTYのメッセージを口にしてた。その4人の見た目がそいつと似てるっていうんなら、多分MIGHTYの仲間・・・!」
プリンセス「あそこにはシュラ達がいるけれど、いくら喧嘩に強い彼女達でもその連中が相手じゃ・・・!」
ツクヨミ「・・・っ!」
タイヨウ「待って、ツクヨミ!」
おそらくは矢場久根の校舎に向かおうと、1人で飛び出そうとしたツクヨミ。しかし、タイヨウの声が彼女を呼び止めた。
タイヨウ「・・・言ったでしょ?『あまり1人で突っ走り過ぎないで』って。ツクヨミの考えていることは、私達にもすぐ分かるよ」
ツクヨミ「・・・タイヨウ」
さくら「行こう、菜緒。シュラさん達を助けに・・・!」
さくらやタイヨウ、他の仲間達も2人に同調するかのようにツクヨミを見つめる。ツクヨミは支えてくれる仲間や友がいることの有難味を感じながら、意を決して皆に言葉を発した。
ツクヨミ「・・・今は少しでも、私達にできることをやる。九龍の目的の為に、これ以上犠牲を出させたりしない・・・!」
さくら「・・・うん!」
ツクヨミやさくら達は矢場久根の救援に駆け付けるべく、生徒会室を後にした。残ったシャドウとミュゼは、ある件について話し合っていた。
シャドウ「・・・ミュゼ。ネズミさんから伝えられたSWORD周辺のヤクザ、ギャングの殺害事件は今も続いているのか?」
ミュゼ「いいえ、ここ最近はその動きが全く無いそうよ。でも山王からの話だと、善信会に2人組の若い女が付いて行ってたとか・・・」
シャドウ「或いは以前、うちの校舎を襲撃した奴らか・・・ネズミさんの推測通りに、九龍があの施設の情報に手を出していたとしたら・・・それとも、九龍とは別の組織が動き出しているのか・・・?」
かつて、腕の優れた暗殺者を生み出そうとしたことが発覚し、廃棄処分されたとある施設・・・シャドウとミュゼは、九龍と関係している別の組織が、その情報を利用しているのではないかと考え込むのだった・・・
その頃、矢場久根女子商業の校舎――そこでは、不良少女達が謎の荒々しい男の集団と争っていた。総長のシュラと、彼女に付き従うハンター、スパイク、リッスンが中心となって彼らを迎え撃つ。
ハンター「ハァッ!・・・ったく、何だっていうのこの男臭い集まりは!?」
スパイク「どいつもこいつも、荒い息を吐きながらぶつかってきよる!」
リッスン「この格好・・・こいつら全員、羅千とこの囚人や!」
スパイク「羅千の!?何でそんな奴らが普通に外出とんねん!?」
シュラ「・・・あいつらの差し金かもね」
羅千刑務所から出て来たとされる囚人の1人を殴り倒したシュラは、その視線をとある一団に向けていた。それは、マジ女でプッシュが話していた通り、如何にも洒落たファッションに身を包んだ4人の男達だった。
???「ワーオ・・・矢場久根とかいう奴ら、結構楽しめそうじゃんか」
???「そうだな。仮面を被ったヤンキーばかりでロクなのが1人もいねえかと思ったら、こんな可憐な乙女が隠れてたなんて・・・神に感謝しねえとな」
ハンター「はぁ?意味分かんない台詞を吐きやがって・・・」
???「JESSE、そろそろ俺達もPartyと洒落込もうぜ!」
???「・・・やらなきゃ駄目か?」
JESSE「まあお仕事ですからね・・・PHO、BERNIE、PEARL!丁重におもてなししてやれよ?」
PEARL「OK・・・Let's Go!」
JESSE、PHO、BERNIE、PEARLといった4人の男は、それぞれ矢場久根の主格であるシュラ達と一騎打ちを始めた。身のこなしが軽いJESSEとBERNIE、高い腕力を持つPHOとPEARLに、ラッパッパ四天王と互角以上に渡り合える実力者のシュラ達ですら、苦戦を強いられるようになった。
リッスン「この半端ない強さ、やっぱこいつらMIGHTY WARRIORS・・・!」
シュラ「噂の傭兵集団って奴?面白そうじゃん・・・!」
JESSE「お前も楽しんでんのか。その心意気・・・嫌いじゃないぜ?」
シュラ「そう。でもアタシ・・・そのチャラさはどうも調子狂うわ・・・!」
羅千の囚人達を巻き込みながら、シュラとJESSEは激しい攻防を繰り広げる。この双方の戦い、軍配が上がるのはどちらなのか――?
一方、MIGHTYの襲撃を受けたシュラ達を助けようと、矢場久根校舎へとひた走るさくら、ツクヨミ達。だが、その眼前に監獄施設の囚人や看守らしき服装に身を包んだ男女入り交じりの軍団が立ちはだかる。
???「マジ女のラッパッパ・・・ここから先へは行かせないわよ?」
さくら「貴方達は・・・!?」
???「ウフフ・・・まんまとこっちの誘いに乗ってくれたね」
タイヨウ「誘い・・・?どういうこと!?」
???「鬼邪高を含めたSWORD各地が大打撃を受けてるこの状況で、動けるのは貴女達マジ女と矢場久根ぐらい・・・だからMIGHTYの矢場久根襲撃は陽動で、こっちの本当の狙いは貴女達の首だよ」
ゼロ「MIGHTYの襲撃が、私らを誘う為の罠・・・!?」
???「無名街を燃やされたRUDEがコンテナ街に行った時、貴女達は最初からスモーキーを討ち取る為の作戦だと気づいた・・・意外と仲間思いなんだよね?だから・・・それを逆手に取ったんだよ」
ツクヨミ「・・・っ!」
プリンセス「貴方達は何者なの・・・?九龍の味方だっていうの!?」
バイオ「ああ、そういえば自己紹介がまだだったわね。私達はカジノ計画に賛同する組織<クライシス財閥>に雇われた団体・・・ちなみに私は、コードネーム・バイオ」
ラブ「私はラブ・・・マスターのお願いだから、貴女達にはここで遊んでもらうよ!」
ラブの合図で、敵の男女達は一斉に突撃しマジ女一行に襲い掛かる。一般の不良よりも戦闘力が高い男女の群れは、それぞれ数人のグループでツル達や四天王に畳み掛けていった。
メンドウ「この人達、前に学校を襲ってきた時と同じ群れの人だよね!?」
シスター「キャアッ!?どんどん襲ってくる・・・!」
シンガー「鳳仙に比べたら、まとまりがないだけまだマシよ!」
シンガーやウサギ、プリンセスは怒涛の攻めに生じる一瞬の隙を突き、男女の群れを蹴散らしていく。モデルとプッシュも連携攻撃で囚人服の男を圧倒し、後ろにいた数人も巻き込んで吹っ飛ばしたが、そこには中の火が燃えていたドラム缶まであり、ぶつかった数人の体が火に触れてしまう。
プッシュ「しまっ・・・!?やり過ぎた!」
ドラム缶にぶつかり、半身が燃え上がってしまう敵の男女達だったが、何故か彼らは恐怖を感じるどころか、不敵な笑みを浮かべて立ち上がった。
モデル「なっ・・・!何ヘラヘラしてんのよ、体が燃えてるのよ!?」
プリンセス「他の奴らも、何度倒してもゾンビのように起き上がってくる・・・!」
捻くれた動きで何度も起き上がる敵の団体に、困惑し出すマジ女一行。彼女達を見て嘲笑っていたバイオは、思いもよらぬ話を語りだした。
バイオ「無駄よ。その程度の痛みを与えても彼らには関係ない・・・何故なら、薬の投与で多少の痛覚を感じなくしてるから」
ツル「えっ!?薬を・・・!?」
バイオ「DOUBTがかなりの量のドラッグを隠し持っててさ。そいつを使って九龍に侵攻して、下っ端がゾンビもどきに手こずってる間に頭の首を獲ろうと考えてたんでしょう・・・勿体ないから、それを全部私達が奪ったんだよ」
ウサギ「それを、この人達に飲ませたっていうの・・・!?」
ゼロ「アンタら・・・人の命を何だと思ってんの?」
ラブ「彼らの場合はただの駒・・・貴女達の場合は、おいしそうな獲物?アハハッ!」
さくら「・・・許せない」
ツクヨミ「さくら・・・!?」
さくら「周りの誰かを同じ人間だと思わない・・・そんな事をする貴方達が、私には許せない!」
クライシス財閥という一団の愚行に怒りを燃やすさくらは、ゼロと共に群れを率いるバイオとラブに殴り掛かる。これに対し、バイオとラブは鋭い身体能力を発揮し、2人の攻撃を受け流しつつダメージを返していく。
ゼロ「くっ、強い・・・!?」
さくらは何度もバイオに殴り掛かるが、これを回避するバイオは片手でさくらの首を強く掴み、彼女の腹に手刀をくらわせようとした。
バイオ「はい、お終い」
さくら「ぐぅ・・・っ、ああぁぁぁっ!」
バイオの手刀を咄嗟に片手で捕まえたさくらは、勢いよく体を捻ってバイオを放り投げる。一方ゼロも、蹴りや拳をガードし続けるラブに苦戦を強いられ、再度拳を振り下ろした隙を突かれ体に抱きつかれる。
ラブ「貴女、喧嘩になると結構熱いんだね。私が抱いて、癒してあげようか・・・?」
ゼロ「うっ・・・!?寄るな!」
ラブに体を絞めつかれようとしたゼロは、彼女を頭突きして引き剥がし、上半身を蹴り飛ばす。それでもラブはあまり苦痛を感じていないようだった。
ラブ「フフ、つれないなぁ・・・」
バイオ「そう簡単に痛めつけさせてくれないみたいだね。まあ、こっちも本気を出してるわけじゃないけど・・・」
ゼロ「何なんだよ、アンタ達は・・・!?」
バイオ「シンゲキとグンソウも言ってたでしょ?私達はそこらへんのヤンキーとは違うって」
ラブ「私達は・・・<プリズンHOPE>で育てられた<クリーナー>なんだよ」
タイヨウ「プリズンHOPE・・・!?そんな、あの施設はとっくに廃棄されてるはずじゃ・・・!」
バイオ「だから・・・私達はその前に施設での教育を終えて、財閥に直属の暗殺者として雇われるようになったんだよ」
ツクヨミ「前の連中も、クライシス財閥に雇われていたクリーナー・・・」
さくら「何でそんなこと、迷いもなくできるんですか・・・暗殺って、人の命を奪うことなんですよね!?」
ラブ「それが私達の仕事・・・身寄りのない私達は、そうでもしないと生きていけないからさ」
ゼロ「吹っ切れたどころか、狂ってるよアンタら・・・!」
バイオ「フフフ・・・私達が狂ってる、か・・・でもあれに比べたら私達なんて優しい方だよ?」
さくら・ゼロ「え・・・っ?」
プリズンHOPEで育てられ、財閥の暗殺者として活動するバイオとラブの言葉に疑問を抱くさくら達。その時、戦いの場にゆっくりと歩を進めるもう1人の影があった。
ウサギ「・・・あれ?」
ツル「また、誰かがこっちに・・・?」
ツル達や四天王と、薬に侵された敵の一団の争いに、堂々と割り込んでいく人物。顔をフードで隠し、その下にはバイオ達と似たような服装を纏い、異様な存在感を醸し出していた。
ラブ「・・・来た来た」
さくら「あの人は・・・?」
バイオ「西野七瀬、コードネームはキバ・・・私達の後に財閥に雇われたけど、マスターにとっては最高傑作のクリーナーだよ」
西野七瀬、キバ・・・その2つの名を呼ばれた人物はフードを降ろし、その素顔を晒した。見た目は美しい容姿をしているが、伏せがちな眼差しからは静かに殺気が放たれていた。
ラブ「キバ、もう仕事は始まってるよ?」
キバ「・・・この子達を、やればいいの?」
ツクヨミ「貴女も、財閥のクリーナー・・・」
キバ「・・・だったら、何?」
ツクヨミ「貴方達のような連中に、これ以上私達の居場所を荒らさせない・・・!」
タイヨウ「ツクヨミ、2人で一緒に行くよ!」
ツクヨミ「うん・・・!」
ツクヨミとタイヨウは、2人がかりでキバに勝負を挑む。だが次の瞬間、キバはさくら達と戦うバイオやラブと同等・・・否、それ以上の速さで蹴りや掌底を繰り出し、ツクヨミとタイヨウを吹っ飛ばした。
ツクヨミ「うぐ・・・っ!?」
タイヨウ「は・・・早い・・・!」
キバ「・・・!」
すかさずキバは起き上がろうとしたタイヨウに膝蹴りをくらわせ、ダウンした彼女を立たせた直後に回し蹴りで一蹴。そこにツクヨミが攻撃を仕掛けるも、キバは両手の動作で軽々と連続パンチを弾き、ツクヨミの胸に掌底を打ち込んで蹴り倒す。
ツクヨミ「ぐは・・・っ!」
さくら「菜緒っ!」
バイオ「勝てるわけがないわよ。なんせあの子は異国の武術を取り入れた殺人拳の使い手だもの」
さくら「殺人拳・・・!?」
タイヨウ「くっ・・・うああああっ!」
再びタイヨウがキバに挑むが、彼女はタイヨウの動きを冷静に見切りつつ掌底や鉄拳を交互に叩き込む。尚も立ち上がろうとするタイヨウだが、体のダメージが激しいせいか、思わず吐血してしまう。
タイヨウ「かはっ・・・!はぁ、はぁ・・・っ」
ツクヨミ「っ!?タイヨウ・・・!」
キバ「他人の心配をしてる場合・・・?」
少量の血を吐いたタイヨウに気を取られたツクヨミは、キバに懐に接近され胴体に手刀を受けてしまう。さらに回し蹴りを腹にくらわされ、体を逆方向に捻ったキバの拳を顔に受けて地面に叩きつけられた。
ツクヨミ「ぐあぁぁっ・・・!」
さくら「菜緒!タイヨウさんっ!」
2人が一方的にやられる状況に耐えかねたさくらは、勢い強く走ってバイオを突破し、キバに殴り掛かる。しかしキバは動揺することなく、さくらの背後に回り込んで手刀で首筋を打つと、さくらが振り返るのと同じタイミングで二度殴りつけ、腹に連続攻撃を仕掛けて返り討ちにした。
さくら「うあああああ・・・っ!!」
ツクヨミ「さく、ら・・・!」
タイヨウ「止めて・・・それ以上は・・・っ!」
さくらを圧倒するキバを止めようとするツクヨミとタイヨウだが、キバの蹴りや拳、掌底を顔面と腹部にくらってしまい、体力を大きく削られてしまう。
ツクヨミ「ぐ、うぅ・・・っ」
タイヨウ「はぁ・・・はぁ・・・っ」
ゼロ「くっ!あれじゃヤバい・・・!」
ラブ「ダメだよ。貴女だけは私達と遊んでくれないと・・・」
さくら、ツクヨミ、タイヨウがキバの猛攻に倒れていく様を助けたいゼロだが、ラブとバイオに行く手を遮られてしまう。それを余所に、キバの足は弱弱しく立ち上がるツクヨミに近づいていた。
ツクヨミ「う・・・くぅ・・・」
キバ「・・・暗石は貴女を放っておくと面倒だと言ってた。だから・・・貴女の命を喰らってあげる」
さくら「な、菜緒・・・っ!」
さくらはツクヨミを守る為に起き上がろうとするが、キバの猛攻の衝撃で体勢を立て直せずにいた。そのままキバが上半身を前にしたまま走り出し、両腕の拳を同時に繰り出してツクヨミを討とうとした。
ツクヨミ「・・・っ」
ツクヨミは死を覚悟した・・・だがその瞬間、キバの両腕はツクヨミを捉えていなかった。彼女の前に立ちはだかったタイヨウが、身を挺してツクヨミを守ったのである。
タイヨウ「・・・ぐ、は・・・っ!」
ツクヨミ「・・・っ!?タイヨウっ!!」
キバの攻撃を受けて吐血したタイヨウは、その場で気を失うように崩れ落ちてしまう。庇われたツクヨミはタイヨウの体を抱え、目を閉じてしまった彼女の表情に動揺する。
ツクヨミ「あ、あぁ・・・っ」
さくら「タイヨウさん・・・!」
ウサギ「タイヨウっ!!」
敵の群れを退けたウサギやさくら達も駆け寄り、タイヨウの姿を見て驚愕する。そしてシンガーやプリンセスは、キバ達クリーナーに怒りをぶつけた。
プリンセス「貴女達・・・よくもタイヨウを!!」
シンガー「許さない・・・っ!」
仲間がやられたことで怒りを露わにする彼女達に、バイオやラブは不敵に笑う。するとそこへ、鬼邪高・全日制の楓士雄と司が騒ぎを聞きつけて現れた。
楓士雄「おいっ!うちのシマで何ドンチャン騒ぎやってんだ・・・?」
ツル「楓士雄さんと司さん・・・!」
バイオ「あらあら、鬼邪高の不良までこっち来ちゃったか」
九龍の襲撃で校舎を燃やされたせいか、楓士雄と司もいつもより険しい表情を見せていた。だが今度は辺りに走行音が鳴り響き、そこに何台もの黒い車がやってくる。
ゼロ「・・・!?あれは・・・!」
黒い車の1台から姿を現したのは、コンテナ街でさくらやゼロと戦った源治という大男。そして彼が開けたドアから、着物姿で凄まじい威風を放つ高齢の男が降りてくる。
???「・・・派手に暴れたようだな」
楓士雄「誰だ、あの爺さん・・・?」
司「黒崎君龍・・・九龍の二大派閥を仕切る1人で、次期総裁筆頭候補と言われてる男だ」
善信と共に九龍の二大派閥を仕切り、さらに次期総裁の座に近しいと言われる黒崎の登場に、さくら達はより強い警戒心を抱き始めた。
黒崎「鬼邪高とマジ女の若い奴らか・・・うちに逆らえばどうなるか、嫌でも思い知っただろう」
さくら「う・・・」
黒崎「だが、九龍にも新しい風が必要だ・・・どうだ?考えを改めるってんなら、今からでもうちに従うか?」
ゼロ「ふざけないで。周りの人生を好き勝手に狂わせて・・・そんな連中の下で安心して生きられるわけないでしょ・・・!?」
司「こっちはテメエらに学校を燃やされてんだ。そんな仕打ちを忘れて、大人しく従うと思ってんのか?」
ゼロや司は黒崎の提案を跳ね除け、他の仲間達も険しい目で睨み付ける。すると黒崎は、彼女達の前で意味深な発言をした。
黒崎「・・・残念だ。今の俺達には無いものを、お前達なら持ってるんじゃねえかと思ったんだが・・・」
楓士雄「あぁ?爺さん、そいつはどういう意味――」
黒崎「・・・行くぞ」
楓士雄の声を聞かぬまま黒崎は源治と共に車に乗り込み、バイオとラブもそれに続いた。そしてキバもまた、自身に敗れたタイヨウやツクヨミ達を見て呟いた。
キバ「・・・まだ、足りない」
さくら「・・・え?」
キバ「貴女達の命を喰らっても・・・私の心は満たされない・・・」
そう言って、キバは黒崎会の車に乗って走り去っていく。黒崎の発言が理解できなかった楓士雄は、その車を追いかけようとする。
楓士雄「おい待てよ・・・!」
司「楓士雄!今はこっちをどうにかする方が先だ・・・!」
楓士雄「!くそっ・・・司、救急車呼べ!」
黒崎会の後を追うのを断念し、楓士雄と司は救急車の手配をする。そんな中で、ツクヨミはひたすらタイヨウの体を揺さぶっていた。
ツクヨミ「タイヨウ、タイヨウ!起きて・・・目を開けて、タイヨウっ!」
タイヨウ「・・・う、っ・・・」
タイヨウは目を見開いた。ツクヨミやさくら達は一瞬安堵しかけたが、彼女の口から漏れた声は酷く掠れていた。
タイヨウ「ツク、ヨミ・・・大、丈夫・・・?」
ツクヨミ「私は・・・私は大丈夫!それより、タイヨウが・・・!」
タイヨウ「・・・良かった。今だけでも・・・ツクヨミを、守りきれた・・・うぅっ!」
キバの攻撃が想像以上に重かったのか、タイヨウは胸の奥に痛みを感じ、息を荒げる。その様子にさくら達は事の深刻さを思い知り、ツクヨミは涙を浮かべていた。
ツクヨミ「どうして・・・何でこんな無茶を!?私なんか、庇わなければよかったのに・・・」
タイヨウ「そんなの、決まってるでしょ・・・ツクヨミは・・・マジ女を守るラッパッパ部長で・・・私の、友達なんだから・・・」
ツクヨミ「ラッパッパ、部長・・・そんなの、私には似合わない・・・私は、お姉ちゃんの復讐の為にマジ女を利用しようとした・・・間違った方向に進ませようとした・・・っ!」
タイヨウ「・・・だからこそ、だよ」
ツクヨミ「え・・・っ?」
タイヨウ「貴女には・・・まだ、やるべきことが残ってる・・・おたべさんや、ソルトさん・・・先代のラッパッパや多くの生徒・・・あの学園で生きて来た人達の思いを、裏切らない為に・・・最後まで、戦わなきゃ・・・っ」
ツクヨミ「タイ、ヨウ・・・っ」
タイヨウ「・・・大丈夫・・・貴女は、1人じゃない・・・さくらちゃんも、ウサギも、プリンセスも、シンガーも・・・皆が、ツクヨミの傍にいる・・・それに・・・私のマジも、貴女に託すから・・・」
タイヨウは自分の思いを託すという意味で、身に着けていたスカートをツクヨミの手に持たせる。次に自身の目をさくらに向けて、彼女にも一言残した。
タイヨウ「・・・さくら、ちゃん。私の分まで・・・ツクヨミのこと・・・お願い、ね」
さくら「・・・っ、タイヨウさん・・・っ」
さくらも悲しい表情を浮かべながら、タイヨウの頼みを受け入れた。そしてタイヨウはゆっくりとツクヨミに再び目を向けながら、最期に微笑んで言葉を発した。
タイヨウ「・・・頑張って、ね・・・ツク・・・ヨミ・・・」
その言葉を残した瞬間、ツクヨミにスカーフを持たせたタイヨウの手は力を失い、地面に倒れた。彼女の目も閉じてしまい、それから二度と開くことはなかった。
ウサギ「あ・・・タイヨウ・・・っ!」
シンガー「こんな・・・こんな、ことって・・・」
プリンセス「タイヨウ・・・くっ・・・!」
ウサギ、シンガー、プリンセスは悲しみを堪えきれずにいた。辺り一面に雨が降りしきる中で、ツクヨミは自分を傍で支えてくれていたタイヨウの死に、義姉を失った時と同じように大きな悲しみを吐き出した。
ツクヨミ「タイ、ヨウ・・・?嘘・・・嘘よね?タイヨウ・・・っ、死なないで、タイヨウ!!・・・っ、嫌ぁぁぁぁぁぁ・・・っ!!」
第20話へ続く