その日、マジ女校舎は敵襲を受けていた。ラッパッパ部長のツクヨミと彼女に付き従う四天王が迎え撃ち、次々と襲い掛かる敵を倒していっているが、相手はどこかの監獄施設の囚人、或いは看守のような服装を身に着けた女の群れで、一般の不良少女よりも戦闘力が高く、四天王も苦戦を強いられていた。
ウサギ「この人達、強い・・・!」
シンガー「矢場久根でも捨照護路でもない・・・どこのヤンキーなんだよこいつら!?」
プリンセス「どっちにしろ、こんな連中にマジ女を荒らされるわけには行かないわ!」
ツクヨミ「・・・!」
そんな中、ツクヨミの背後に迫る2つの影があった。ツクヨミは気配を察知し、1人の蹴りを回避してもう1人の拳をガードする。ツクヨミを襲ったのは、他の雑兵と服装の出来が異なり、群れを率いる幹部と思わしき2人組だった。
???「ラッパッパ部長のツクヨミ・・・見つけた」
ツクヨミ「何者なの、貴女達は・・・?」
???「これから潰される奴に、教える義理はねえな!」
2人組の女幹部は同時にツクヨミに攻めかかる。ツクヨミは相手の動きを冷静に見極めつつ拳や蹴りを受け流し、素早く反撃する。だが、2人組も徐々に攻撃のスピードを増していき、その勢いに押されるツクヨミは脇腹を蹴られた直後に拳を顔にくらってしまう。
ツクヨミ「うっ・・・!」
タイヨウ「ツクヨミ・・・!」
それを見たタイヨウが助けに入ろうとするが、雑兵達に阻まれてしまう。廃墟ビルでの戦いでツクヨミは復讐心から解放されたものの、その罪悪感で戦うことに迷いを抱いていたのか、女幹部達に追い詰められようとしていた。
???「フフ・・・その程度の強さで、姉の仇を討とうとしてたのかな?」
ツクヨミ「く・・・っ」
???「死に晒せぇぇっ!!」
さくら「・・・菜緒!」
女幹部達がツクヨミに襲い掛かろうとしたその時、後ろから現れた2人の少女が幹部を殴り、蹴り飛ばし、ツクヨミの窮地を救った。駆け付けたのは、転校したマジ女でツクヨミと再会し、彼女の本当の心を取り戻した親友のさくら、そして共に捨照護路の悪事に立ち向かい、さくらと友情を育んだゼロだった。
さくら「菜緒、大丈夫?」
ツクヨミ「さくら・・・ゼロ・・・」
???「捨照護路を破った噂のルーキー達か・・・」
ゼロ「2人がかりとはいえ、ツクヨミを追い詰めるなんて・・・アンタら只のヤンキーじゃないね?」
???「ハッ!そんじょそこらのガキとアタシらを一緒にしないでほしいわね」
さくら「これ以上、菜緒には触れさせない・・・!」
さくらとゼロが2人組の女幹部に抵抗する意志を見せ、その後ろでもツル、シスター、メンドウ、モデル、プッシュが四天王に加勢し、戦いは激しさを増そうとしていた。だが、幹部の1人が突然耳に手を当て、小声で話し始めた。
???「マスター?・・・そう、分かった・・・グンソウ!今日はそこまでだって」
グンソウ「えぇっ!?これから良いところだってのに!」
???「マスターがそう言うんだから仕方ないよ」
ゼロ「・・・マスター?」
グンソウ「もうっ・・・シンゲキ、帰るよ!」
マスターという人物の命令に残念そうな表情を浮かべる幹部の1人・グンソウは、同じ幹部のシンゲキらと共にマジ女から引き上げていく。モデルとプッシュは見ず知らずの群れが突然襲い掛かってきながら、不意に撤退し始める様子を見逃そうとしなかった。
モデル「待ちなさいよ、アンタ達!」
シャドウ「・・・深追いするな!モデル」
そこへ、生徒会のシャドウとミュゼも校舎から姿を見せた。2人は敵の群れの後を追おうとするモデルとプッシュを呼び止める。
プッシュ「けど、放っとけばあいつらまた攻めてくんぞ!?」
ミュゼ「一理あるけど・・・街はそうも言ってられない状況なのよ」
さくら「何かあったんですか・・・?」
シャドウ「・・・鬼邪高と山王街、Rascalsの<クラブHEAVEN>が奇襲を受けた」
タイヨウ「えっ・・・!?」
プリンセス「SWORDに同時襲撃ですって・・・!?」
ツル「それで、どうなったんですか?」
ミュゼ「山王街はコブラ達が襲撃者と戦って、被害は少ない方だけれど・・・鬼邪高は定時の生徒が多く倒されて、クラブHEAVENも店の中が半壊・・・何人かの女性スタッフも連れ去られてるらしいわ」
シスター「そんな・・・」
メンドウ「誰がそんなことを・・・」
SWORDの被害状況を知り、深刻な表情を浮かべるさくら達。そしてゼロは、ある事を思い返していた。
ゼロ「・・・街に大きなカジノを建てようとしてた九龍のトップ・九世龍心は逮捕された。それをきっかけに、他のギャングやヤクザ組織が動き出してもおかしくはないけれど・・・流石に展開が早過ぎる」
シンガー「そもそも、九龍が政府に癒着していたこと、誰がバラしたっていうの?」
ウサギ「いきなりネットに情報が拡散されたって話だったよね・・・?」
九龍と政府の癒着関係を公表したのが誰なのかも、未だ分からない状況であった。するとシャドウが、さくら達に提案を促した。
シャドウ「さくらとラッパッパは山王街へ行け、俺とミュゼも独自で情報を集める。ゼロ達は万が一に備えてマジ女で待機だ」
タイヨウ「山王街に・・・?」
シャドウ「情報を共有したいところだが、鬼邪高の被害が大きい以上俺達が動くしかない。それに、先んじて九龍と敵対していたのがムゲンだ・・・その一員だったあいつらなら、何か知っているかもしれない」
さくら「はい・・・!」
さくらと四天王はすぐさま山王街へ向かい、ゼロ達も校舎内で待機しようとする中、ツクヨミだけがその場に立ち止まったままだった。
タイヨウ「ツクヨミ・・・?」
シャドウ「・・・ツクヨミ、お前もさくら達と一緒に行け」
ツクヨミ「・・・分かった」
ツクヨミはシャドウに促され、さくら達の後を追う。その後姿を心配そうに見つめながら、シャドウとミュゼも情報収集の為に動き出した・・・
一方、山王街――襲撃者はコブラ率いる山王連合会によって撃退されたものの、トラックによる衝突で店が破壊された様子も見受けられていた。散らかった物を片づけていたコブラと幼き頃からの親友であるヤマト、ノボルの下に、同じチームのダン、テッツ、チハルが戻ってくる。
コブラ「・・・連中が何者か分かったのか?」
チハル「はい!さっきうちを襲ってきたのは<DOUBT>です」
ダン「それだけやない。あちこちで見たこと無い奴らも紛れとったらしいわ」
ヤマト「また九龍の仕業じゃねえのか?」
ノボル「その可能性は薄いだろう。此間のニュースで、九龍は総裁が逮捕されて身動きが取れないはず」
テッツ「だとしたら、一体どこのどいつが・・・?」
DOUBTというチームと、正体不明の敵によってSWORDが荒らされたことを知るコブラ達。するとそこに、シャドウの指示を受けたさくらとツクヨミ達がやってきた。
さくら「・・・あの!」
コブラ「・・・?お前らは・・・」
テッツ「あれ・・・確かマジ女ってとこのヤンキーじゃねえか!」
チハル「確かに!それも真ん中にいるのは、現ラッパッパ部長のツクヨミ!?」
ツクヨミ「・・・っ」
ヤマト「鬼邪高のシマの女達が何の用だ?」
シンガー「何よ、その言い方・・・!?」
ヤマトの口調にシンガーやプリンセスが苛立つも、タイヨウとウサギがすかさず2人を制止する。タイヨウはそのまま、コブラ達に話を切り出した。
タイヨウ「この前に九龍の総裁が逮捕された件で、山王に聞きたいことがあって」
ウサギ「政府との癒着関係を公表したのは、貴方達なの?」
ノボル「・・・いや、それは俺達がやったんじゃない」
公表の件は山王がやったことじゃないとノボルから話され、ふとため息をつくさくら達。だが、コブラが意味深なことを呟いた。
コブラ「・・・だが、もしかしたら琥珀さん達が・・・」
さくら「琥珀さん・・・?」
ヤマト「前に俺達が入ってたムゲンを引っ張ってた人だよ」
プリンセス「そういえば、ムゲンを解散させた事故は日向会の残党が関わってたっていうけど・・・本当のところはどうなの?」
伝説のチーム・ムゲンを解散させた事故の真相を問われると、コブラはヤマト達と顔を見合わせ、ムゲンの過去を語り始める。
コブラ「・・・ムゲンは元々、琥珀さんと親友の龍也さんが2人で造った。仲間を見捨てず、生まれ育った街を守り、好きなバイクで走る時間が無限に続けばいい・・・そんな思いが込められた名前のチームに、俺やヤマト達も後から加入するようになった」
ヤマト「でも龍也さんが、洋食屋の<ITOKAN>を建てる為にチームを辞めてから、琥珀さんはどこかおかしくなっちまってた・・・それからDOUBTとの喧嘩や、無名街にあったレッドラムの工場をぶっ壊した話を聞いた連中が集まって、ムゲンはいつの間にか100人を超えるチームになって・・・中には名前を利用して馬鹿な真似をする奴まで出てきちまった」
ノボル「琥珀さんも何度か龍也さんに説得されて、悪事を働くメンバー達を破門していったんだが・・・それは九龍の一派だった日向会を潰した後の事で、連中の残党が琥珀さんを轢き殺そうとしたのを、龍也さんが庇って亡くなってしまった・・・」
コブラ「『ムゲンが自分の居場所だ』と言っていた琥珀さんは、一緒にチームを造った龍也さんを殺した残党を率いる日向兄弟の四男・紀久に復讐しようとした・・・でも、あの事故は日向の残党じゃなく別の一派の構成員が引き起こしたものだと分かった」
さくら「えっ・・・!?」
タイヨウ「日向会の残党じゃなかったの・・・?」
ヤマト「それを知った俺達は、龍也さんや琥珀さんがそれまでに教えてくれた言葉を届ける為に、琥珀さんの復讐を止めさせた。『命は大事にしろ』、『明日が来なきゃやり直すこともできない』、『何にも縛られず、俺達はいつだって自由に走れる』・・・ってな」
ノボル「龍也さんが本当に伝えたかった言葉を聞いた琥珀さんは、今までの責任を1人で背負ってチームを解散させ、同じメンバーだった九十九さんと一緒にどこかへ旅立った・・・俺達はその意志を継ぐために山王連合会を、日向は自分達を利用した九龍に借りを返す為に達磨一家を結成し、そうして街がSWORDと呼ばれるようになったんだ」
ムゲンの解散の真相と、SWORD誕生の経緯・・・それらを聞いたさくら達は深く思いつめる表情をした。同じ復讐心を抱いていたツクヨミもその内の1人だった。
ツクヨミ(・・・同じだ。私もお姉ちゃんが死んで、その仇を討つことだけに必死になって・・・でも、何もかも失ったわけじゃないと教えてくれたのが、さくらやタイヨウ達の存在だった)
コブラ「・・・けど俺達は、龍也さんの命を奪った九龍を許したわけじゃねえ。この街を再開発しようとしてる今だってそうだ。それはきっと琥珀さん達も・・・」
さくら「コブラさん・・・」
さくらやツクヨミ、コブラ達も、復讐心は消え去ったが九龍の好き勝手を許すわけではない。双方が同じ思いを抱く中、ダンが話に割って入った。
ダン「・・・ところで、これからどうするんや?またDOUBTが襲ってくるかも分からんし」
ノボル「そうだな・・・鬼邪高とRascalsも被害を受けている、どちらか一角でも崩れれば街が深刻な事態になるかもしれない」
コブラ「いつでも状況が確認しやすいよう、共同戦線を張るべきだな・・・俺が日向の所に行く、ヤマト達も他のチームに話をつけてくれ」
ヤマト「おうっ!」
ツクヨミ「・・・待って」
さくら「菜緒・・・?」
ツクヨミ「・・・鬼邪高には、私達が行く」
コブラ達と話をつけたツクヨミは、ウサギ、プリンセス、シンガーを先にマジ女に帰し、さくらやタイヨウと共に鬼邪高校へ足を踏み入れていた。その校舎を目の前にした時、ツクヨミとタイヨウは過去を振り返っていた。
タイヨウ「鬼邪高校・・・久しぶりだね」
ツクヨミ「・・・ここに足を踏み入れたのは、1人で村山に勝負を挑もうとしたあの日以来・・・」
マジ女の権威を取り戻し、九龍の目を引き付ける為に番長・村山の下へ走った・・・今のツクヨミにとって、それは苦い思い出だった。すると、校舎の入り口で立ち止まっていた彼女達に2人の少年が迫る。
???「・・・おい!うちの校舎の前で何突っ立ってんだ?」
タイヨウ「・・・!辻、芝マン・・・!」
芝マン「誰かと思えば・・・村山に喧嘩を売った時は相手にされず、泣いて逃げ帰ったラッパッパの部長じゃねえか?」
その少年達は絶望団地の出身者で、全日の生徒の中でも高い実力を持つ辻と芝マン。2人は当時、村山に一蹴されたツクヨミと彼女を連れ帰ろうとするタイヨウと顔を合わせていたのである。
辻「今度は3人がかりでうちに殴り込もうってのか?」
ツクヨミ「・・・定時の村山良樹に話がある。そこを通して」
芝マン「テメエがラッパッパを再編してコソコソしてたってのは、こっちの耳にも届いてんだよ」
辻「そう何度も通すと思ったら大間違いだぞ、コラァ?」
睨み付ける辻と芝マンに気圧される3人。そこへ、彼らと同じ団地に住み、現在は全日の覇権を争う関係の花岡楓士雄、高城司が現れる。
楓士雄「お~い、そんなところで何やってんだ?」
さくら「楓士雄さん、司さん・・・!」
楓士雄「おっ?さくちゃん!やったじゃねえか、此間のタイマン!なぁ?」
さくら「あ・・・は、はい・・・!」
さくらの目の前に駆け寄り、何か勘違いしながら笑顔で話しかける楓士雄。辻と芝マンはそんな彼らを見て違和感を感じていた。
辻「楓士雄、司、お前らいつの間にマジ女の奴らと顔見知りになってんだよ?」
司「まあ色々あってな・・・で?ラッパッパ部長が自ら、うちに何の用だ?」
タイヨウ「さっき、SWORDの各地がDOUBTに襲撃されて・・・こっちも定時の生徒が被害を受けてるでしょ?」
楓士雄「おう、そういえば何人か怪我して寝込んでやがったな」
ツクヨミ「それで、山王のコブラから伝言を預かってる・・・『どちらか一角でも崩れれば、この地区一帯が大混乱になる騒ぎが起こるかもしれない・・・お互いの状況をいつでも確認できるように、共同戦線を張るべきだ』って」
芝マン「それを『はい、そうですか』と簡単に信じると思ってんのか?」
辻「大体テメエらが山王と接触する意味が分からねえ。村山に勝ったコブラの名前を出して、信用したこっちの寝首を掻こうって腹だろ?」
タイヨウ「違う、そういうわけじゃ・・・!」
ツクヨミ「タイヨウ!・・・止めなくていい」
未だにツクヨミが鬼邪高の打倒を狙ってると疑う辻と芝マンにタイヨウが弁解しようとするが、ツクヨミが自らそれを止めさせた。
ツクヨミ「お姉ちゃんを失って、その復讐をすることに縛られていた私は・・・確かに無力で、愚かだった・・・私がやろうとしていたことは正しいことじゃない、許されることじゃない・・・だから彼らに非難されても、私は何も言い返せない。その資格がない・・・けど・・・それでも、今は・・・っ!」
タイヨウ「・・・ツクヨミ」
さくら「菜緒・・・」
ツクヨミは過去の自分の行いが間違いだと認めながら、今は同じ居場所を守る為に信じてほしいと訴えようとしていた。その目に嘘偽りはないと、さくらとタイヨウも感じていた。すると、ここまでの話を聞いていた楓士雄が沈黙を破る。
楓士雄「・・・よし、分かった!じゃあ今の話、定時には俺らから伝えとくわ」
さくら・タイヨウ「えっ・・・!?」
芝マン「楓士雄!?テメエ、勝手に話進めてんじゃねえよ!」
楓士雄「大丈夫だって!こいつはさくちゃんと正々堂々ぶつかって、色んなもんを吐き出した。だから何も心配することねえよ・・・なあ、司?」
ツクヨミ「あ・・・」
司「そうだな・・・それに、これ以上睨み合いを続けても、後で村山さんに説教されるのは俺らかもしんねえぞ?」
辻「司!お前も馬鹿みてえな頭でこいつらを信じるってのか?」
司「こいつらの話が嘘だってんなら、その時は鬼邪高らしくけじめをつけりゃいい・・・簡単な話だろ?」
さくら「楓士雄さん、司さん・・・」
さくらとツクヨミのタイマン勝負を見届けたからこそ、楓士雄と司は彼女達の話を信じていた。辻と芝マンも司の説得に渋々頷き、4人は校舎の中へ入っていく。そしてさくらが頭を下げて、ツクヨミ、タイヨウと共に帰っていく様子を、校舎の最上階から見届ける2人の人物がいた。
村山「・・・轟ちゃん、楓士雄君を見てみなよ。今のお前に無いもんを、あいつは持ってるかもな?」
轟「・・・は?」
最上階の一室にいたのは、定時制を仕切る鬼邪高の番長・村山良樹。そして眼鏡をかけたもう1人の少年が、辻や芝マンら全日の生徒を束ね、村山に下剋上を仕掛けた轟洋介だった。
村山「仮に俺を倒しても、皆がそのままお前に付くとは限らない・・・前にも言ったでしょ?拳だけじゃダメだって」
かつて鬼邪高では、今は山王のメンバーであるチハルが揉め事を起こしムゲンの下へ逃げ込む事態があった。しかし、この後にチハルが騒ぎのけじめをつけようと単身で鬼邪高に乗り込み、コブラ達もそれを見捨てようとせず定時の生徒達に立ち向かった。彼らの姿は、拳1つで成り上がろうと考えていた村山に大きな影響を与え、轟に当時の自分の面影を感じながらも定時の仲間を傷つけられたことに激昂し、轟を打ち負かしたのである。
村山「まあ・・・俺でも『鬼邪高を任せられる』って思うくらい、早いとこ成長してよ轟ちゃん・・・んじゃ」
村山は轟の肩をポンと叩きながら、部屋を後にする。轟はかつての村山との喧嘩で、強さだけでは頭になれないと思い知らされるも、自分に何が足りないのかを未だに模索していた・・・
その頃、SWORD地区に隣接する<戸亜留市>という街――そこに建つ多くの不良校の中で、最強の勢力を誇る学園があった。名は<鳳仙学園>・・・殆どがスキンヘッドの生徒が集まる中、1人の少年が足を踏み入れる。
???「・・・悪い、遅れた」
生徒達に出迎えられたその少年は、現在の鳳仙学園を束ねる番長・上田佐智雄。彼は鳳の文字が大きく刻まれた壁まで歩き、鳳仙の幹部である小田島有剣、仁川英明、志田健三と会議を進めた。
小田島「・・・やっぱ<レッドラム>みてえだ。出所はまだ分かってねえけど」
仁川「この街で好き勝手させてたまるかよ・・・お前ら行くぞ!」
仁川は部下達を連れ、かつてSWORDで出回っていたドラッグ・レッドラムの出所を探りに行く。すると、会議中に志田がある事に気づいた。
志田「おい、そういや沢村は?」
沢村「・・・今、戻った」
そこに、坊主頭の生徒・沢村正次が帰還する。すれ違うように校舎を出た仁川、そして小田島、志田を含め、彼らはこの鳳仙で<四天王>の位置に付いていた。
小田島「およよ?どうした、沢村が会議に遅れてくるなんて」
佐智雄「・・・こっちの用事を頼んでたんだ」
沢村「今日も変な奴らに付きまとわれてたぞ。途中で平井って奴が下っ端共を連れ帰ったが」
佐智雄「チッ・・・そう簡単に見逃しちゃくれねえってか」
佐智雄は母と妹の3人暮らしをしているが、その妹は暫く学校に不登校で、ドラッグを売るなどの悪事を働くギャングに捕まっていた。それを助け出した佐智雄は、中学時代での喧嘩を経て友好関係を築いた沢村に、妹の生活を見守らせていたのだ。
沢村「・・・ところで、<七森>の件はどうなった?」
佐智雄「七森・・・?」
志田「ああ・・・こいつら、この前のゴタゴタで休戦協定を結んだ七森と揉め事を起こしちまってよ。他所の学校だったらまだどうにかなったってのに・・・」
佐智雄「・・・起こしちまったもんはしょうがねえ、問題はその後だ。どうけじめをつけるか・・・」
休戦していた学校と揉め事を起こしたという一部の生徒に頭を下げられ、ため息をつく佐智雄。すると彼はゆっくりと立ち上がり、小田島達の間を通っていく。
佐智雄「・・・俺が直接詫び入れてくる。お前らは来んじゃねえぞ」
そう言って、佐智雄は部屋を出ていった。部下達がそれを止めようとするが、その直後に強い衝撃音が響いて一同を驚かせる。
小田島「気にすんな。佐智雄は厄介事が続くと、自分が許せねえんだ・・・」
部下達を巻き込まず、自分1人で揉め事のけじめを付けようとする佐智雄。彼が率いる鳳仙学園が、後にSWORDに更なる混沌を招くことを、この時は誰も知る由もなかった――
第13話へ続く