さくら「・・・菜緒っ!」
それは、先代のマジ女生徒達と銀獅子会、海外マフィアの抗争が終結して数か月後の事――中学を卒業し、春から高校生になろうとしていた遠藤さくらだったが、彼女は一人ぼっちだった自身の支えとなっていた親友の小坂菜緒を探していた。突然学校を休むようになり、家を訪ねても姿を見せず、そんな時間を繰り返していたある日、さくらはようやく菜緒の姿を見つけた。
さくら「菜緒、待って!どこに行くの・・・あっ!?」
さくらは菜緒を追いかけようと走るが、その途中でつまずき転んでしまう。やがて電車の踏切が降りて行く手を遮ってしまい、電車が去った時には既に、彼女の姿は無かった。
さくら「・・・っ、菜緒・・・菜緒ーーーっ!!」
それが、全ての始まりだった――
生徒会長・シャドウの加勢で奮起したさくら、ゼロらマジ女一行は、激尾古・看護科の生徒をも利用した捨照護路との死闘の末、これを打ち破った。だが、そこに現れたラッパッパ部長・ツクヨミは、マジ女の情報を九龍に売って義理の姉・おたべ達が戦死するきっかけを生んだ捨照護路勢に復讐すべく、暴行を続けようとした。さくらはそんな彼女を引き留め、一度袂を分かって以来初めて視線を交わすようになった。
ツクヨミ「・・・さくら・・・っ」
さくら「・・・やっと、呼んでくれたね。私の名前・・・」
ツクヨミ「・・・どうして捨照護路の連中を庇ったの?お姉ちゃん達を殺したあいつらを、許すっていうの!?」
さくら「そうじゃない。でも、あのまま続けていればあの人達だって死んで――」
ツクヨミ「だから何!?」
さくら「う・・・っ!?」
ツクヨミ「私はあいつらに、私の大事なものを奪われた怒りを、苦しみを、悲しみを味わわせなきゃ気が済まない・・・この手で仇を取らなきゃ気が済まない!それであいつらが死ぬとしても、私は何とも思わないわ・・・」
ツクヨミの目は最早、狂気で満ち溢れていた。彼女は自分の中の憎しみをぶつける為に捨照護路勢を追いかけようとする。しかし、さくらが彼女の手を掴んで動きを止めた。
さくら「・・・行かせない。菜緒に・・・そんなことはさせない」
ツクヨミ「・・・ッ!」
その時、ツクヨミはもう片方の手でさくらの手を掴み振り払うと、直後に力を込めた拳でさくらを殴り、その衝撃でさくらは倒れてしまう。
さくら「ぐう・・・っ!」
ツル「さくらちゃんっ!」
タイヨウ「ツクヨミ・・・!?」
ツクヨミ「・・・どうしても私を行かせないっていうのなら、私は貴女を殺してでも先に行く」
ウサギ「えっ・・・!?」
シンガー「アンタ、何言ってんの!?」
プリンセス「今こんなところで、私達が争ってる場合じゃないでしょ!?」
ツクヨミ「うるさいっ!!」
四天王3人がツクヨミを止めようとしたが、彼女の怒号に思わず怯んでしまう。ツクヨミの憎しみは、彼女達に対しても向けられていた。
ツクヨミ「・・・貴女達も、私が集めた四天王だと言うのに、いつの間にか生徒会とつるんで・・・そうまでして私の復讐を邪魔したいの?私の望み通りに動いてくれないの!?」
タイヨウ「違う、私達はただ・・・!」
ツクヨミ「もういいっ!!・・・マジ女も、ラッパッパも、誰の助けもいらない。私は私1人で復讐しに行く・・・邪魔するなら、容赦しない」
ツクヨミは、目の前にいる全てを敵として捉えようとしていた。その気迫に圧倒され、誰もがどうすべきか迷っていた矢先、ツル達に体を抱えられていたさくらが再び立ち上がった。
さくら「・・・なら、私も・・・菜緒を止める。私達を支えてくれた・・・あの頃の、優しかった菜緒を取り戻すまで・・・!」
メンドウ「さくらちゃん!?」
シスター「もしかして、ツクヨミと戦うの・・・?」
モデル「ちょっと、アンタだって捨照護路のリーダーと戦って既にボロボロでしょ!?」
プッシュ「そんな状態で、ラッパッパ部長とやって敵うわけが・・・!」
さくら「・・・皆は、手を出さないでください。私1人で・・・菜緒と戦います」
ツル「でも・・・っ!」
ゼロ「・・・やらせとけばいいじゃん」
シスター「ゼロ・・・!?」
ゼロ「あいつはこの為にマジ女に来たんだ。友達と話をして、助ける為に・・・アンタ達もあいつのダチなら、黙って見届けてあげなよ」
さくら「ゼロ・・・」
ゼロはさくらの思いを理解していた。ツル達もそれに従い、彼女の戦いを見守ることを決意する。そしてシャドウも、ゼロ達とは別の思いでこの行く末を見守っていた。
シャドウ(大島優子と前田敦子、島崎遥香と宮脇咲良・・・転校生とラッパッパ部長の邂逅は、いつだってマジ女の運命を動かしてきた。この2人の戦いがどのような結末を迎えるのか・・・その先に何が待つのか・・・)
さくら「行くよ・・・菜緒・・・!」
ツクヨミ「・・・うああああっ!」
さくらとツクヨミ、両者が突進し互いに拳を繰り出した。2人の拳は相殺されたかに見えたが、先の戦いのダメージもあり、僅かにさくらが痛みを感じて怯んだ。
さくら「くっ・・・」
ツクヨミはこの隙を突いてさくらの脇腹を蹴りつける。さくらは痛みに耐えつつ連続で殴り掛かるが、回避したツクヨミに再度腹を蹴られた直後に連続パンチをくらい、さらに足元を転ばされてダウンしてしまう。
さくら「うぅ・・・っ!」
シンガー「ツクヨミ、動きが速い・・・!」
プリンセス「当然よ・・・あの子だって、ラッパッパを再編する前から鍛錬を繰り返していたんだもの」
彼女の実力は、今まで間近にいた四天王も熟知していた。心が憎しみに満ちていながら、その強さはやはりマジ女のテッペンを張るだけのことはあるようだ。
さくら「うっ・・・ああぁぁっ!」
ツクヨミ「ぐ・・・っ!?」
倒れたさくらを捕まえて何度も拳を入れるツクヨミだが、さくらも負けじと頭突きをお見舞いし、怯んだところを殴り返す。しかしその程度でツクヨミは引かず、さくらの追撃をガードしてすかさず反撃、腹を殴ってから背負い投げしてさくらを地面に叩きつけた。
さくら「ぐはっ・・・ぐぅっ!」
さらに倒れたところを蹴飛ばされ、かなりの手傷を負わされるさくら。それでも何とか起き上がった彼女は、ツクヨミにある事を尋ねた。
さくら「はぁ、はぁ・・・菜緒・・・どうして・・・お姉さんの仇を、取ることに・・・拘るの・・・?」
ツクヨミ「・・・お姉ちゃんは・・・親のいない私を妹のように可愛がってくれた一方で、私が想像する以上に過酷な日々を生きていた。前田敦子が学園を抜ける為に<八木女>からマジ女に転校して、その人の帰る場所をずっと守り続けていた・・・今度はソルトという新しい部長が生まれて、お姉ちゃんはその一番の支えであり続けた。でもある日、ソルトは殺されて・・・そんな中でお姉ちゃんは、失踪していた実の父親が銀獅子のフロント企業<明智総業>に関わっていたことを知ったのよ!」
メンドウ「おたべさんのお父さんが・・・?」
シスター「銀獅子会の人間・・・?」
ツクヨミ「その父親も、海外マフィアの介入で命を落として、マジ女の仲間も沢山死んで・・・お姉ちゃんはずっと悲しんでいた。それどころか、生徒会を造った理事長は最初からマジ女の土地を明け渡すつもりで、ヤクザに殺されたと思っていたソルトは、本当は前の校長の手にかかって・・・っ」
ウサギ「そんな・・・」
タイヨウ「ソルトさんを殺したのが、マジ女の校長・・・!?」
ツル「それに、生徒会を造ったのが理事長って・・・」
シャドウは無言を貫きながらも、その事実を重く受け止めていた。抗争が続いていた当時、シャドウとミュゼも生徒会役員の1年だったが、2人はその時からマジ女の秩序の安泰を望みながらも、銀獅子会と繋がっていた理事長の意向で生徒達の監視を命じられ、独自での行動を取れずにいた。故に九龍グループの不穏な気配を察知しても、迂闊に口出しできなかったのである。
ツクヨミ「銀獅子会と海外マフィアを道連れに、お姉ちゃん達は死んだ・・・でもその後に、鬼邪高がマジ女を自分達の軍門に降して、ムゲンがこの街で好き勝手に暴れるようになって・・・そして、お姉ちゃんを殺したあの抗争は・・・捨照護路から情報を売られた九龍の手で仕組まれたものだと分かって・・・結局・・・お姉ちゃん達の死はただの無駄死にだった!色んな思いを抱えて戦ったお姉ちゃんは報われないっ!!くぅ・・・ああああああっ!!」
さくら「・・・!うぅっ・・・」
おたべの死とその後の事を振り返ったツクヨミは、怒りと悲しみで感情が入り乱れながらさくらに殴り掛かる。さらに助走をつけてジャンプし、体を捻った勢いで回し蹴りをくらわせた。
さくら「うああああ・・・っ!」
ツクヨミ「はぁ、はぁ、はぁ・・・っ」
タイヨウ「ツクヨミ・・・さくらちゃん・・・っ」
ウサギ「このままじゃ、さくら死んじゃうよ・・・!」
シャドウ「・・・まだだ。まだあいつは終わってない」
シャドウやタイヨウ達が見守る中で、ツクヨミに負わされた傷と先の戦いのダメージが残っているさくらは、痛みの重さに耐えながら起き上がろうとしていた。
さくら(・・・痛い・・・重い・・・っ、菜緒の拳から・・・いろんなものが、伝わってくる・・・怒り・・・苦しみ・・・悲しみ・・・それをずっと、1人で・・・抱えてきたんだね・・・菜緒・・・っ)
ツクヨミ「・・・っ」
満身創痍の状態でありながら、尚も立ち上がるさくらに苛立ちを覚えるツクヨミ。そんな廃墟ビルで続く2人の戦いを、上の階から見届ける2人の少年がいた。
楓士雄「・・・おぉ~、やってんな」
司「マジ女と捨照護路が暴れてるって言うから来てみれば・・・こりゃどういう状況だ?」
それは、鬼邪高校・全日制のテッペンを狙う花岡楓士雄と、その親友である高城司だった。マジ女と捨照護路が喧嘩しているという情報は、いつの間にかSWORDに広がっていたのである。
楓士雄「多分、捨照護路とはもうやり合った後だな。よく見ると皆ボロボロだし」
司「じゃあ、なんでラッパッパ部長とあの転校生が対峙してんだよ?」
楓士雄「えっ?・・・うおっ、ホントだ!さくちゃんじゃねえか!?じゃああれがマジ女のテッペンを張ってる・・・!」
司「おい、声がでけえよ・・・!」
自分達がこの場にいることがバレたらパニックになると考え、密かに見届けようとする司と楓士雄。だがその時、そんな2人を余所に止まったエスカレーターをゆっくりと降りながら、戦いの場に近づく人物がいた。
???「・・・派手に喧嘩してんな」
さくら・ツクヨミ「・・・!?」
さくらとツクヨミをはじめ、声のした方向に一同が振り向く。エスカレーターの途中で立っていたのは、1人の金髪の青年だった。その顔は、街では誰もがよく知る人物のものであった。
プッシュ「おい、あいつは・・・!?」
モデル「<山王連合会>のコブラ・・・!」
楓士雄「えぇっ!?あれが、定時の村山に勝ったっつうムゲンってチームにいた・・・!」
司「馬鹿!声がでけえって・・・!」
メンドウ「・・・?あっ、あの時の!」
シスター「鬼邪高・全日の人達・・・!」
楓士雄「あっ・・・バレちまった」
司「ったく・・・お前は何でもかんでも興奮し過ぎだ」
さくら「楓士雄さん・・・司さん・・・」
ツル「SWORDの人達が3人も、なんでこんなところに・・・!?」
コブラ「山王と鬼邪高のシマの境目で・・・これは何の騒ぎだ?」
ツクヨミ「SWORD・・・っ!」
山王連合会を率いるコブラ、鬼邪高・全日制の生徒である楓士雄と司・・・SWORD地区における実力者達が集まったことで、ツクヨミの憎しみはさらに膨れ上がろうとしていた。
ツクヨミ「・・・お前達が、この街で好き勝手したから・・・マジ女は・・・命がけで戦ったお姉ちゃんの思いは・・・っ!!」
楓士雄「・・・えっ?あいつ、何言ってんだ?」
司「村山さんがマジ女を軍門に降らせた時の事・・・まだ根に持ってんだろう」
コブラ「・・・そういうことか・・・だったら好きにしろ。お前の気が済むまで相手になってやる」
コブラもまた、かつて自分が所属していたムゲンが暴走していた時期をよく覚えていた。それにより、大事な何かを奪われたであろうツクヨミの憎しみを受け止めようとしていた。
ツクヨミ「うぅ・・・っ、ああああぁぁぁっ!!」
ツクヨミは怒りの矛先をコブラに向け、全速力で駆け出していく。しかし、そんな彼女を行かせまいと、さくらが体を捕まえて行く手を遮った。
ツクヨミ「っ!さくら・・・!」
さくら「駄目・・・駄目だよ、菜緒・・・そんなことしても・・・何も変わらない・・・っ」
ツクヨミ「・・・離せぇぇぇっ!」
ツクヨミは体に力を入れてさくらを振りほどき、怒涛の猛攻で追い詰める。さくらはその攻撃に耐えて一発殴り返すが、多くの傷の痛みが重なり膝をついてしまう。
さくら「う、く・・・っ!はぁ、はぁ・・・」
ツル「さくらちゃん・・・っ」
司「おい、流石にやべえんじゃねえのか・・・?」
ツル達や四天王、上の階にいる司も心配そうに見つめていた。だが先ほどまで興奮しきっていた楓士雄やコブラ、ゼロとシャドウは喧嘩の行く末を黙って見届けようとしていた。
ツクヨミ「はぁ・・・はぁ・・・さくら・・・これ以上、邪魔をしないで・・・!」
さくら「・・・あの人達にまで、その怒りをぶつけようとしても・・・おたべさんは・・・菜緒のお姉さんは・・・そんなこと、望んでない・・・っ」
ツクヨミ「貴女に何が分かるのよ!?仲間や家族を殺されて、自分が死んだ後に大事な居場所を荒らされて・・・私はそんなお姉ちゃんの無念を晴らしたい、だからマジ女に入学して!ラッパッパを造った!シンガーも、プリンセスも、ウサギも、ただ強いという理由だけで私が集めた・・・マジ女を強くしたかった、私の復讐の為に!!」
さくら「本気で言ってるの!?」
ツクヨミ「・・・!」
さくら「・・・本当に、ただそれだけなの・・・?シンガーさんは、自分の音色を菜緒に褒められたことを嬉しく思ってた・・・ウサギさんは、逃げてばかりいた自分を変えてくれた菜緒の力になろうとしてた・・・プリンセスさんも、菜緒が新しく造ったラッパッパの一員に選ばれたことを喜んで、菜緒を支えようとしてた・・・」
ウサギ「さくら・・・」
さくら「タイヨウさんだって、何があっても菜緒を守ろうとしてた・・・!でも菜緒は、一度負けただけで皆を遠ざけようとして・・・復讐の為にならないからって切り捨てて・・・!貴女の心は、本当にそうしたかったの!?」
ツクヨミ「うるさい、うるさい・・・!!」
さくらの言葉にツクヨミは耳を傾けようとせず、彼女を何度も殴りつける。それでもさくらは引かず、逆にツクヨミを殴り倒す。立ち上がったツクヨミの顔は、悲しみに満ち溢れていた。
ツクヨミ「・・・もう、遅いのよ・・・私が頭になった時から、マジ女は闇に包まれたの・・・私しか月の明かりに照らされない、暗い闇夜の中に・・・私を照らそうとしていた太陽の光も、もう届かない・・・私が絶望してしまったから・・・っ」
タイヨウ「・・・ツクヨミ」
さくら「・・・私がタイヨウさんに勝ったこと、やっぱり菜緒の心を傷つけてたんだね・・・ごめん・・・ごめんね・・・っ」
ツクヨミ「遅いって言ったでしょ・・・っ!もう、私が復讐を果たさない限り・・・この闇が晴れることはない・・・それならいっそ、皆まとめて壊れてしまえば・・・!」
さくら「・・・させない」
ツクヨミ「え・・・」
さくら「菜緒も、マジ女も・・・壊させない・・・タイヨウさん達だって、まだ菜緒の傍にいる・・・シャドウさん達だって、同じ居場所を守ろうとしてる・・・それに・・・菜緒にはまだ、私がいる・・・!」
ツクヨミを説得しようとするさくらの目は、いつしか涙で滲んでいた。その目を見たツクヨミは次第に心を揺さぶられながらも、彼女を突き放そうとする。
ツクヨミ「・・・どうして・・・なんでそこまで私にまとわりつくの・・・なんで私を嫌いにならないのよっ!?私は何も言わずに、自分がしたいと思ったことを望んで、貴女の前からいなくなったのよ・・・っ」
さくら「嫌いになるはずないよ・・・菜緒は、一人ぼっちだった私を支えてくれた・・・いつだって誰かの味方だったおたべさんのように、私に生きる勇気を与えてくれた・・・菜緒は、私のかけがえのない友達・・・だから、私も菜緒を1人にさせない」
ツクヨミ「・・・っ!」
さくら「ここにいる皆も、仲間・・・同じマジ女の生徒・・・菜緒は1人じゃない、皆がいる・・・!私だって、菜緒の友達であり続ける!」
ツクヨミ「嫌・・・嫌っ!来ないで!!」
ツクヨミはさくらを殴りつけるが、さくらは足を強く踏ん張って耐えた。どれだけ傷つこうとも、目の前の友を救う為に、彼女はもう一歩も退こうとしなかった。
さくら「菜緒が拒み続けても、私は何度だって手を差し伸べる!孤独の闇に残ろうとする菜緒を、私は助けるっ!菜緒の心に、もう一度・・・私という桜を咲かせてみせる!!」
ツクヨミ「・・・!!さくら・・・」
さくら「私の、マジ・・・届いてっ!!」
最後の力を振り絞ったさくらの拳が、ツクヨミの心を激しく打った。その拳から、自身に対するさくらの思いが伝わった瞬間、ツクヨミは崩れ落ちるかのように膝を突き、胸の鼓動を感じていた。
ツクヨミ「・・・暖かい・・・闇の中に閉ざそうとした私の心に・・・熱が戻ってくる・・・さくらの、私への思いが・・・こんなに・・・まるで・・・桜の花が咲いたように、穏やかな気持ち・・・」
拳に込められたさくらの思いは、確かに届いていた。その時、ツクヨミの目からはゆっくりと、涙が零れ始めていた。
ツクヨミ「・・・あれ?私・・・なんで、泣いてるんだろ・・・っ」
さくら「・・・嬉しいからだよ」
ツクヨミ「嬉、しい・・・?」
さくら「菜緒の心は、菜緒に手を伸ばす私やタイヨウさん達の存在に、ちゃんと喜びを感じてる・・・それが、自分から1人になろうとしていたからこそ・・・菜緒を1人にしなかった私達のことが、嬉しすぎて・・・泣いてるんだよ」
さくらの言葉を聞いたツクヨミは、ふと隣の方向を向いた。そこにはタイヨウ、ウサギ、プリンセス、シンガー・・・彼女の下に集まった四天王が寄り添っていた。
ツクヨミ「・・・みん、な・・・っ、私・・・私は・・・何もかも、失ったわけじゃ・・・なかったんだ・・・っ!う、うぅ・・・うああああぁぁぁぁ・・・っ!!」
ツクヨミはタイヨウに体を抱かれながら、周りにいるかけがえのない存在の有難味を感じ、泣き崩れた。自分に寄り添ってくれていたかつての菜緒の姿が戻ったと、そう思い込んださくらは力が抜けて、後ろに倒れ込もうとしていた。
3人「さくらちゃんっ!!」
そんなさくらの体を、慌てて駆け寄ったツル達が抱えた。気を失いかけたさくらの目が開き、ツル達も安堵の表情を浮かべる。
さくら「・・・ツル、シスター、メンドウ・・・ありがとう」
ツクヨミと同じように、さくらもまたマジ女で新しい友を得た。共に泣き合い、共に笑い合い・・・戦いが終わったその場は、穏やかな空気に包まれていた。
楓士雄「フッ・・・司、帰ろうぜ」
司「・・・もういいのか?」
楓士雄「ホントはさくちゃんを労ってやりてえけど、皆ボロボロだし・・・また改めておめでとうって言いに行くわ」
そう言って、楓士雄は司を連れて去っていく。コブラも2人の戦いの結末を見届け、ふと笑みを浮かべながら廃墟ビルを後にする。その様子を見ながら、ゼロとシャドウは会話していた。
ゼロ「・・・捨照護路の奴ら、場合によってはここにSWORDの頭達を引き付けてマジ女を潰そうと考えたのかな?」
シャドウ「かもな・・・だが、彼らもかつての自分が浅はかだと感じていたからこそ、ツクヨミの暴走とそれを止めようとするさくらを見届けた・・・この街はそこまで愚かな連中の集まりじゃないということだ」
ゼロ「・・・でも、これで終わりじゃない」
シャドウ「ああ。捨照護路という駒を失ったことが、九龍にどう影響するかは分からないが・・・まあ、今はその話は後にしよう」
ゼロ「・・・確かに、私も今は・・・この穏やかな時間を過ごしていたい気分だよ」
ゼロとシャドウは、さくらやツクヨミ達が暖かく振れ合う様子を笑って見ていた。その中心にいたのは、義姉の復讐に燃える不良ではなく、多くの友に囲まれて涙する少女の姿だった・・・
『夜明けまで強がらなくてもいい』
歌・乃木坂46
風が悲鳴を上げ 窓震わせて
水道の蛇口から後悔が漏れる
過ぎ去った一日を振り返って
眠れなくなるほど不安になるんだ
誰に相談しても考え過ぎだと言う
自分をどうやって認めればいいのか?
光はどこにある?僕を照らしてくれよ
暗闇は 暗闇は 涙を捨てる場所
希望はどこにある?生まれ変わる瞬間
夜明けまで もう 強がらなくていい
当たり前のようにできたことが
自信がなくなって部屋を出たくない
情けない自分が腹立たしく思えて
命の無駄遣い 誰に謝るか
光はどこにある?僕を導いてくれ
太陽は 太陽は 夢の背中を押す
明日はどこにある?ヨロヨロと立ち上がれ
夜明けまでは さあ かっこ悪くていい
朝日が見えて来た 弱音はもう吐かない
今日こそは 今日こそは 自分らしく生きる
光はどこにある?僕を照らしてくれよ
不安とは 不安とは 期待の裏返しか
希望はどこにある?生まれ変わる瞬間
太陽よ 太陽よ 連れ出してくれるのか?
すぐに夜明けが来る
廃墟ビルでの戦いの後、さくら達はマジ女校舎へ帰っていた。その最中、ツクヨミは四天王に抱えられながら、彼女達に謝罪の言葉をかけた。
ツクヨミ「・・・タイヨウ、ウサギ、シンガー、プリンセス・・・ごめんなさい。私の身勝手な目的の為に、貴女達を巻き込もうとして・・・」
シンガー「・・・許さないよ」
シンガーに許さないと言われ、ツクヨミは悲し気に表情を俯かせる。だが、シンガーの言葉にはまだ続きがあった。
シンガー「・・・もう一度、私の音色を聴いてくれるまでは」
ツクヨミ「・・・えっ・・・?」
プリンセス「・・・私も今日は帰さない。今の貴女の・・・マジ女に対する思いを聞くまではね」
ウサギ「私も信じてる・・・私を変えてくれたあの時のツクヨミが、嘘なんかじゃないってこと!」
ツクヨミ「あ・・・」
タイヨウ「・・・皆を巻き込んだっていうのなら、私だって同じだよ。あの時ツクヨミを助けてなかったら、こうはならなかった・・・」
ツクヨミ「・・・タイヨウ」
タイヨウ「ツクヨミ・・・また一からやり直そう。今度はさくらちゃんも、ゼロも、生徒会も・・・皆でマジ女のこれからを考えよう。ここを命がけで守ったおたべさん達の為に」
タイヨウにそう言われたツクヨミは、自分に視線を向けながら笑みを見せる仲間達に、再び涙を滲ませつつ感謝した。
ツクヨミ「・・・ありがとう・・・っ」
さくら「・・・良かったね、菜緒」
ツクヨミ「・・・うん・・・っ」
さくらとツクヨミは微笑み合った。お互いに拳と思いをぶつけ合ったことで、2人はかつてのような友情を取り戻したのである。
ゼロ「・・・?ちょっと待って、今私もって言った?」
タイヨウ「うん、言ったよ?」
ゼロ「いや・・・学園の為に何か考えるとか、私のガラじゃないし・・・」
メンドウ「そんなこと言って、いつも弱いものいじめされてる生徒を助けたりしてたじゃん!」
ゼロ「止めて・・・恥ずかしい」
シスター「もしかして、ゼロ・・・照れてる?」
ゼロ「うるさいったら・・・もう!」
ツル「うわぁ~っ!さくらちゃん危ない・・・モデル、プッシュ!助けて~!」
モデル「はぁ!?何言ってんのよ!?」
プッシュ「ちょっ、私らを勝手に巻き込むな~っ!」
子どものように追いかけっこをするゼロやツル達2年組の姿を見て、先頭にいたシャドウは可笑しそうに笑みを浮かべていた。するとそこに、校舎の入り口からミュゼが駆け寄って来た。
ミュゼ「シャドウ、皆!一大事よ」
シャドウ「・・・?どうした、ミュゼ?」
ミュゼ「ついさっき、カジノ計画の為の政府との癒着が公表されて・・・九龍グループの総裁・九世龍心が逮捕されたわ・・・!」
ツクヨミ「・・・!?」
さくら「九龍グループの、総裁・・・!?」
一方、1つの大きな屋敷――その中に、只ならぬ威圧感を放つ男達が円を囲むかのように集まっていた。
上園「大きな力に呑み込まれるだけの弱者共が、悪足掻きを・・・!」
<異端の新勢力>、上園龍臣。
家村「元はといえば・・・テメエらがあのUSBを盗られたからこんな事態になったんだろうが」
<冷酷な頭脳派>、家村龍美。
源「植野、藤森!叔父貴はまだ助からねえのか!?」
<最狂の暗殺集団>、源龍海。
植野「うるせえな・・・こういう時の交渉と始末ってのが、人間は一番面倒なんだよ」
<グループの金庫番>、植野龍平。
藤森「あのガキ共・・・なんでキレイさっぱり片づけさせてくれねえのかな~?」
<闇の掃除屋>、藤森龍生。
克也「傘下組織とはいえ、連中はうちの一派を潰した奴らだ・・・兄貴が言った筈だぞ?侮るなって」
<少数精鋭の武闘派>、克也龍一郎。
善信「まあ、年寄りにはせいぜい追い詰める程度が限界でしょう・・・後はうちがやりましょうか?黒崎さん」
<最大規模の構成員を束ねる暴君>、善信善龍。
黒崎「・・・手柄上げて、そこまで跡目が欲しいのか?」
そして<次期総裁と言われる男>、黒崎君龍・・・ここにいる者は全て、九つの龍の名の下に集まった九龍グループの会長達だった。
???「・・・総裁が逮捕されたことでピリピリしているようですね?」
その時、美しい容姿を持つ1人の若い女性が、九龍の会長達の集まりに割って入って来た。
上園「貴女は・・・?」
黒崎「暗石舞衣・・・カジノ建設の計画に賛同している<クライシス財閥>の御令嬢だ」
家村「そんなお嬢さんが、うちの間に入って何の用ですかい・・・?」
暗石「おっしゃる通り、USBの中身を公表した彼らは相当の手練れ・・・そちらは一旦手を緩めて、今はSWORDの制圧に全力を注ぐべきでしょう。嵐ヶ丘の方にも釘を刺しておきましたし・・・ただ、もう1つ邪魔な存在を片づけておかなければ」
善信「その邪魔な存在・・・ってのは?」
暗石「ええ・・・鬼邪高の縄張りでしぶとく燻っている、馬路須加女学園です」
第一部 完