さくら達がシュラ率いる矢場久根の進軍を防ぎ、タイヨウを連れ帰ったその後の夜、ゼロは1人で帰路についていた。すると、そんな彼女の後ろから声をかける者がいた。
???「・・・てち!」
ゼロが声のした方向に振り返ると、そこにはマジ女のものとは違うブレザー系の制服を着た少女が立っていた。その少女はゼロにとっての顔馴染みでもあった。
ゼロ「・・・あやめ」
あやめ「久しぶり・・・だね。マジ女での生活、どう?」
ゼロ「・・・どうもこうもない。明日も早いから、帰るね」
ゼロはただ一言だけ返して去ろうとする。しかしあやめは、もう一度ゼロに話をしようとした。
あやめ「てち――」
ゼロ「関わらないで!・・・私なんかと一緒にいたら、貴女も危険な目に遭ってしまう」
あやめ「・・・っ、長濱さんのこと・・・まだ引きずってるの?あれは他の生徒がいじめてたせいで、てちのせいなんかじゃ・・・!」
ゼロ「違う。私のせいだよ・・・何も無かった私と関わろうとしたばかりに、ねるは・・・」
ゼロは自身の過去を語る途中で、再び足を進めた。あやめはゼロの後ろ姿を悲しい目で見送ることしかできなかったが、そんな彼女達に忍び寄る不穏な影があった・・・
一方、同じくマジ女を下校して帰る途中だったツル、シスター、メンドウ。3人はさくら達がシュラから持ち帰った情報を聞き、複雑な心境を抱いていた。
ツル「・・・まさか、ツクヨミの義理のお姉さんが前のラッパッパ四天王・おたべさんだったなんて」
メンドウ「ひょっとして、マジ女はこれから捨照護路や鬼邪高だけじゃなくて、九龍とも喧嘩することになったりするのかな?」
シスター「そんな!怖いよ・・・九龍は色んな人達が集まってできてる組織だし・・・」
ツル「・・・確かに怖い。普通なら、私達高校生の立ち向かえる相手じゃないし。でも・・・さくらちゃんだったら、どうするかな?」
メンドウ「えっ・・・?」
ツル「ううん、さくらちゃんだけじゃない・・・ゼロだって、今まで群れて1人や2人を脅すようなやり方を否定してたわけだし。もし、九龍みたいに大きな敵が相手でも2人が逃げずに戦うとしたら・・・私達は、ただ隠れて逃げたりするだけでいいのかな・・・」
シスター「ツル・・・」
今まで喧嘩することに消極的だったものの、さくらやゼロが戦い続ける姿に影響され、ただ隠れているだけでいいのかと迷うツル。メンドウとシスターも、彼女の迷いを知って深く考え込むようになった。
ツル「・・・え?」
その時だった。ツル達の前に見知らぬ男達が立ちはだかり、行く手を阻んだ。3人は慌てて後退しようとしたが、後ろにも数人の男達が迫っていた。
「へへへ、マジ女のヤンキー発見~!」
メンドウ「な、何なんですか貴方達は!?」
シスター「キャアァァッ!止めて、離して・・・!」
ツル「だ、誰か・・・!嫌ぁぁぁっ!!」
僅かな抵抗も虚しく、ツル達は謎の男達に囲まれて身動きを封じられてしまう。その様子を背後から確認する2人組の姿があった。
???「ククク・・・これで餌が手に入ったわね」
???「シュラの奴、うちとの同盟をチャラにするような真似しやがって・・・まあ、こっちにはまだ激尾古がいるし、いざって時にはどうにかなんだろ」
???「そうね。マジ女のヤンキー共の首を、思う存分獲ってやりましょう・・・!」
男達に囚われたツル達を餌と称し、シュラとの同盟のことまで口にした2人の不良少女。彼女達の正体と、その目的は・・・?
翌日、マジ女校舎の体育館内――そこには、生徒会のシャドウとミュゼ、タイヨウら四天王、さくら、そして密かに中に入っていたゼロの姿があった。だが、ツル達の姿が無いことにさくらは不安を抱いていた。
さくら「あの・・・ツルさん達は来てないんですか?」
タイヨウ「えっ?あの3人なら、今日はまだ見てないけど・・・」
さくら「そう・・・ですか」
その時、体育会の入り口から入ってくる1人の生徒がいた。現ラッパッパの部長・ツクヨミである。一同がツクヨミが中に入って来たことを確認すると、早速シャドウが話題を進める。
シャドウ「・・・矢場久根のシュラから聞かせてもらった。お前の義理の姉が、先代のラッパッパのおたべさんだということ・・・そしてお前が、マジ女の情報を売った捨照護路と九龍に復讐しようとしていることも」
ツクヨミ「・・・だったら何?」
ミュゼ「貴女、正気なの?同じ高校を相手にするだけならともかく、九龍みたいな巨大組織を相手にしようだなんて・・・」
ツクヨミ「・・・先代のラッパッパだって、銀獅子会や海外マフィアと戦った」
シャドウ「それはこちら側も武器を用いていたからだ。だが、あれ以来この国では暴対法の締め付けが強化され、拳銃などの使用は固く禁じられるようになっている。俺達のようなガキの喧嘩で簡単に倒せる相手じゃない」
ツクヨミ「頭さえ潰してしまえば、それで終わりでしょ?」
タイヨウ「ツクヨミ、考え直して。私達だけで立ち向かえる相手じゃない・・・SWORDのリーダー達と話をして――」
ツクヨミ「冗談じゃないわ・・・鬼邪高の卒業生は九龍にスカウトされる人間も多い。山王だって、この地区一帯で好き勝手してたムゲンの残党に過ぎない・・・そんな連中に頼るなんて御免よ」
鬼邪高などへの敵対心も変わらず、シャドウやタイヨウの説得にツクヨミはまるで応じようとしない。すると、2年のモデルとプッシュが血相を変えた様子で走って来た。
ウサギ「モデル、プッシュ・・・?」
プリンセス「どうしたの、貴女達?」
プッシュ「どうしたもこうしたもねえよ!」
モデル「うちの校舎に、こんな物が届いてたわ・・・!」
シンガー「・・・置き手紙?」
モデルが手に持っていた手紙をシャドウが受け取り、内容を確かめる。その手紙には、一同に揺さぶりをかける文章が記されていた。
シャドウ「・・・『馬路須加女学園の生徒は預かった。返してほしければ、街外れの倉庫まで来い』」
ミュゼ「何ですって・・・!?」
さくら「・・・!もしかして、ツルさん達が・・・!?」
手紙の主が預かったというマジ女の生徒が、ツル達ではないかと推測するさくら。モデルとプッシュは、さくらを見て初めて3人がいないことに気づいた。
モデル「そういえばアンタ、今日はあの仲良し3人組と一緒じゃないの?」
さくら「いえ、登校した時から全く姿を見てなくて・・・」
プッシュ「誰なんだよ、このご時世に今更誘拐じみた真似する奴って・・・!」
さくら「私、行ってきます・・・!」
シャドウ「待て!まだ続きがある・・・『ただし、倉庫には平手友梨奈1人で来るように。条件を守れない場合は、そのお友達も含めて全員バラす』」
ゼロ「・・・っ!!」
手紙の下の文章は、ゼロの心を大きく揺さぶった。そしてさくら達は、何故ゼロが指名されたのかを疑問に持ちながら、一斉にゼロに視線を向けた。
さくら「ゼロさん・・・どういうことですか?」
ゼロ「・・・まさか・・・あやめ?」
タイヨウ「あやめ・・・?」
ゼロが口にしたあやめという名前に、一同は首を傾げる。すると、シャドウとミュゼが顔を見合わせ、ある事を話し始めた。
シャドウ「・・・ゼロ、お前の過去の事情はこちらで調べさせてもらった。数年前、お前が通っていた中学の同級生が事故で亡くなった・・・名前は長濱ねる。彼女はお前に親しく接しようとしていた一方、周りの生徒からはいじめに合い続け、その影響で心身共に深く傷ついたまま、走行中の車に撥ねられ命を落とした・・・と」
ウサギ「え・・・っ」
シンガー「そんなことがあったの・・・?」
プリンセス「まさか、貴女が私達の行いに反発していたのは・・・!」
ゼロ「・・・中学に通うまで、私に友達と思えるような人はあやめしかいなかった。あやめとクラスが離れ離れになって、一人ぼっちで中学生活を送ってた私に、優しく接してくれたのがねるだった。それからあの子は周りの生徒にいじめを受けるようになったけど、落ち込むことなく私に寄り添おうとして・・・でも、結局・・・っ!」
ゼロは自分の過去に起きたことを話しつつ、そのまま体育会を出ようとした。しかしさくらが、彼女の手を掴んで止めようとする。
さくら「待って、ゼロさん!」
ゼロ「私に関わらないで!ねるがいじめに合って、事故で死んだのも私のせい・・・私と関わりを持ったばかりに、あやめも貴女の仲間も・・・これ以上、私と関わった人間が不幸になるのは沢山なんだよ!!」
ゼロはさくらの手を振りほどき、全速力で体育会を出ていった。あまり見せることが無かったゼロの感情に触れたさくらは、ツクヨミにその思いをぶつけた。
さくら「・・・菜緒、助けてあげないの?ゼロさんも、私達と同じように育ったマジ女の生徒なんだよ?マジ女を守る為に、菜緒はラッパッパの部長になったんじゃないの!?」
さくらが感情を露わにしてツクヨミに問い詰めるも、ツクヨミは表情一つ変えようとしない。そんな彼女に、さくらは唇を噛みしめながら言い放った。
さくら「・・・今の菜緒には、誰も付いて行こうとしないよ・・・!」
そう言って、さくらはゼロの後を追おうと体育会を出ていく。その場に残ったタイヨウやシャドウ達も、ツクヨミの考えは理解できずにいた。
タイヨウ「ツクヨミ・・・貴女は、鬼邪高を倒すことでSWORDだけじゃなく九龍の目も引き付けて、混沌とした状況の中で復讐を果たすつもりなの?」
ツクヨミは何も言い返そうとしない。この彼女の反応に、タイヨウは自身の拳を握りしめながらツクヨミに詰め寄る。
タイヨウ「そんなのおかしいよ!おたべさんが・・・ツクヨミのお姉さんが命がけで守ったマジ女を、貴女の復讐の為に利用するなんて――」
ツクヨミ「何が分かるって言うの!?」
突然の怒号に、ウサギ達やモデルとプッシュは気圧された。ツクヨミもまた、暫らく見せていなかった怒りと悲しみに満ちた目をしていた。
ツクヨミ「私には、お姉ちゃん以外に大事なものなんてない・・・っ、それを失った私の苦しみなんて、貴女達には分からない!怒りも、悲しみも!!私に残された道は、もうそれしか・・・ないの・・・っ」
感情をむき出しにしたツクヨミは、自身も足早に体育会から姿を消した。目的の意味も知らずに統率されていたマジ女は、生徒会やラッパッパ四天王とツクヨミ個人という構図に分かれようとしていた・・・
さくら「はぁ、はぁ、はぁ・・・っ!」
その頃、さくらは1人飛び出していったゼロを追いかけようと、鬼邪地区の街中を走っていた。置き手紙の主に捕まったであろうツル達と、自分と関わったせいで親友が不幸になるというゼロ・・・その両方を放っておけないさくらは、無我夢中で走り続ける。だが、その道中で白いセーラー服の少女とぶつかってしまう。
さくら「うわっ・・・!す、すみません!」
???「・・・待ってください」
さくら「は、はい・・・!」
セーラー服の少女に呼び止められたさくらは、『自分からぶつかってきてその態度は何だ』と言われる予感がして目を伏せてしまう。すると少女は、真剣な表情をしながら口を開いた。
???「・・・何をそんなに急いでいるんですか?」
さくら「えっ?そ、それは・・・」
答えようか答えまいか迷っていたさくらに対し、少女はじっと見つめている。さくらは意を決して、自身の事情を伝えた。
さくら「・・・同じ学園の友達が、さらわれたかもしれないんです」
???「さらわれた・・・?」
さくら「今、もう1人の生徒が助けに行ってるんですけど、その人も人質を取られてるみたいで・・・不幸になるから関わるなって言われたけど、私・・・どうしても放っておけなくて」
???「・・・何故ですか?」
さくら「・・・昔、ある人が一人ぼっちだった私に寄り添ってくれて、生きる勇気をもらったんです。でもその子も、大事な人を亡くして・・・だから今度は、私がその子に寄り添いたい・・・ううん、その子だけじゃない・・・皆と一緒に笑って暮らせる居場所を守りたい。あの頃の友達のような生き方を、私もしたいんです!」
自分の意志をはっきりと伝えたさくらは、一礼してから再び先を急ごうとする。しかし、またもセーラー服の少女が呼び止めた。
???「・・・待ってください!」
さくら「うっ・・・!?」
???「・・・人質を取られたもう1人の親友が助けに行ったと聞きましたが、多分それは罠です。さらった犯人が何をしでかすか分かりません・・・ですから、私も一緒に行きます」
さくら「・・・えっ?」
???「犯人が1人とは限りません。何人か仲間を連れて、場合によっては一方的な仕打ちをすることも考えられます・・・1人で突っ走るより、少しでも人数のいた方が楽になります」
さくら「あ・・・ありがとうございます!」
少女の意外な提案に、さくらはもう一度頭を下げた。そして彼女の制服を見ながら、少女自身のことを尋ねた。
さくら「あの・・・貴女は一体?」
リリィー「私は<嵐ヶ丘学園・花組>のリリィー・・・貴女達の喧嘩、私が買います」
第9話へ続く