「ちきゅう座」より転載。
「風のたより」が伝える、忘れてはならないもの。
(2020年8月13日)
詩人の石川逸子さんからの「風のたより」が不定期に届く。「たより」から聞こえる風のこえは、忘れてはならないものを思い出させる。そして、弱い者、さびしい者たちの心を伝えている。
「たより」は、戦争の悲惨、戦争の不条理、戦争の悲哀、戦争の理不尽を、繰り返し繰り返し訴え続けている。ときに、その迫真さにたじろぐ。
「たより」の20号に、17ページに及ぶ「原爆体験記」が掲載されている。筆者は高校生(新制)である。広島県立二中(旧制)の2年生当時の被爆体験を、4年後の49年に綴ったもの。その詳細な記述の生々しさに驚かざるを得ない。
そして、「戦争とカニバリズム」の記事。「カニバリズム」は比喩ではなく、その言葉どおりの記録である。加害者は敗戦を信じなかった皇軍兵士たち、被害者はフィリピンの山村の住民。戦犯裁判の記録として確認されているところでは被害者89名を数えるという。45年10月以後47年2月までのことであるという。まさしく、鬼気迫る記事。
また、次のような心に沁みる詩も掲載されている。作者は「亡き詩人 庚妙達(ユ・ミュンダル)さん」とのこと。
チュムイ 巾着
わたくしの
ハルムニムは
枯木のように
細うございました
庭の日溜りに座る
ハルムニムに
抱きつくと
チュムイから
お小遣いが
出てきます
三角形にしぼられた
小さい巾着袋です
するするっと紐を
引っ張ったり 桔んだり
折れそうな腰にまきつけて
遊びました
そして
魔法のチュムイは
チマに隠れます
隣の釜山から
玄界灘の海を越え
はるばるくっついてきた
素朴な巾着は
祖母の母の手縫いだったろうか
手のひらに軟らか
朝鮮紙幣が
小さく きちんと
折りたたまれていても
目本国では 決して
使用できないのです
白髪を束ね 銀のピネを挿す
チョゴリ チマのハルムニムは
遠い向うから
白一点の美しさで
わたくし達 孫の所へ
訪ねてくるのです
さすらいの地へ
ひっついてきた
チュムイは
さいごのお伴にも
黙っていっしょでした
ああ
ひそやかな痛み
ひそやかな愛を
閉じこめられていたであろう
袋のなか
ついに
何もチュムイに
入れてやれなかった
わたくしでした
石川さんご自身の、こんな、老化を楽しむ詩もある。
脳の奥で・石川逸子
脳の奥で
引っぱり出してもらえない
コトバ が うようよ うごめいています
(あらら わたしの番なのに
どうして呼んでくれないの)
(おや 今度はわたしだ
ほら 退いてよ あなたが邪魔してるから
出ていけないんでしょ)
ハハ
どうか 喧嘩しないでくださいね
花の名前
野菜の名前
昆虫の名前
歴史上の人物
なつかしい友だちの名
脳の奥で
ひしめきあって
出たがっているけど
なかなか 出てきてくれないんだよね
ハハン
それが「老化」です
ひとことで片づけられてしまったけど
脳の奥で
ひしめきあい
出番を待ってるコトバたちを
想像すると
ときに 楽しくなってしまいます
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2020.8.13より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=15436
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://chikyuza.net/
〔opinion10025:200814〕
以上、転載。
詩人の石川逸子さんは、元中学校教師だった。修学旅行の引率で”ヒロシマ”と出会い、”ヒロシマ”に寄り添う活動をおこなっている。
文学に疎い私が、石川逸子さんの名前を知ったのは、『広島通信』という冊子の復刻版。
広島大学に進学した夏、大学の先生の紹介で、広島の詩人協会の大原三八雄先生にお会いした。
当時は、広島工業大学の教授だった。広島県立短大のちの広島女子大(現在の県立広島大学)を退官して、自宅(五日市三宅)に近くの大学に勤務されていた。英文学者でクリスチャンだった。
『広島通信』は、大原先生が個人の力で発行していた冊子で、原爆や平和についての詩や論考、記事を載せていた。私は、先生から送られてくる新聞記事の切り抜きを整理して、日付を追ってまとめる手伝いをしていた。
大学卒業してからも暫く続け、後輩(恩田君)にバトンタッチした。後輩は、のちに京都市の高校の校長にまでなっている。
通信の発行も終了し、大原先生が亡くなった。
退職後、手元にある「通信」はごく一部だった。
広島市立中央図書館には、全て保存されていた。全てコピーしたが、分厚いため、中央部分がうまくコピーできなかった。そうこうしているうちに、「復刻版」があることが判った。偶然、東京の古書店(インターネット)で売っているのを知り購入した。
「復刻版」を発行したのが、石川逸子さんだった。
ブログに転載する許可を得るために、連絡を取り、了解(メールで)を得た。
ただ、私の怠慢のため、まだアップできていない。
「黒柴こたろう&ヒロシマ!Ⅰ」より転載。
「広島通信ーヒロシマの継承」(復刻版)を探しています。
- テーマ:
- 「広島通信」(大原三八雄)
以上、転載。
寄贈者は、高橋昭博氏。ご存じの方もいるでしょう。元・原爆資料館長ですね。
この記事のあと、入手しました。
が、今だアップできず・・・。