筋肉を繋げるセンス | 社交ダンスはヒップホップよりやさしい

社交ダンスはヒップホップよりやさしい

学校教育におけるダンスと言えば,ヒップホップが主流となっていますが、社交ダンスは二人で助け合って踊ることにより誰でも覚え易く、技術とマナーが自然と身に付きます。
子供からご年配まで、踊ることにより相互理解が得られる、素晴らしい芸術的スポーツです。

スポーツ選手が美しい肢体を見せるのは、単に身体を

鍛えているだけではなく、長年のトレーニングによって

全身の筋肉を繋げて運動を行っているからです。

私達の身体は、一生懸命鍛えたとしても、中々思う様に

動かす事は出来ません。その為、本当にスポーツを

思うが儘に楽しめる方は少ないのです。

 

スポーツを楽しむ為には厳しいトレーニングが必要と

思っている方が多いかと思いますが、本当は、それ程

多くの時間を費やさなくても目指す運動表現が出来様に

誰もが成っているのです。

私達人類は、進化の過程で二足歩行を行う事に因り

上肢を単独に自由に動かすことが出来る様に成りました。

特に両手の運動は、ボディや下肢とは引き離して、思う様に

動かすことが出来る様に成った事で脳が急速に成長し

地球の生き物の頂点に立つ事が出来たのです。

 

しかしながら、この身体の各パーツをバラバラに動かす事で

繋げながら行う運動が非常に難しく成ったのです。

特に上半身と下半身の運動機能を引き離したことで、

日常的な事は便利にものの、全身を使った力強い運動や

走ると言ったスポーツに於いて不可欠の運動機能が

衰えてしまったのです。

 

多くの4つ足の動物は、トレーニングしなくても素晴らしい

スピードで走る事が出来ます。近所にたむろする野良猫でも

世界最速のボルトを完璧に追い抜くスピードを持っています。

私達は上肢と下肢をバラバラに使う事で、スポーツをする

能力もパワーも失ってしまったのです。

その為、二足歩行でスポーツを仕様とすると、その機能を

復活させなければ上手く身体が動かないのです。

 

多くの時間を費やし、苦しいトレーニングを重ねる事でようやく

四足動物の普通レベルに成れる位なのです。

しかし、多くの方の間違いは、身体を鍛えさえすれば運動能力が

向上し、目的のスポーツが上手く出来ると思っている事です。

確かに全身の筋肉が発達すれば、スポーツをするのに有利と

成りますが、その事でスキルが著しく増すという事では有りません。

時間を掛け運動を覚えさせる事で思い通り動こうとしていますが

例え秀でる運動能力を持ったとしても、繋げる技術が無ければ

それらの筋肉が単独に動き、其々が動きを邪魔し合ってしまい

かえってパフォーマンスが悪く成る事が多いのです。

 

大切な事は、使われる筋肉と使わない筋肉を目的に応じて

しっかりと使い分けなければ成りません。

筋肉を大きくして見た目スポーティな身体に成ったとしても

それらが身体の機能に合わせて繋がり合って動かなければ

思い通りの運動は出来ないのです。

その為、長い月日を費やして体験的に運動方法を覚えると言う

極めて原始的な方法で多くの方が練習に励んでいるのです。

 

何故、動物達は何もトレーニングしなくても思い通りに身体を

動かして目的を果たせるのか、それは、最初から身体の上肢と

下肢を繋げて運動しているからです。

数百回の腕立て伏せや腹筋運動が出来ても、シックスパットの

腹筋を手に入れても、身体の筋肉が正しく使えないとスポーツも

社交ダンスも思うが儘には楽しめないのです。

 

部分部分の目立つ筋肉を鍛える事も大切かもしれませんが、

それらを繋ぐ筋肉を使えなければ、それは無駄な肉の塊を

身に付けている様なものです。

出来るなら膨大なる時間と費用を掛けなくとも、素晴らしい

思い通りのパフォーマンスが出来る身体が欲しいものです。

この繋げて動くと言うのに初心者もプロもありません。

誰もが持っている筋肉の繋がりなのですから、その事を知り

如何に繋いでトレーニングするかを知れば、10年かかる

運動表現が数か月で出来るのです。

 

また、それらの筋肉の動きを作る為のストレッチ運動も

多くの方がボディや大きな筋肉を伸ばしたり広げたり

する事に集中していますが、その大きな筋肉は直接力を

加えてストレッチするのではなく、繋がった先端の筋肉を

小さな力で使う事で簡単に出来るのです。

簡単に例えるなら、プラスティックの下敷きを曲げる時

下敷きの中央を直接曲げずとも、端を左右の指で挟んで

軽く下に曲げれば何の苦労が無く曲げられるのと同じで

身体の大きな筋肉を動かす方法は極めて易しいのです。

 

スポーツも社交ダンスも、自分が思う様に楽しむには

多くの時間と費用が掛かると思い込んでいる方が多く

上手に踊れるには特殊な能力や才能が無ければ出来ない

と思っている方が殆どと思われます。

本当に時間が係るのは、自由に使える身体を持った後

自分の思いを身体に託し、豊かな感情表現を生み出す時

なのです。

表現をする以前の道具の使い方で悩んでいたり

道具を使う事が社交ダンスを踊る事と思っている方が

とても多いのです。

 

誰もが持っている運動機能とその使い方を習わずして

スポーツも社交ダンスも楽しめないのです。

この機能は、自分の身体を動かすためというより、

社交ダンスに於いてはお相手の身体と繋がり合い

お互いの筋肉を柔らかくリズミックに動かすために

絶対必要な機能なのでも有るのです。

 

残念ながら、これまでレッスンしたそこそこ踊れる方や

更には競技選手やプロでさえ習っていなかったのが

現状です。

そういう私も、数十年前たまたま身体についての説明を

欧米のトップコーチャーに習っている時ヒントをもらって

気が付いたに過ぎません。

ステップやルーティンの演じ方の教えを乞う日本人が

殆どな為、彼らも求められなければ説明しない様です。

 

当時、一体何を言っているのか解らなかったのですが

今はその意味が痛い程解ります。

何故もっと早く気が付かなかったかと思いますが、

充分に理解して自分の踊りを変えられる時が来たのは、

残念ながら引退をした後でした。

彼らの素晴らしい踊りの原点は、非常に単純で自然な

誰もが持っている運動機能にある事が素晴らしいのです。

 

社交ダンスは、世界中の誰とでも楽しく踊れるというのは

ステップや踊り方が簡単というのではなく、誰もが自然に

動く事で楽しく演じられる理由があるからなのです。

なぜ、指先が触れるだけで、身体の一部が触れているだけで

お相手の全身の運動や表現が感じられるかの理由が

ここにあるのです。

どんなに素晴らしい踊りであっても、外見的な理解や

テキスト的説明では自由に楽しくは踊れないのです。

太古の昔に見失った私達の運動機能をもう一度思い出し

少しでも動物達の素晴らしい能力に近づきたいものです。