社交ダンスを踊る時、男女共に気持ち良く
演じられる条件の一つに、バランスを失わないで
踊り続ける事、と言うのが有ります。
男女がコンタクトしながら踊っている時、どちらかが
バランスを失って踊っていると、必ず、パートナーに
負担が掛かって来ます。
人間は、二足歩行をして生活をしている事から、
しっかりとしたバランスが無ければ、歩く事も出来ず
日常生活もままならない状態になります。
歳を重ねたり、身体の様々な所が機能を失ってくると
真っ先に影響が出てくるのはバランスと言えます。
地球の重力に対して、しっかりとバランスを取る事で
様々な運動表現が出来るのであって、歩く事も
走る事も、はたまた、社交ダンスを踊る時も、バランスを
失ってしまうと、運動表現が非常に難しくなります。
しかしながら、人間は、身体の機能が損なわれて来ても
様々な方法でバランスを取り、日常生活を行う事が出来て、
見るからに体形が変わり、立っているのがやっとの状態と
成っても、普段通りに過ごしている事も多いです。
とは言うものの、社交ダンスに於いては、音楽スピードで
お互いに、相手に負担を掛けないで踊れなければなりません。
多くの方が、しっかりとバランスを取って、相手に負担を掛けず
踊っている様に見えますが、二人で踊った途端、一人で動くより
運動能力が欠けてしまうペアが少なくありません。
問題は、習った通り踊っていると、目の前の方は踊り易く
外見的には美しく踊っていると思っている方が多い事です。
社交ダンスは、お互いに、コンタクトする事に依って
運動機能が高まる事が重要なのですが、踊り出した途端
お互いに、相手の運動を邪魔したり、負担を掛けている事が
多いのです。
特に、リード、フォローと言った、自分の運動が相手に直接
影響を与える時、正しい運動を知らないと、ただ、相手を
力づくで動かしたり、何も考えず闇雲に付いて行くだけで、
相手の気持ちを感じられない重い踊りと成ってしまいます。
社交ダンスの踊りに於いて大切な事は、自分の行った
全ての運動表現は、相手の運動の結果とも言え、
自分の運動表現が、相手の運動表現で説明できる
と言う事が大切です。
この事は、男女の足形を知っていれば上手く踊れると
言う事ではなく、足形すら、二人の運動表現から生み出され
外見的な足形を知っていても上手く踊れないのです。
つまり、パートナーの上半身の運動機能を知っている
と言う事が重要です。
男女は、コンタクトしながら、同じ運動をしているのでなく
其々に役割が違っている事に依って、一つの動きに見え
男女の異質の運動が、どの様に繋がり合って、一つに
見えるのかを知る事が大切です。
もちろん、自分のパートナーや習っている先生と踊る時と
その他の方と踊る時は、お相手の身体の作りも機能も
全く違うものです。
お互いに負担を掛けないで上手く踊れると言う事は、
其々のパートナーに対して、最も相応しいやり取りを行い
ペアとして最も相応しい運動表現が出来ると言う事です。
スタンダードにおいて、男子のホールドの上で演ずる
自分の上腕が如何に男子に大きな負担を与えているか
理解できていない女子が多い事や、力強く女子を踊らせ
大きな演技をしているように思っている男子が、如何に
女子のバランスを崩し、自らの運動機能を低下させて
踊っているかが解っていない男子が目立ちます。
外見的に目立つ踊りが出来ると、上手に成ったかのような
錯覚をしているペアも少なく無く、自分達の持っている
運動機能が使えず、バランスを失いながら、お互いに
支え合って踊っているのに気が付かないペアも多いです。
ホールドは、相手の機能を高める為に使う事は有っても
自分の身勝手な踊りをする為に在るのではありません。
素晴らしい、誰にでも受け入れられる踊りは、
競技選手やプロの踊りの様な、外見的に豊かな踊りではなく、
其々のペアにとって、お互いが相手の負担に成らず、
心と身体が自由に動ける踊りです。
どんなに素晴らしく見えても、お互いに我慢して踊っていたり
習った踊りの記憶の確認の様な踊りでは、身体と心は
委縮してしまい、いつも、身体に命令をして、形と運動を
作り続けなければ踊れなくなってしまいます。
初心者であろうがプロであろうが、コンタクトして踊る
と言う事は、その時、二人にとって一番相応しい運動表現で、
お互いに相手の動きを邪魔したり、バランスを失わせたり
しない事です。
その為には、お互いにパートナーに対する深い理解と信頼が
必要であり、テクニックは、その気持ちを維持するために
身に付けるものなのです。
素晴らしいテクニックを持っていたとしても、そのテクニックを
自分の為に使っている様では、相手の心は開かれず、身体も
不自由と成ってしまうのです。
もし、パートナーが自分の思い通りに踊って欲しいと思うなら、
パートナーが思わず自分の求める様な踊りをしてしまう様な、
進んで受け入れられるテクニックを身に付ける事です。
その為には、パートナーのステップや外見的表現だけでなく
心と身体の理解が必要です。
そもそも、男女は、水と油の様に違っていると思っている方が
理解しやすいものです。
水が油に、脂が水に溶ける事は、何かの触媒を使わなければ
難しいですが、人間は、相手の気持ちを感じられる動物です。
其々の違いと特性をよく知る事で、二人の共通の目的が
達成できるのです。
外見的にも生物学的にも異なる点が多い男女が、
踊り出した途端、まるで一つの生き物の様に、素晴らしい
音楽表現が出来るのは、お互いの深い理解が在ってこそ
と言えるのです。
踊っている時、男女がバランスを失わないで踊れると言うのも
単に、物理的な運動だけではなく、男女の違いから生じる、
心と身体が大きく影響しているのです。