・・・・・・・っということで、仕切り直しです。(^^ゞ
ここではできるだけストーリーを書かない主義ですが、今回は例外。
ヘビメタというのかな?かなり過激なサウンドと歌詞の男女二人組のバンド。
ぼくの印象では、なかなかイケている曲です。
彼らは大型バスに乗って、各地を演奏旅行しています。
どうやら芽が出始めそうな雰囲気。
二人は深く愛し合っているのですが、女性のほうは何かワケありで、大きなストレスを抱えている様子。(終盤で明らかになりますが。)
男は野菜の(不味い)ムースを二人分作ってくれますが、女性は好きじゃなさそう。
男も無理強いせず、優しさを見せます。(このような細やかな描写が散りばめられています。)
ある時、男の耳が聞こえづらくなります。
この辺の音響描写が素晴らしい。
観客も、自分が難聴になったような錯覚を覚えます。
専門医に診察してもらうと、どんどん悪化して回復する見込みはないと告げます。
医師がちょっと漏らした、インプラントという頭に埋め込む人工装置があるけど、費用は高いよという言葉に男はすがります。
友人が紹介してくれた聾唖者専用の施設に、男はイヤイヤながらも入所することになります。
別れ際、男は必ず迎えにいくから待っていてくれと彼女に言い、彼女も頷きます
長い抱擁をして別れます。
彼を迎える所長が好い人で、彼自身も耳が聞こえません。
先ず彼はバスのキーと携帯電話を差し出すよう要求します。
これは、今までの社会との関わりを完全に絶つという意味で、男も渋々従います。
自己紹介から始まり、聾学校での子供たちとの触れあいなど、長い描写が続きます。
その中で、聾唖者のほとんどの人が「依存症」であることが分かります。
所長はアルコール依存症、他にはヘロイン依存の患者など。
男は当然ドラッグ依存症です。(しかし、4年間やっていないと強調します。)
実はこの「依存」が、映画のキーワードなのです。
なかなか生活に馴染めない男に、所長は思ったことをただ紙に書き続けるようアドバイスします。(この意味はとても深いのですが、男は最初理解ができません。)
表面的には、男の順応性は非常に高く、手話をすぐに身に付けてしまいます。
他の入所者や子供たちとの関係もすこぶる良く、所長はこの施設にスタッフとして残る気はないかと誘うほどです。
しかし、男は所長に隠れてネットを見ていたり、手術代を捻出するためにドラムやミキシング装置を売ったり、バスを売ったりしています。
破格の安さで売ってしまうのですが、買い戻すことが前提なのです。
この辺は、男にミュージシャンであることの執着が見えます。
さて、ついに男はインプラント手術を受けます。
最初、聞こえるようになったこと自体に男は喜びますが、すぐに音質が悪いことにイラつきます。
ミュージシャンとしての拘りが深いからです。
男は施設に帰って、所長に手術を受けたことを打ち明け、そして借金を申し込みます。
更に、出ていくまで3週間の滞在延長をお願いします。
所長はその申し込みをキッパリ断り、直ちに出ていくことを要求します。
その理由が素晴らしい。
施設の人たちは、誰一人自分が「障害者」だとは思っていない。
男の問題はここ(耳)ではなく、こちら(頭の中=気持ち)の問題だと言います。
耳が聞こえないことを障害と思う限り、君はここにいる資格がないと突き放すのです。
実は、紙に気持ちを書き続けることは、自分に向き合い、現実を受け入れることであり、それが神の救いなのだと所長は暗示するのです。
男は、自分は神など信じない主義だと言いますが、神は信者だけを助けるものではないとたしなめられます。(この辺のやり取りは前後の記憶が曖昧です。)
所長は新しい人生へ踏み出すことを男に求めていたのに、男はミュージシャンという耳が聞こえない者にとっていちばん非現実な夢を諦めないのです。
そのくせ、借金を申し込み、しばらく滞在させてくれと求めるのです。
この男の最大の問題点は、その「依存体質」にあると所長は見抜いているのです。
要するに「甘え」なのです。
出ていくときの男の捨て台詞、「彼女の父親はとても裕福なんだ」と。
観客はここで、あぁ~あとため息をつきます。
男は自分の依存体質にまだ気付いていないのです。
男は彼女が住むパリまで追いかけていきます。
彼女の父親は男を最初は嫌っていたと打ち明けます。
結果的に娘が自分のところに戻ってきたから、男を受け入れます。
実は、彼女は父を捨て離婚した母親に付いて家を出ていたのです。
母親は結局自殺してしまい、行き場を失った彼女は男とバンドを組み、放浪の生活を送っていたのです。
彼女のストレスの原因がここで明かになります。
バンドを組んでいたときの過激な歌は鳴りを潜め、正反対の、実に静かな(ある意味宗教的な)歌を歌うように変化していたのです。
そう、彼女は男と別れている間に、自分の人生スタイルを掴み取っていたのです。
ところがそこに男が帰ってきて、またバスによる演奏活動を再開しようと彼女に迫ってきたのです。
ストレスを抱えていたとき、彼女は男に「依存」していたのです。
二人は再会したあとも強い愛を確かめ合います。
しかし、彼女は腕をかきむしり始めます。
それは、彼との生活は彼女にとってストレスのサインだったと、ようやく男は気付くのです。
結局、男は借金を申し込めないまま、家を出ていきます。
パリの喧騒が、人工の聴覚を通して男に降り注ぎます。
音質が悪く、とても聞くに耐えない騒音でしかありません。
耐えられなくなり、男は人工の補聴器を外します。
すると、突然無音の世界が訪れます。(もちろん観客にも。)
彼は無音になった(パリの)世界を見渡します。
そこで突如、映画は終わります。
・・・・・・・
いつもはサイコな役を演じる(パキスタン出身の)リズ・アーメッドがいい。
残念ながら、作品賞と主演男優賞は逃したようだけど、アカデミー賞にエントリーしただけのポテンシャルを持った映画でした。
★★★★★