【月と六ペンス】
サマセット・モーム著
新潮文庫
1959年09月刊
何を、いまさらである。
感受性であふれていた若い頃、私は本を殆ど読まなかった。
罪滅ぼし、名作シリーズである。
やっぱり面白い。
この本の面白さは、やはり構成である。
なァ~んて、書きだすから歳を取ることは悲しい。
イギリス人らしく、構成がしっかりしている。
作中の小説家に、語らせるやり口がまず面白い。
小説は虚構である。
(また、藪からボーに。)
しかし、小説の中では、その世界は真実である。
現実として、モームはゴーギャンに会っていない。
だが、小説の中での小説家(モーム)は、ゴーギャン(ストリックランド)に会っている。
いかにも、本当に会っている気がしてくる。
分かっちゃいるが、小説の世界を楽しむためには、それがルールだ。
書き手の上手さは、どれだけ現実のように、読者に錯覚させるかにより決まる。
その点、モームは上手い。
そして、シニカルである。
マルセイユ時代のストリックランド(ゴーギャン)を、落ちぶれた船長に生き生きと語らせた後、
小説の中の小説家に「船長の言ったことは、ひょっとして100%ウソかも知れない」なんて、いけシャーシャーと言わせたりする。
まったく、オチョクッている。
あくまで、これはゴーギャンから霊感を得て書かれた完全なる小説であるとすべきだ。
私などは、モームが実際にタヒチを訪れた事さえないのではないかと疑っていた。
(実際は、行った事があるらしい。)
だから、ストリックランドとゴーギャンがどの程度差があるかなどを詮索するなんて、ハナッからナンセンスだと思っている。
この世の中がいかに欺瞞に満ちている世界か、純粋に芸術を目指す人間を対比させながら炙り出している。
全体の構想(プロット)、語り口、テーマ、全てが見事である。
さすが、名作である。
でも、この本がきっかけで、ゴーギャンに惹かれる人って多いんじゃないかな。