【海からの贈物】
アン・モロウ・リンドバーグ著
新潮文庫
1967年07月24日発行
リンドバーグというと大西洋単独無着陸飛行が第一に有名だろうが、へそ曲がりの私は彼の息子の誘拐事件のことを思い出す。
彼の妻が作家だとは知らなかった。
誘拐事件のことを奥さんの側から何か伺えないかという、極めて不純な動機で本を手にした。
意外と言っちゃ失礼だが、良い本に巡り合った。
本当に良い本である。
彼女の経歴について、本からは一切うかがい知る事は出来ない。
子育ても終わり、中年を過ぎた女性の心を、正直に、本当に正直に書いている。
所詮、男性は女性の事は分からない。
男性が書いた女性像は、あてにならない。
だが、女性が女性の事を書いたからといって、分かるわけではない。
この著者の価値は、女性でありながら、男性に近い思考方法で女性を分析出来ているところである。
女性特有の感覚的な表現であふれているが、覚めた視点で自分を眺めていることが、とても好ましい。
女性について50年以上も前に書かれた本でありながら、今読んでも全く遜色ない。
普遍的なレベルまで昇華しているからである。
「女性は、常に与え続ける存在である。まるで母乳を与えるように。」というような表現に、はっとさせられる。
女性必読の書であるのはもちろん、男性にもぜひ読んでいただきたい。
多少は、女性を見る目が変わると思う。
・・・・・・っと、読書感想は以上だが、やはりどんな人生を歩んだか、野次馬根性もあるので、ちょっとネットで調べてみた。
1906年に生まれ、1929年(23歳)に4歳年上のリンドバーグと結婚。
例の、長男(1歳8ヶ月)の誘拐事件は、1932年に発生している。
彼女が26歳のときだ。
当然この本を書いたのはそれより後で、1955年である。
49歳のときである。
事件が心に及ぼした影響は計り知れないものがあっただろうが、この本を読む限り、そんな個人の体験は一切触れられていない。
だが、この本を書いた後、夫はドイツ女性と関係を持ち、その間に3人の子供を儲けている。
その浮気は、彼が72歳で死ぬまで続いたという。
その夫が死んだとき、彼女は66歳であった事になる。
晩年は、そんな事で心を悩ませ続けたであろう。
ところがドッコイ。
彼女は、それからさらに30年近く生き続け、亡くなったのは2001年というから、95歳という長寿を全うしたことになる。
この本の中で、女性は独りになる時間が大切だといった彼女。
十分すぎる時間の中で生きる彼女に、海はどんな贈り物を与え続けたのであろうか。