・・・・・・・っということで、これは良い映画です。
イラク戦争で戦死した兵士(チャンス一等兵)を、何の面識も無い中佐が兵士の両親の元に送り届ける、ただそれだけの映画です。
戦闘場面は一切出てきません。
戦死者の顔も出てきません。
戦死者を氷詰めにして、軍用機で基地まで送り届ける。
そこでは遺体を綺麗に清め、新品の軍服を着せて棺に納めて段ボール箱にパッキングする。
もちろん(血と泥まみれた)遺品も綺麗に洗われる。
棺と遺品を基地で運搬係の兵士が受け取り、国内航空に載せ、家族の家まで送り届ける。
兵士の任務は、輸送される間ずっと死者の尊厳が保たれるように付き添うことです。
基地を出るとき、棺が空港に運ばれるとき、飛行機に乗せられるとき、乗り継ぎの便に乗せ替えられるとき、そして葬儀屋に手渡されるとき、その都度挙手の敬礼をする。
それらの映像が淡々とつなぎ合わされる。
軍服姿の軍人が、一人で飛行機に乗り込むだけで空港の受付、作業員、パイロット、そして一般の乗客までもが、軍人がどういう任務を帯びているか知っているのです。
そして、皆が戦死者に対して、静かに敬意を表する態度を取るのです。
故郷に帰って、葬儀屋の霊柩車がゆっくり走っていると、追い抜くドライバーたちは皆敬意を表するためにヘッドライトを点灯するのです。
いつのまにか出来たルールでしょう。
そう、アメリカでは戦死者が帰還する光景は日常茶飯事なのです。
送り届けるという任務は辛いと同時に、栄誉ある任務なのです。
普通、この任務は下士官が行うものですが、ケビン・ベーコンが扮するのは中佐という高官です。
全く面識の無い一等兵を送っていく過程で、チャンス一等兵がどんな人物で、どう戦って死んでいったかが次第に明らかになってくる。
同時に、ケビン・ベーコンの人物像も明らかになってくる。
終始静かな演技で淡々と物語りは進むのだが、グッと来るものがあって、つい涙ぐんでしまう。
実によく出来た映画です。
Taking Chanceとは、普通に読めばチャンスを掴むとか、チャンスに賭けるという意味ですが、チャンスを送っていくという意味で使われています。
★★★★★
それにしても、こういう戦死者が故郷に帰ってくる光景はアメリカ全国で今も繰り返されていることで、アメリカ人の心の傷は癒えるどころか、その深さを増しているんですね。
それが日常化していることが怖いですね。
つい、平和な日本のことを思ってしまいます。