・・・・・・っということで、女はそれを持って行こうか処分してしまおうか、かなり悩んだ。
それとは巨大なウサギのぬいぐるみである。
結局、それは嫁入り道具と一緒に、新居に向かうトラックの荷台に載せられた。
そのぬいぐるみは彼女の元カレからプレゼントされたものだった。
そのウサギは巨大なだけで、彼女は少しもカワイイとは思わなかった。
ピンクのタータンチェックのスカートを穿いていたが、あまりにも大きなぬいぐるみに作られているので、全体のバランスが悪かった。
しかし、何より相当な値段だっただろうそれを贈ってくれた元カレの気持ちが嬉しかった。
その元カレとは別れてしまった。
こともあろうか、自分の親友と結婚してしまったのだ。
本来なら、自分を振った彼を憎むべきなのだろう。
こんなデカイだけのぬいぐるみなんか放り捨てるべきなのだろう。
だが、自分を裏切った幼なじみには憎しみを感じたけれど、彼に対してはそんな感情はどうしても持てなかった。
自分よりずっと魅力的な友達を彼を引き合わせてしまった己の愚かさを悔いた。
・・・・・・
引っ越した先は2DKの狭いマンションだった。
ソファーの隅にそれを座らせたが、邪魔ではなかったけれど二人にとっては無意味な存在だった。
何度か捨てようと迷ったが、子供が生まれたら遊び相手になってくれるかもしれない。
女の目には、自分より大きなぬいぐるみにじゃれつく娘の姿が浮かんだ。
そして子供が生まれた。
女の子だった。
女の子は成長し、そのぬいぐるみに「萌えちゃん」と名付けた。
そうか、萌えちゃんか、女はそれまでぬいぐるみに名前が無かったことに初めて気がついた。
しかし、期待に反して娘はちっとも萌えちゃんとは遊んでくれなかった。
デカイだけで可愛くないからだ。
それでも捨てることは出来なかった。
男の子が生まれたら、サンドバッグ代わりにキックやパンチを加えて遊んでくれるかも知れない。
次に生まれたのも女の子だった。
次女は全くこのぬいぐるみに関心を示さなかった。
部屋は手狭になり、いよいよ邪魔な存在になってきた。
・・・・・・
子供たちが小学校に通うようになってから、もっと広い家に引っ越した。
女はそのときも持って行こうか散々迷った。
ぬいぐるみは引っ越しの時に大きなビニール袋に入れられ、新居の押し入れのいちばん奥にほうり込まれたまま二度と袋から出されることはなかった。
それでも女は袋に小さな穴を開けておいた。
そうしておかないと萌えちゃんが息が出来ないような気がしたのだ。
・・・・・・
それから何年か経ったある日、夫は粗大ごみとして出される袋の中に巨大なウサギのぬいぐるみがあるのを見つけた。
夫は妻に「もういいのか?」と聞いた。
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