有料老人ホーム | so what(だから何なんだ)

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人生のバックパッカーのブログです。
暇はあるけど体力と金と気力がない。
そんなお年頃。
68カ国で止まったまま先に進みません。(;^_^A

・・・・・・っということで、親父が入所している老人ホームに母親を連れて来ている。

民間の有料老人ホームで、一部の恵まれた老人しか入ることが出来ない至れり尽くせりの施設である。

もちろんエアコンが効いたトイレ付きの快適な個室で、おまけにベランダからの眺めが良いと来ている。

足が弱って自分で歩けないオヤジは、一人で用を足すことが出来ないが、ボタンさえ押せばいつでも若い介護師がすっ飛んでくる。

食堂へは車椅子で送り迎えしてくれるし、3時にはおやつを部屋まで届けてくれる。

レクリエーションも頻繁に開催していて、トランプ、絵画、書道、お遊戯、折り紙など目先を変えたメニューが揃っている。

週に2回は入浴タイムがあって、広い湯船に寝そべって入ることが出来る。

看護師が24時間常駐していて、医師による定期的な検診も行われている。

・・・・・・

こうやって書くと、値段だけあって理想的な老人ホームだと思われるだろう。

だが、親父はいつも不機嫌だ。

レクリエーションも自分が得意な書道しか参加しない。

入所する前は多少自分で車椅子に乗り降りできていたのだが、今ではベッド上に起き上がるのがやっとだ。

寝たきりになるのも時間の問題のように思える。

一日中TVを見ているようで見ていないようで。

あれだけ読書好きだったのに、活字を読むのが面倒になってしまったようだ。

そんな毎日を送っていたらどうなるか?

そう、ボケるのである。

まず、日付の感覚がなくなる。

簡単なことも覚えられなくなる。

最近はエアコンのリモコンを取り上げられてしまった。

なぜなら、この暑いのに暖房にしてしまうのである。

肝心のナースコールが分からなくなる。

ボタンを押せばいいだけなのに、携帯電話と区別が付かず何番の番号を入れればいいかなんて聞いてくる。

ハサミなど危険なものは全部取り上げられてしまう。

薬を隠し持っていても、全部没収されてしまう。

これはアタリマエなのだが、本人は気に食わない。

介護師たちが自分がいない間に家捜しして盗んでいると信じ込んでしまう。

さらに悪いことに、親父はむかし偉い将軍だったので、若い人たちを怒鳴りつける。

彼らも仕事とはいえ、親父のことを扱いかねているのが手に取るように分かる。

こんな調子だから、他の入所者たちとも仲良くしようとしない。

・・・・・・

親父にとって、ここは理想的な場所でもなんでもなく、ジッと死を待つ終の棲家にしか過ぎない。

介護付き有料老人ホームなんてこんなものである。

入所する前は夢のような印象を与えるが、期待値と現実のギャップは大きい。

だからといって施設側を責める気持ちはこれっぽっちもない。

それどころか、よくやってくれている。

そう、これが限度なのだ。

他人が面倒を見るのはこれ以上無理なのである。

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では足りないものは何か?

それは家族である。

いくら金を積んでも、こればかりは解決できないのである。

年老いて体が思うように動かなくなったとしても、やはり家族と一緒に暮らすのがベストなのである。

・・・・・・

母親の携帯電話には、ひっきりなしに親父から電話がかかってくる。

足が痛いと言ってはかかってくる。

おなかが痛いと言ってはかかってくる。

そんなことは介護師をボタンで呼び出せばいいのだが母親に電話してくる。

あれが欲しい、これがほしいと言ってかかってくる。

何もなくてもかかってくる。

仕舞いにはテストだと称してかかってくる。

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寂しいのだ。

あれだけ自尊心が人一倍強い親父でも、寂しいのである。

でも同じく年老いた母親には何もすることが出来ない。

辛抱強く親父のわがまま電話を聞いてやるしかない。

本当は一緒に暮らしたいのである。

昔はそれが自然に出来ていた。

親を老人ホームに入れる息子なんて、親不孝者の代名詞のように言われていたではないか。

3世代が同居なんて普通にあった時代なら、老いぼれ爺さんに孫がじゃれ付くなんてアタリマエの光景だった。

その時代、老人たちは今ほど寂しくはなかったはずだ。

だが、今の老人たちは寂しい。

気兼ねなく話せる相手もなく、快適な部屋の中で至れり尽くせりのサービスを受けながら、老人たちは確実にボケていくのである。

昔の家族形態に戻そうとしてももう無理である。

日本人は、もう引き返せないところまで来てしまったのだ。

今の老人はまだ恵まれている。

金で解決できる部分があるということだけでも幸せだ。

だが、ぼくの20年後はどうだろう?(そこまで生きるつもりはないが。)

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介護ビジネスが今は盛んだ。

だが、日本人は老人だらけの国になることが目の前に迫っている。

それは、金で解決できない老人が大多数になるということを意味している。

今の日本には金がないどころか、借金まみれだ。

経済も一向に上向く気配はない。

そういう意味において、介護ビジネスは仇花なのである。

確実にやってくる破綻を知りながら、だれもそれを見ようとしない。

このままなんともなければ、ずっとなんともないと信じ込もうとしている。

こうなれば、各自で自分の身を守るしかない。

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少なくとも、金を払えば何とかなるという考えは脱したほうがいい。

それより、家族で出来ることは何かを問うほうがマトモな思考方法である。

だって、この問題はすぐに現実のものとなるのだから。

・・・・・・

親不孝な息子でゴメン。m(__)m