・・・・・・・っということで、高校のときに駄犬を飼う前に一度だけ犬を飼ったことがある。
飼ったことがあるじゃなくて、飼う経験をしたことがあると言ったほうが正確だろう。
ある日、中学生のときだったと思うが、学校から帰ってくると家の勝手口に黒い大きな犬が座っていた。
首輪は付けているが、鎖は付いていない。
ぼくが家に入ろうとすると、ウゥウゥ~~と唸って警戒する。
まるで、自分の家を守っているみたいだ。
自分の家なのに、入るに入れない。
騒ぎを聞きつけた母親が家の中から顔を出した。
「ああいいのよ、この子は家の息子だから」と犬に話しかけている。
聞くところによると、どこからか迷い込んできて、えさをやったらそのまま居ついてしまったのだという。
よくよく見ると、猟犬である。
後で知ったのだが、ポインターという堂々たる猟犬であった。
猟犬のくせに迷子になったのだから、ちょっと間抜けな犬だったのかも知れない。
・・・・・・
もちろん、鎖でつないだりはしなかった。
でも翌朝も、雨戸を開けるとちゃんと尻尾を振って待っていた。
そして、翌日も、また翌日も・・・・・・
そのうちご近所で評判になって、FLさんのウチ立派な猟犬を買ったようだよということになった。
当時は(今も)ビンボーだから、そんな由緒正しき犬なんて買うお金がなかったのだが、なぜか優越感が涌いてきて、曖昧に答えていた。
・・・・・・
そんなある日、その犬を近くの丘陵に散歩に連れて行った。
もちろん、鎖は付けていなかったけれど、忠実にぼくにピッタリ付いてきた。
やっぱ、雑種とは違い利口なんだ。
すれ違う人たちが感心した目でぼくらを見る。
ある女性が、この犬アナタの犬?と聞いてきたので、そうだと答えた。
なんて名前?と聞かれて初めて名前をつけるのを忘れていたことに気付いた。
口ごもっていると、その女性はぼくを変な目で見た。
ある広場に着くと、急にその犬が駆け出していった。
しばらく姿が見えなくなったが、そのうちしょんぼりして帰ってきた。
たぶん、ここで飼い主とはぐれてしまったのだろう。
帰り道はなにか元気がなかった。
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そのまま2週間ほど経った。
その犬は、もうここに住み着くことで決心したみたいだった。
もちろん、こちらもずっと飼う気になっていた。
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ところが別れは突然やってきた。
御用聞きの肉屋の兄ちゃんが、ある土建屋のオヤジが飼っていた猟犬を探しているという情報を聞きつけたのだ。
ぼくが学校にいるときに、そのオヤジが家にバンでやってきて、後ろの扉を開いたらそのポインターは自らサッサと飛び乗ったとのことだった。
もうそのオヤジが本当の飼い主であることは間違いなかった。
母親は犬との別れがあまりにもあっけなかったので、とても悲しい思いをしたとのことだった。
でも、走り去る車の窓から、ポインターはこちらを一度だけチラッと振り返ったそうだ。
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あとから、肉屋から分厚い肉がお礼にと家に届けられた。