風印 -windmark- -10ページ目

風印 -windmark-

「遠くふけふけ、どこまでも。」

いつものように俺はそこにいた。
似たような屋敷が幾軒も建ち並ぶその場所。
全ての屋敷の庭には、一枚ずつ立札が掲げてある。
それでしか、屋敷の内部を推し量ることはできないのだ。
きっと今ここは、数えきれない数の人間でごった返しているのだろうが、
俺に見えるのは、俺ただ一人だけだ。

俺は、屋敷を物色して回る。
その中でも、一際目を惹く屋敷を見つけた。
内部の様子をあれやこれやと想像しながら、
俺は扉に手をかけた。

その屋敷の中は、俺の想像とは余りにもかけ離れていた。
家具も内装も何もない、空虚な空間。
ただひとつ、向こう側の壁にドアだけがある。
そのドアノブが、回ったのが見えた。

その瞬間、俺、気づいたんだ。
ここは・・・、俺は・・・。

そのドアから出てきた屋敷の主人であろう
男の姿が一瞬だけ見えた。
手には、何かが注がれたグラスを持っている。

俺は振り返り、一目散に走った。
息は切れ切れで、顔は真っ赤だろう。
自分があんな場所に踏み込んだ事を信じられないでいる。

俺、知ってるんだよ。
見えてはないけどさ。
そのグラスの中身、わかるんだよ。

雲の上とは言わなくても
地面から ほんの3メートル
刻みの低い 茶色の階段
踊り場挟んでもう10段

旅客機は 髪の毛をかすって
雪は 頭のすぐ上から降る
急ぎ歩きの人達は 白い息
見慣れた景色 違うのはこの目

今は忙しなく過ぎる1月で
ここは排気ガスをまたぐ歩道橋
「一足お先」と 呟いて僕は
誰より先に 雪を食べた
地球がそれで回るなら
僕が世界を変えてみせる
世界がそれで変わるなら
僕が地球を止めてみせる

背中を焼かれ惑える星が
近づくことのない6000度
同じように惑える僕が
同じように背を向けた 35.5度
積まれた136の欠片
囲めるは4の静寂
燻る煙草が描く白い渦
狩りにも似た最後の一瞬は
博打打ちの至高の極み

そこは そう
月沈みゆく海の底
花咲き誇る峰の頂
海月嶺花の夢の境地
この6畳の部屋に
ひとりでいるには広すぎて
この6畳の部屋に
想いを詰めるには狭すぎて

決して動くことのない壁を
必死で殴りつづけた
あなたと僕を鋭く隔てる壁を
必死で削りつづけた
その8年間の闇を切り裂いて
心臓めがけて 飛来する無数の
白い白い鋭い棘

僕の溢れ出す鮮血に染まって
息を吹き返す
白い白い鋭い棘


この意識と引き換えに
この身体と引き換えに
僕は刃を手に入れる
紅い紅い 見えないナイフ

この心と引き換えに
この命と引き換えに
僕は刃を手に入れる
紅い紅い 切れないナイフ
言葉が負けた空
僕より遥かに大きい空

こんなとこで日々過ごしてます
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