あるところに、小さな妖精が住んでいました。
遊ぶことが大好きな、元気な妖精です。
ただ1つだけ、苦手なことがありました。
木登りが上手にできなかったのです。
その村では、みんな木登りができなければ、なりませんでした。
なぜかというと、妖精たちはみんな、木の周りでで生活していたからです。
木の下には花がたくさんなっていて、その花のみつはとてもおいしいし、栄養がありました。
そのみつや草の種でも、ちゃんと生きていけます。
でも、木の上には、もっとおいしい果物が、たくさんなっています。
小さな妖精は、生まれてすぐに、木に登る練習を始めました。
お父さんやお母さん、お兄さんやお姉さん、それに友達が、上り方を一生懸命、教えてくれました。
でも、何年たっても、どうしても上手にできませんでした。
ほかのことは、みんなできるのに…。
それを見て、周りの妖精たちは、だんだんイライラしてきました。
一生懸命に教えてあげているのに、ちっともうまくならないからです。
ある日、小さな妖精は、木の根元で休んでいました。
お昼を食べたあと、夕方まで、木登りの練習をしていました。
なんとか、できるようになりたい!
ずっとあきらめずに、練習をつづけていたのです。
でも、今日もできないまま、1日が終わりそうでした。
そのとき、空にへんな形の雲が浮かんでいるのが、見えました。
1枚の画用紙のような、不思議な雲でした。
「木登りの練習、がんばっているねえ。
1人で、あきらめないで、よくやっているよ。
少し休んでみない?」
雲が妖精の子に、話しかけてきました。
「うん…。でも、できるまでやらないと、おいしい果物を食べられないんだよ。
みんなにもめいわくかけてばっかりで…。僕が上れないせいで、みんなを怒らせてるし…。」
すると、雲が言いました。
「とりあえず、好きなことを、描いてごらん。
僕は画用紙みたいに平らだから、好きなものを描けるよ。」
妖精が右手を上げると、その手の形が、空の雲にはっきり描かれていました。
そこで、妖精は、夕日がしずむまで、雲に絵を描きつづけました。
好きなこと…。
お父さんお母さんの絵。
去年の夏、みんなで海へ行って集めた、貝の絵。
大好きな草笛をふいている自分の絵。
友達とかけっこの競争をして、1番になったときの絵。
すきなもの、できることを、たくさん描きました。
「あ、もう日がしずむ!日がしずんだら、僕は消えてしまう。
でもその前に、…」
雲が言いかけたとき、太陽が、山の向こうにしずみそうになっていました。
思わず妖精は、両手で木にだきつきました。
そしてさっきのように、右手を空に向かって、伸ばそうとしました。
すると右手の指が、太い、しっかりした枝を握りしめていました。
そのまま、知らないうちに、木を上りはじめていたのです。
1本の大きな枝のところで、空を見上げました。
雲は、日がかげったので、消えてしまっていました。
「もうなにも、描けないの?」
妖精の子どもは、悲しくなって、木から下りて、走って家に帰りました。
みんなに、さっきのことを話しました。
すると、お父さんが、ニコニコして言うのです。
「心配しなくてもいいよ。
ああいう、平たい雲は、空によく浮かんでるよ。」
お母さんも、ニコニコしながら、言いました。
「その雲がまた空に浮かんだら、いつもの木の枝に乗って、絵を描いてみたら?
そうそう、あなたが生まれた日の夕方、さっき話してくれたのよりも、もっと大きくて、りっぱな雲が浮かんでいたっけ」
次の日からもう、妖精の子は、木登りが上手になっていました。
そして、枝の上で、雲に好きな絵を描くのが、楽しくなっていました。
それで、いつの間にか、村で1番、木登りのうまい子どもになっていました。
みんな、とてもほめてくれました。
今ではほかの妖精の大人や子どもたちと一緒に、木の上でおいしい果物を、食べています。
ただ1つ、みんなと違うことがあります。
雲に描いた絵は、妖精の子だけにしか、見えません。
これで、このお話は、おしまいです。