父さんは余命宣告されたときに俺のワンボックスの運転席にのり「事実上の死刑宣告だな」とハンドルに突っ伏した
かける言葉なんてない
生まれて初めて余命宣告を目の当たりにした
父さんは車でどこかに飛び込むのでは思った
俺の車のキーを貸せと言われたら俺はどうしたんだろう
あれだけタバコを止めるように言っていた母さんはもうタバコをやめるようにとは言わなくなった
腕が上がらなくなり
顔が上がらなくなり
体の支えが必要なぎりぎりまで白いセダンに乗った
孫を抱こうとして真後ろにひっくり返った
姉ちゃんに子どもができて
父さんの死に間に合うように俺にも子どもができて
幻なんて一つもない
現実
現実はいつだって双曲線のように相反してすれ違っていく
思惑と不真面目の激突
際限のない混乱
ウナギを食べた
そばをそのまま食べた
父さんは小食だった
酒をのんだ
父さんは意気揚々と大学の体育学部に入った
数か月でアキレス腱を切った
もう走ることはできなかった
マネージャーを続けた雑草の男
挫折を共感できる魂の男
母さん
ここまできて嫁姑とかどうでもいいだろう
父さんを二つに分けて一体なにがあるんだ
だから
だから俺は自分が灰になったらその辺にぶちまいてくれって思うんだ
俺は父の教えを守っていない
守れていないことが多すぎる
母さんに一言も言えなかった













