意識高いインデペンデンターが再会した話①
https://ameblo.jp/firemoon01/entry-12482125499.html


続き



 2.キムという男


昼休憩からコートに戻る途中、壁にもたれていた男に声を掛けられた。


「こんにちは。今日の調子は如何ですか?」


透き通るような声でもなく、しゃがれた声でもない、明らかにキムとわかる声だった。なぜならその瞬間に顔を見てキムだと認識したからだ。その男はどこからどう見てもキムで、誰がなんと言おうとキムだった。


つま先から頭のてっぺんまで。

おはようからおやすみまで。


キム以上でもキム以下でも無い。

INDEPENDENTERのひとり、キムがそこに立っていた。


たとえ本人が否定したとしても、世界中を敵に回したとしても、僕はこの事実を曲げることは出来ない。


自分の不器用なところが時々こうして顔を出す。


少し間を置いて僕は答えた。

「どうだろう。決して良くはないが悪くもない。ただコートに立つ以上負ける訳にはいかないからね。そういうのは考えないようにしている。インパラが狩りをされる時はきっとそんなくだらない事は考えないだろうからね。まぁ今日の僕はまじかるぱんだなのだけれど。君はさしずめライオンと言ったところかな。」


キムはおもむろにラケットケースを開き、僕の目をまっすぐ見てきた。


「思った通りの答えでした。僕は今日優勝するために来ました。たとえ貴方と交えても負ける気はしません。そう、全てを兼ね備えた完璧なラケット。このアコースティックカーボンインナーならね。」


アコースティックカーボンインナーといえば、アコースティックのカーボンのインナーのそれである。


何度か打ったことがあるが確かにあれは良い。

彼がそこまで自信を得るのも頷ける。

まさに完璧なラケットだ。


「やれやれ。アコースティックカーボンインナーか。前に打たせてもらったことがあるね。確かに良いラケットではあると思うよ。スイートスポットが広いし打球感も心地よい。回転の掛けやすさ、飛距離、弾き具合、どれも悪く無い。ていうか欲しい。それコクタクでいくらだった?けどね、完璧なラケットなどといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」


僕は自分のラケットケースを開きつつキムに答えた。


「なるほど。そこまで認めておきながら欠けている点があると。貴方が言うとまるで負け惜しみのようで滑稽に映りますね。」



「負け惜しみか。確かにそうかもしれない。君のアコースティックカーボンインナーは確かに名作であり良個体である事は間違いない。ただそれと同時に、それはクリッパーCCではない。その時点で君の敗北は確定しているんだ。僕のクリッパーCCはグリップの握りやすさ、打球感、飛距離、スピード、弾き具合、パワーロスの無さ、全てが満たされている。つまり完璧にね。」



「どうやら貴方とは会話ができないらしい。いつかコートに立った時、ゆっくりお話を聞きましょう。」


キムは手に持って居たラケットをケースにしまい、背を向けて立ち去った。


左手の薬指がギラギラと光っていた



後ろにショータイム・アマノが居たことに気付いたのはそれからすぐのことだった。




-続く-