意識高いインデペンデンターが再会した話①
https://ameblo.jp/firemoon01/entry-12482125499.html


意識高いインデペンデンターが再会した話②

https://ameblo.jp/firemoon01/entry-12512978476.html


上の続き




3.超えてゆくもの



It's show time.


たぶん彼はそう口にしたんだと思う。

突然のネイティブで何を言ってるのか分からなかったけど、今ならわかる。


あの時の僕は、ただその場で立っているだけで精一杯だった。

 




アマノくんは同年代の男性といた。おそらく彼のチームメイトだと思う

 

「ご無沙汰してます。こうしてあなたを間近に見ると、かつてあなたを師と仰いでいた日々を思い出します。当時の僕は若く、そしてただただ無知だった。」

 

無機質で感情を読み取れない言い方だった。


「僕を怨んでいるかい?」

 

「どちらとも捉えて頂いて結構です。ただ、ひとつだけあなたに伺いたい事があります。」

 

「ひとつだけなら。」

 

「先ほどキムさんがここに居て、あちらのチームにはだーはらさんが居ました。そしてあなたと僕がここにいる。今日この大会にかつてのインデペンデンターが集結しています。それぞれが全員敵役というかたちで。この事実をあなたはどう受け止めていますか?」

 


彼の目は、宿題やったけど持ってくるのを忘れた生徒を見つめる教師のようだった。

 


たしかに僕は宿題をやったけど持ってくるのを忘れたことはある。


それも数えきれないくらい。

 

ただ実際のところ、その殆どはそもそもやってもいない。

僕は宿題というものが大の苦手で、そういった物を受け付けない体質だった。


今でこそアレルゲンの一つとして宿題があげられる時代になったが、当時はただの甘えとしか見られなかったし、自分でもどうしたらいいのか分からなかった。


小中の連絡帳なんて殆ど白紙で、学校が一体何のためにあるのか僕は何一つ理解していなかったし、宿題がその後の人生にどう影響するかなんて考えた事もなかった。

 

ただし、高校の時のレポートは違った。


提出期限を過ぎたらその場で赤点という烙印が目に見えていたからだ。

40枚以上にも及ぶレポートは徹夜は当たり前で、卓球の試合会場でも待ち時間に書いていた。

深夜にレポート用紙が尽きた時は死を覚悟したこともある。

 


僕の高校はヤンキーが多かった。

どんなに悪事を働くヤンキーでさえも、レポートだけは徹夜で完成させ、職員室で学年とクラス、氏名を名乗り、教師に提出していた。

そういう意味では彼らは真面目で真っ直ぐだった。


僕よりすこし、頭が悪いだけで。

 


ただ、本当に宿題をちゃんと終わらせて、本当に家に忘れたことがある。


あの日、僕は小4だった。

奥富のフラワーラインは名も知らぬ鮮やかな花が咲いていて、田んぼの稲は頭を垂れていた。


悔しかった。


先生にいくら訴えたところで、宿題やったけど持ってくるの忘れたという言葉になんの意味も持たないことを既に知っていたからだ。

いや、そうしてしまったのは自分自身なのだと、人はこんなにも弱く淋しい生き物なのかと、いっそのことガンジーを助走付けて殴りたい、そんな気分だった。


校庭では万国旗が退屈そうになびいていた。

僕は万国旗が好きじゃない。

 


そんな僕が一昨年の学会で発表した論文「部屋と宿題と私」が文科省の目に留まり、24年から公立中学の読書感想分のお題として夏休みの宿題となるのはいささか皮肉な話ではある。

 


彼の発言から少し時間が経ったかもしれない。

 


「再会して嬉しいという気持ちと、こういう形でしか集まれない運命を呪っている。だがこれだけは伝えておきたい。今までチームの運営に関しては多くの可能性とプランを考えてきた。誰にも負けないくらいにね。ただ実行するのを忘れただけだ。それ以上でもそれ以下でもない。」

 

 

「あなたがどうしようもない人間である事は知っています。電車が遅れたとか言いつつ実は寝坊してたり、全然更新してない癖にブロガーは忙しいとか、負け越した時だけこの大会レベル高いだの台が弾まないだの滑るだのラケットはやっぱりクリッパーCCじゃなきゃダメだの、口を開けば文句ばかりです。それに・・・・。」


 

「それに、なんだい?」


 

「それに・・・あなたはその際の口臭にも気づいてない。だからこのチームは・・・崩壊した。違いますか?」

 


最後の方はあまり聞き取れなかったが、おそらくこう言ったんだと思う。


うるさいくらいの心音とドロドロと溶けていく景色の中で、彼の目は力強く真っ直ぐで、そして涙がこぼれていた。


美しい涙だった。

 


いつからだろう。

他人の若さを羨ましく思うようになったのは。

最後に拳を握りしめて涙した日を思い出そうとしたけど、真っ暗な画面には何も映らなかった。



「君の言う通りだと思う。気づいてはいたよ、この口臭。加えて体臭もね。でも自分でもどうして良いか分からなかった。いつからか僕の周りはマスク姿だらけになっていたけど、風邪が流行っているのかと思いこむようにしていた。僕はずっと見て見ぬふりをしていたんだと思う。いや、この場合は嗅いで嗅がぬふりだね。真実から目を背けていたことに違いはない。今ならユダの気持ちも幾分か理解できる。彼は辛い決断を迫られた。今の僕のように。」

 


この時何故ユダが現れたのかは分からない。

僕にとって大きな意味を持つ人物でもないし、今回のケースと何か重なる部分があるとは思えない。


ただ、その場の雰囲気でそれっぽくおしゃれに言い返したかったんだと思う。

今思えば、何の意味も無いのだけれど。

 


「もはやあなたには何か言うことも思うこともありません。今までの僕とは違います。そこから眺めていればいいでしょう。これからの僕の姿を。」

 


彼はまっすぐ前を見ていた。


その視界に僕が映っていないのは明白だった。

自分の行く未来を見据えているようにも見えた。



かろうじて両足で立っている僕の右肩と彼の右肩がすれ違う刹那、彼は言った。


 

It's show time.

 





続く








この物語はフィクションであり、実在する人物、団体とは関係ありません。