私はその言葉に見覚えがあった。


ラドン


ラジウム温泉ともよばれる微量の放射線を放出している温泉鉱物である。

かつて、私がまだ健康オタクとして駆け出しだったころ、それはよく目にしていた。

それから美容、栄養と知識を身に着けていくうちにいつのまにか頭の奥のすみにしまい込んでいた。

健康オタクに健康なやつは居ない。

いつからか、私はそう思うようになっていたからだ。


健康かもしれないし、健康じゃないかもしれない。


いずれにしてもそれを追い求める限り、そこに必ず不足が生まれ、満ち足りる日は永遠に来ない。

人はそれを可能性や伸び代と言い換え、足元にある絶望の淵を見てみぬふりをする。

それが時代を作り、そしてまた新たな時代に塗り替えられる。


私はそのラドンという言葉にかつてのそんな日々を思い出したのだった。


夜。

スマホのLINE電話が鳴った。

ダーヤマという男からだった。

ダーヤマというのは本名ではなく、Twitterのニックネームだ。

本名は山田というらしいが、それが本当なのか私は確認していないし、今後確認することもないだろう。

たとえ偽名だとしても私にとっては大した問題ではないからだ。

山田であろうと、トーマスであろうと、ジョニーであろうと、名前とはそういうものだ。

これが恋人であるなら話は別だが。


ジョニーは言った。

「今、卓激屋で買い物をしている。あといくらかで送料が無料になるから君に電話をかけたんだ。君も何か欲しいものがあったら送料が掛からないし一緒に買えばいいだろうと思って。どうかな。」


幾分か緊張しているような気配だった。

彼は律儀で義理堅い男だ。

他人を利用して自分の送料を無料にする行為について幾分か後ろめたさがあったのかもしれない。

だが確かに彼の言う通り決して悪い話では無かった。

彼の送料が無料になるのはいいことだし、僕も自分の買い物が出来て尚且つ送料がかからないのは良いに越したことはない。

一つ難点を挙げるとすれば、商品が届くのは彼の自宅であって、僕はすぐに受け取れないということくらいだ。

ただそもそも自発的ではない買い物であるわけで、それは僕にとっては大した問題では無かった。

私は欲しいと思ったら今すぐにでも自分のものにしたいタイプなので買い物は実店舗がほとんどで、ネットで買うものといったら日用品であるシャンプーやサプリメント、カンホアの塩くらいだ。

これらはネット以外ではなかなか見かけないし、Amazonなら数日で届く。

卓球用品をネットで買ったのは今までの人生では数えるほどしかない。


私は喜んで快諾し、彼に伝えた。

「ありがとうございます。卓球用品の相場で送料はなかなか大きいですからね。私も何か買いましょう。」


特段欲しいものなどなかったが、ヤサカファンである私はヤサカのグッズを買おうと思った。

こまごましたグッズは実店舗ではあまり置いていないからだ。

そして通話状態のまま卓激屋のHPを開きヤサカのページを開いた。


"ラドン"


「ダーヤマさん。ヤサカのラドンシリーズにします。ネックレス、ブレス、そしてリストバンド。ブレスとリストバンドは3つずつで。」


スポーツ用品における温泉鉱物というワードを聞くと、おそらくAXFを思い浮かべるのではないだろうか。

ファイテンやコラントッテと同じように価格帯は1万円前後が多いなか、ヤサカのラドンネックレスは定価700円+税だ。

腕にはめるラドンブレスは定価600円+税。


文字通り桁違いに安価である。


もしこれでバランスや体幹の実験をして、同じような結果が出てそしてそれを公表したら、私は組織から狙われるかもしれない。

だが私にはそれをする義務がある。

何故なら私はヤサカファンであるからだ。

タマス信者でもあるが、それについては今回は無視する。


数日度、トーマスから届いたとの連絡を受けた僕は、すぐにジョニーの自宅付近に向かい、そして受け渡しをした。


ダーヤマさんはその場で飲み物を奢ってくれ、プレゼントだといいSTIGAのボールケースを追加で買ってくれていた。


この人はいつもこうだ。

常に私の上をいく。

その人の知らないところで善意が働くというのは与える側の人間である。

与える人間というのは決して多くはない。


世の中には2種類の人間がいる。

奪う人間と与える人間。


奪う人間は皆貧しいわけではなく、与える人間もまた皆が裕福であるわけでもない。

物質的な貧富がもたらす面も当然あるが、本質的には心のありようが全てだと思っている。


私自身、社会的には底辺を這う身分ではあるが、人格的には後者でありたいし前者の卑屈さには疲弊した記憶しかない。


私は余分に買っておいたラドンブレスをささやかながらお返しとして小山田さんにプレゼントした。


私たちはその場でネックレスとブレスを装着し、体幹の実験をした。





私はファイテンを着けていたし、ダーヤマさんはAXFを身に着けていた。

これらを着けたり外したりいくつかの実験をした結果。


その場で確認できる限りほぼ同等の効果が得られたのは驚きだった。

かといってデザインやブランドというのも選ぶ理由として大きな要因であるだけに、全ての人間にオヌヌメはしない。


しかし、私の燃え盛るYASAKA魂に更なる燃料を注がれたのは言うまでもない。


あれから試合も練習も忘れずに着けているラドンブレスとラドンネックレス、そしてラドンリストバンド。

私の勝利を支えてくれている要因であることに疑いはない。


もしも、今これを読んでいるあなたがYASAKAの社員であるなら、2点お伝えしたい。


1.額の汗用にヘッドバンドも商品化して欲しい。(紐じゃないやつ)

2.好きな卓球メーカーはYASAKAです。