「血液型と性格」論文レビューをするにあたって | ほたるいかの書きつけ

「血液型と性格」論文レビューをするにあたって

 あちこちでも言われているし、このブログでも何度も繰り返し述べていることだが、「血液型と性格」の関係は以前から詳しく調査されており、万を越える人数を対象にした統計調査から、「血液型と性格に相関があるとは言えない」という結論が得られている。間違いでない範囲でもう少し強く言えば、「血液型と性格の間には、日常生活で使えるほどの関係はない」ということだ。
 それを示した画期的な論文が、松井豊(1991)である。これはその筋では有名で、血液型性格判断を取り上げた一般向けの書籍ではかなりの割合で引用されているだろう。もちろん、心理学のプロが、心理学の論文を正しく取り上げているわけだから、我々素人としては、特に変に感じる部分がなければ、基本的にはその結論を(科学的な意味で)信じれば良い。
 しかし、ネットの発達は、そのような論文や書籍の存在をちょっと検索すれば認識できたりその内容までかいつまんで教えてくれたりする反面、一部では(まだ一部であると思いたいが、今後増えると予想している)、ネットにない文献は存在しないのと同じ、と(意識するかどうかは別にして)みなす傾向がある。そして、そのことは、プロの間ではどれだけ見解が一致していても、素人が唱える妙ちくりんな主張も対等の主張であるとし、正しいと言うならソースを示せ、と安易に言う風潮がひろまりつつあるような気がしている。
 そのような傾向自体は科学的知識を獲得する上で問題があると思われるが、その一方で、やはりオリジナルの論文を見てみたい、という欲求は、どうしても出てくるだろう。色々調べていけば、そう思うのもある意味当然である。
 かく言う私も全く同じで、この論文を見てみたくて仕方なかった。ところが、これがネットでは公開されていないのである。
 文献表記を正しく書いておこう。
    松井豊「血液型による性格の相違に関する統計的検討」、1991、立川短大紀要,、24、51-54
だ。で、見たくてしょうがなかったので、図書館でコピーしてきた。「立川短期大学紀要」で検索して全然見つからなくて諦めかけたのだが、念のため「立川短大紀要」で探したらすぐ見つかったというのは秘密だ。

 この論文、たった4ページである。しかし、サンプルが良いだけに、決定的な意味を持っている。そこで、心理学の素人である私が、無謀にもレビューをしようというのが今回の試みである。心理学のプロの方のツッコミをぜひともお願いする次第である。
 なお、統計学の初歩を学んでいれば理解できるように書くつもりである。統計学の初歩、というのは、たとえば標本のサイズをnとすれば、その誤差は√n程度である、というような。「程度である」という理解で十分だろう。わからないことがあれば、私に答えられる範囲ではあるがなるべく返答していきたい。

 本当は論文のPDFを公開していただきたいところだが、まあ紀要だし、なかなか難しいのだろう。

 トンデモ論文の紹介とは違って書くにも気をつかうので時間がかかるが、できればもう一つ二つ、重要な論文が紹介できればと考えている。とりあえずは、基本ということで、松井(1991)から紹介する。

   「血液型と性格」論文レビューをするにあたって(本エントリ)
   1.はじめに
   2.方法(以上次エントリ )
   3.結果
   4.考察(以上次々エントリ )

今日を含めて三日間連続シリーズということで。

 なお、血液型性格判断肯定論者としては、かの有名なABO FAN氏をおいて右に出る者はいないだろう。当然、彼も松井論文についてはコメントをしている(このページ )。こちらがスキャンで済ました表を、わざわざ打ち直しているなどその労力のかけかたは敬服に値するが、端的に言って、論理展開が滅茶苦茶である。あちこちに詭弁が存在し、ページの上の方と下の方で分析の基準が違い、また帰無仮説の取り方もわかっておらず、都合のいい結果と文章のつまみ食いのオンパレードだ(ABO FAN氏に都合の悪い話も少し書いてはあるのだが)。
 ABO FAN氏のページにもデータは載っているし、松井氏の文章も引用されてはいるので、丹念に読み解けば、松井氏の主張は読み取れるだろう。原理的には。しかし、それはあまりにも多大な労力を必要とする。そこで、ABO FAN氏の分析に挑戦したい方は、このブログでの紹介をもとにアタックされたら良いのではないかと思う。

追記(5/8)
次の論文についてのレビューを掲載しました。
    山崎賢治、坂元章「血液型ステレオタイプによる自己成就現象-全国調査の時系列的分析-」、1991、日本社会心理学会第32回大会発表論文集、288-291
   1. 問題と目的
   2. 方法
   3. 結果(この章の前半までその1 、後半以降はその2 )
   4. 考察