「血液型と性格」の正しい理解のために:松井(1991)その1 | ほたるいかの書きつけ

「血液型と性格」の正しい理解のために:松井(1991)その1

 本エントリでは、以下の論文を紹介する。
    松井豊「血液型による性格の相違に関する統計的検討」、1991、立川短大紀要、24、51-54
取り上げることにしたいきさつ等については、前エントリを参照いただきたい。なお幾つかの論文を孫引きしているが、そこまでは参照していないことをお断わりしておく。また、論文に書いていないことも若干ではあるが補足していることも注意していただきたい。章番号はこちらで勝手につけたものである。さらに、論文自体がコンパクトであるため、方法や結果についての紹介の部分では、限りなく引用に近い記述となってしまっているところがあることをお詫びする。

   「血液型と性格」論文レビューをするにあたって(前エントリ )
   1.はじめに
   2.方法(以上本エントリ)
   3.結果
   4.考察(以上次エントリ )

1. はじめに
 ABO式血液型によって人の性格が異なるという信念を、血液型ステレオタイプと呼ぶ(詫摩武俊・松井豊1985、「血液型ステレオタイプについて」、人文学報(東京都立大学)、145、57-71)。この手の研究のうち、現代において流通している血液型性格判断の直接のルーツとなるものは古川竹二によるものだろう(古川竹二1932、「血液型と気質」、三省堂)。これはアカデミックな場だけでなく、一般社会においても反響を呼んだが、医学界や心理学界から多く批判され、1930年代には姿を消した。ところが、1970年代以降、能見正比古らにより「血液型性格学」「血液型人間学」などの名でアカデミックな場とは無関係に大衆向けの書籍が数多く出版され、今に至るブームとなっている(なおこのあたりの流れについては、こちらのエントリ を参照してください)。
 ステレオタイプ自体、社会においては危険なものであるため、心理学者によって批判がされてきた。批判の立脚点は、心理学の立場からであるためと思われるが、心理学者が取ったデータにおいて血液型による性格の差が見られない、ということであった。また、能見らの「血液型性格学」のデータの収集法が明確でないことも批判の対象となった。一方、擁護側は、批判者(心理学者)が用いたデータの数が少ないということから再批判を展開しているた。
 ところが、統計学的に見ると、どちらの立場も立脚するデータに多くの問題が存在していた。それは、(1)データの代表性、(2)結果の交差妥当性、である。実際のデータ解析に入る前に、これらの問題を概観しておく。

  1. データの代表性
     これはいわゆる「ランダムサンプリング」の問題である。能見らのデータが、自著の読者カードに基づいたものであり、著しく偏ったものである(著書に納得した読者の方が読者カードを返送する割合が高い)ということは良く知られた問題であるが、一方、批判者側も、自身の勤務する大学の学生がサンプルであるなど、必ずしもランダムサンプリングになっているとは言い難いものであった。松井の言葉を引用すると、「これらのデータは母集団の規定が明確でない。従って、これらのデータには本来一切の統計的検定を行なうことができない。」となる。

  2. 交差妥当性
     交差妥当性とは、いわゆる結果の安定性の問題に関連するものである。ある標本で成り立つ関係が、別の標本でも成り立っているか、というものである。例えば、母集団からある標本を抽出し、回帰分析を行ったとしよう。そこで得られた関係式が、別の標本についても成り立っているか、ということである。これを示すために、標本を二つに分け、片方の標本で解析を行い、それがもう片方でも成立しているかどうかを検証するなどの方法が取られることもある。
     批判側のデータの多くは一回の測定で得られたデータに依拠しており、他の標本にも妥当するかどうかの検証がない。また擁護論のデータは測定指標などがデータごとに異なるため、交差妥当性の検証を行っているとは言えない。

 以上の問題点をふまえ、この論文では、「血液型ステレオタイプに対する科学的な検討を行うことを目的として」、既存のデータを再解析する。そのための留意点として、(1)統計的に信頼性が高く、代表性のあるデータを用いる、(2)複数の結果を比較し、交差妥当性を検証する、を挙げている。前者については13歳以上59歳までの日本在住者から無作為抽出されたデータを用いる(論文では「日本に在住する成人」となっているが、20歳未満も含むため、「成人」というのは誤りだろう)。後者については、同一の測定指標を用いた複数の結果を比較し、それらの間に一貫する差が認められるかどうかを検証する。ここでは複数年度の調査結果を比較することにする。

2. 方法
 本論文では、JNNデータバンクの調査結果、4年度分を使用する。以下、正確を期すために引用する。
 このデータは、満13才(ママ)から59才(ママ)までの男女約3000名(有効データ数は表1を参照)を、全国無作為3段抽出した調査である。抽出は、1段で都道府県または市部を抽出し、2段で町丁を抽出し、3段で対象者を抽出している。標本は、都道府県人口によるウェイトで各地区に割り当てている。調査地域は、全国の都市部で、全人口の4分の3をカバーしている(調査地点は表2参照)。
 調査は留置法と面接法の併用で実施されている。
ということである。なおJNNデータバンクについては、このウェブページ あるいはこちらのページ を参照されたい。
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 調査時期は、1980年10月、1982年10月、1986年10月、1988年10月である。なお1984年10月のデータには血液型に関する設問が含まれていないため、分析から除外された。

 分析対象となった質問項目は、「性格・人柄」に関する項目(24項目;表3)と、ABO式血液型の項目である。血液型に関して、「型がわからない」と回答した者、無回答の者は解析から除外した。「性格・人柄」の設問は、回答者に当てはまるか否かを2件法で答える多重回答形式である。

 「性格・人柄」への回答と血液型への回答をクロス集計(2件法×4つの型)、比率の差についてχ2検定を行った。
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(次エントリに続く)