「血液型と性格」の正しい理解のために:山崎-坂元(1991)その1(修正あり) | ほたるいかの書きつけ

「血液型と性格」の正しい理解のために:山崎-坂元(1991)その1(修正あり)

 前回の松井(1991) に続き、今回は山崎-坂元(1991)を紹介しよう。
 前回のエントリ で示したように、松井(1991)では、あくまでも「注」という形でではあるが、自己成就現象を検出しているかもしれない、という示唆を与えていた。本論文は、そこに注目し、より詳細な分析を試みたものである。
 なお、彼らの論文は、以下に示すように2つある。今回は、その前者のほうを取りあげる。
   山崎賢治、坂元章「血液型ステレオタイプによる自己成就現象-全国調査の時系列的分析-」、1991、日本社会心理学会第32回大会発表論文集、288-291
   山崎賢治、坂元章「血液型ステレオタイプによる自己成就現象-全国調査の時系列的分析2-」、1992、日本社会心理学会第33回大会発表論文集、342-345

 また、対応するABO FAN氏のウェブページは「Prof. Sakamoto 」である。適宜参照されたい。
 それから本ブログでの論文紹介については、サイドバーに関連エントリをまとめたので参照いただければ幸いである。

 なお、最後のほうで取り上げるが、この論文の結論をそのまま受け取るわけにはいかない、というのが私の立場である。定性的には正しいように見えるけれども、定量的にはまだまだ議論の余地がある、というのが私の主張だ。もちろんそれは、本論文での解析が間違っているという意味ではなくて、より深い考察が必要だろう、ということである。
 本当はグラフから数値データを読み取り、最小二乗法などを使って自分で解析してみたかったのだが、時間がなかなか取れず、このままではズルズルと公開が遅れることから、とりあえず現段階で私が言える範囲でこの論文を紹介する。後日、機会があれば、そのあたりの解析もやってみたいと思う。

 さて、まずは前回と同様に、論文に沿って、論文が何を書いているかを順次紹介していこう。章番号は、こちらでつけた。なお、この論文も4ページと短く、解説がほとんど引用になっている箇所もあるがご了承願いたい。さらに、メインの結果については「重回帰分析」が用いられているが、私は詳細はわからないので、たぶんこうだろうという推測が混じることもご了承願いたい。

   1. 問題と目的
   2. 方法
   3. 結果(この章の前半まで本エントリ、後半以降は次エントリ )
   4. 考察

1. 問題と目的
背景
 近年(1991年当時)、「血液型性格学」に関する著書が数多く出版されている。その浸透に対し、心理学の立場からの研究も増えているが、そのほとんどは、血液型と性格の間の関係を否定する結果を得ている(大村政男『血液型と性格』福村出版、1990. なお引用者は未読であることをお断わりしておく)。
血液型ステレオタイプと自己成就現象
 血液型ステレオタイプ(血液型と性格の関係についての信念)が自己成就的に現実となり得るという問題が指摘されてきた(Snyder, M. 1984 など. これも未読)。著書が年々増えていることから、自己成就現象も進んでいると考えられる(2009年現在では、さらにひどい事になっていると予想される)。
JNNデータバンクの全国調査
 (この項省略。前回の松井論文の解説を参照。なお、松井論文がここで引用されている)
前調査
 自己成就現象を検討するにあたり、血液型ステレオタイプを明らかとするため前調査を実施した。
 坂元(1988、「対人認知様式の個人差とABO式血液型性格判断に関する信念:いわゆる『血液型性格判断』を否定する(1)」、日本社会心理学会第29回大会発表論文集、52-53. これも未読)では、大学生はA型とB型に明確なステレオタイプを持ち、しかも両者を対称的に認知していることが明らかにされた。そこで、まずA型とB型の血液型ステレオタイプを明らかにした。
 JNNデータバンクの1978~1988年の11年の調査で、各年に共通な24項目を検討対象とした(なお、松井論文では、1984年の調査では血液型に関する設問が含まれていないため分析から除外する、と書かれているのだが、この論文では1984年のデータも載っている。どういうことだろうか?)。対象は美術大生で、24項目のそれぞれが、どれくらいA型(B型)に典型的かについて調べ、82名から回答を得た。その結果がTable 1である。

ほたるいかの書きつけ
A型により典型的と思われている(「A型判定率」)項目の順に並べ、上位3つをA型的特徴、下位3つをB型的特徴として選んだ。
 なお、これらの判定のうち、有意にA型あるいはB型に偏っていた項目は、24項目中20項目あった。大学生はA型、B型に明確なステレオタイプを有することが確認された。

 ここで少し考えてみる。この分類が一つ問題であると思われる。Table 1 の結果を見ると、「A型にあてはまる」項目を答えさせたように推測できる。詳細がわからないのでなんとも言えないが、もし「A型にあてはまるのはどれ?」という聞き方であったなら、上位項目をA型的特徴とするのは問題ない。だが、下位項目をB型的特徴とするのは構わないのだろうか?坂元(1988)では、A型とB型に対し対称的に認知しているという結果を得たそうであるが、それが前提となっていると思われる。つまり、A型判定率の低い項目=B型判定率の高い項目であるという前提である。
 これについては坂元(1988)を検討しないとなんとも言えないのだが、とりあえずは良しとして話を進める。

本分析の目的
 JNNデータを再分析することにより、血液型ステレオタイプの方向へ日本人の性格評定が変化していることを示し、自己成就現象の存在を検討する。
 なお、ここで「性格評定」の変化としていることに注意されたい。「性格評定」=「性格」とは言い切れないからである。

2. 方法
 ここでは、「A-B」得点を合成し、χ2検定により、血液型ステレオタイプと性格との間の関連を分析した(この文章はおかしい。おそらく、「血液型ステレオタイプに基づく性格」と「血液型」との関連を分析した、ではないだろうか)。そして、「A-B」得点を目的変数とする重回帰分析により、時系列的な分析を行った。
分析の素材
 JNNデータの1978~1988年の11年分で、前調査で選ばれた6項目(A型的、B型的それぞれ3つづつ)が用いられた。
尺度(「A-B」得点)の作成
 ここがポイントなので、そのまま引用する。
 「A型的」特徴、および「B型的」特徴、計6特徴に関し、JNNデータについて、各性格特徴があてはまると答えた場合に得点1を与え、あてはまらないとしたときは得点を0とした。そして、「A型的」特徴3つについての平均から、「B型的」特徴3つについての平均を引くことにより得られる数値を今回の分析の指標とした。
 この数値が大きいほど、大学生の持つ血液型ステレオタイプの「A型的」特徴に片寄った性格を自己報告したことを表す。逆に、この数値が、小さい場合には、「B型的」特徴があてはまると自己報告したことを表す。そこで、この指標を「A-B」得点と呼ぶことにする。「A-B」得点の要約統計量をTable2に示す。
この解説がちょっと厄介で理解するのが大変なのだが、私は以下のように読み取った(間違っていれば御教示いただけると有り難い)。たとえば1000人のサンプルがあったとする。1000人に対し、A型的特徴についての項目(A1, A2, A3とする)、B型的特徴についての項目(B1, B2, B3とする)、計6項目について尋ねる。A1~A3について、それぞれ900人、800人、700人が「はい」と答えたとする。すると、A1の平均得点は0.9, 同様にA2, A3については 0.8, 0.7 となる。この3つの平均を取ると(どういう重みがつくのかは不明だが、単純に3つの平均を取るとすれば)、A型的特徴の平均として0.8点が得られる。ここで、得点は[0,1]区間に分布する。同様に、B型的特徴についての平均点が得られる。これらの差を取ることにより、「A-B」得点を構成することができ、その範囲は[-1,+1]となる。
 あるいは、個人ごとに構成したのかもしれない。たとえばA1,A2,B1に「はい」と答えた場合、Aの平均は2/3、Bの平均は1/3で、「A-B」は2/3-1/3=1/3=0.33... となる。それを1000人(のサンプルの場合なら)で平均した、と。またはA,Bそれぞれで1000人で平均し、最後に引き算をするか。どれが正しいのかはわからない。まあ重みの付け方が妙なものでなければ同じになるのだろう。
 できれば上位・下位3項目づつ、という場合だけでなく、1項目づつの場合、2項目づつの場合、などの結果も見たいと思う。結果の安定性に関わることだからである。

 さて、それはともかく、Table 2 を以下に示す。
ほたるいかの書きつけ
(以下、当初公開した部分には勘違いがあったので修正します。すいません)
これがまたよくわからない。「全数」が220となっているのだが、なんの数だろうか?回答数は82名(上位・下位3項目は82名が回答している)、項目は計6つ。どこから220という数字が出てくるのだろうか?下の注釈を見ると、「血液型×性別×年齢×調査年次」という文言がある。血液型はA,Bのみを考えているので2、性別は2、年齢は次エントリで示すが10代~50代と5つに分類しているようなので5、調査年次は11年度あるので11、とすると、これらのかけ算が220となる。従って、おそらく、これらで分類したサブサンプルごとに「A-B」得点の平均点を求め、その平均点の平均値を書いたのがこの表の「平均値」ではないかと思われる。標準偏差はその220に分類したものの偏差だろう。
 ただ、そうすると、Table 2 は美術大生82名についてのものであるはずで、そもそも220以下の人数しかいない。空欄になるセルが大量にあると思うのだが、それは0としているのだろうか?だとすると、平均値や標準偏差の意味がよくわからなくなる。(JNNデータで作成した表でした)
 ただいずれにしても、この人数では平均値は0.054、標準偏差は0.11、ということで、ゼロが誤差の範囲に入っていることである。82名だとすると、JNNデータのうちA,Bが各年約1700名づつであることを考えると、サンプルサイズは約20倍、つまり標準偏差もせいぜい1/4~1/5程度にしかならない、ということだ。0.11の1/5倍は0.02程度だから、82名の場合と同様0.054という結果が1700名の調査で出たとしても、3σの範囲で1σの範囲でゼロが含まれる。その程度の微弱なシグナルであることはおさえておくべきだろう(注:膨大なJNNデータでさえこんなに大きい標準偏差なので、血液型が日常生活において「役に立」たないものであることを顕著に示していると言えよう)。
 もっとも、各セル(Table 2の注釈にある意味でのセル)ごとの偏差がわからない。実はそれらはずっとタイトなのかもしれない。だから、すぐ上で書いたように1σでゼロが含まれるということには意味はないかもしれない。より詳細なデータを見たいものである。

3. 結果
「A型的」特徴/「B型的」特徴における血液型による該当率の偏り
 JNNデータに関し、前調査で選んだ6項目についての回答と、それぞれについてのχ2値をTable 3に示す。
 各表のうち、左側が「A型的特徴」、右側が「B型的特徴」を表す項目であり、それぞれについて、A型、B型別に「あてはまる」「あてはまらない」の人数が書いてある(二段目だけ、上下とも「あてはまらない」になっているが、おそらく上段は「あてはまる」であろう)。各表の下にはχ2値が書いてあり、左上の項目を除き、どれも1%以下の有意水準で有意である。
 なお左上の項目は、前調査では「3番目にA型的」とされたものであったが、JNNデータでは10%水準でも有意ではない。前調査では、A型判定率は項目15が87.8%、項目6が86.6%、項目2が85.4%であった。つまり、82人中、それぞれ72人、71人、70人が「A型的」と答えたわけで、大差はない。しかし、χ2値にすると、JNNデータでは大きく異なっており、血液型ステレオタイプがそのまま性格の自己報告に反映されるわけでもないことを示していると言えよう。

ほたるいかの書きつけ

 さて、ここから、この論文では次のようにまとめている。
(1)血液型の自己報告と性格との間に問うけいてき に有意味な関連が見られること
(2)その関係は大学生の血液型ステレオタイプどおりの偏りであること
まず(1)であるが、「有意味」の意味が曖昧であるが、有意に差が出ていることは(1項目を除き)明らかである。ただし、差が有意であることと、差が大きいかどうかは必ずしも同じではない。Table 3 を見ればわかるように、最もA型的とされる項目15では、「あてはまる」と答えた者がA型で32.3%、B型では28.6%であり、高々3.7ポイントしか違わない。最もB型的とされる項目4(松井論文でも項目4が焦点の一つであったが)でも、A型で32.9%、B型で37.8%と、4.9ポイントしか違わないのである。差が有意であったところで、日常生活で役に立つような「強い相関」でないのは明らかだろう。
 次に(2)であるが、上での述べたように、血液型ステレオタイプから構築されたA型判定率に比べ、JNNデータでの自己報告の差のなんと小さいことか、ということを感じられるであろう。知識としては「○型は~」と思っていても、自分は違う、と思っているわけである。ついでに言えば、各自の観察からステレオタイプが得られたわけでもないことも、A型判定率とJNNデータとの違いから想像できよう。「知識汚染」を認知バイアスが強めた結果であると考えるのが妥当であると思われる。

 この項最後のパラグラフは全文引用する価値があろう:
 最も大きな偏りを示したのは項目4である。しかし、その偏りは、A型とB型とで1680人(無作為にサンプルを集めるなら、O型やAB型も含まれるから、全2800人)以上という大量のデータでないと、5%水準で有意味とされない程度の微弱なものである。
つまり、仮にこの差が本当にあったとしても、大量の集団同士を比較してはじめて検出可能になる程度の違いなのであり、ある人の血液型からその人の性格を、あるいは逆にある人の性格からその人の血液型を当てるなどということは事実上不可能であることを明瞭に示しているのである。つまり、前出の松井論文の結果と整合しており、なんら矛盾はない、ということである。

 本エントリを終わる前に、Table 3 が出ているので、これと関連した Fig.6 を先に解説しておきたい。Fig.6 とは以下のようなものである。
ほたるいかの書きつけ
血液型別(A型とB型)の「A-B」得点である。なお、数値を100倍していることに注意。A、Bそれぞれ8.15、2.71と書いてあるが、これは0.0815、0.0271の意味である。B型も「A-B」得点が正、すなわち「A型的」性格であることに注意。血液型ステレオタイプが実際の傾向と一致しているわけではないことを端的に示している。
 Table 3 から全体をまとめた場合の「A-B」得点が血液型別に計算できるはずなので、ちょっとやってみよう。A型の「A-B」得点は、
[(3495+5057+4021)-(4104+2907+2253)]/3/12466 = 0.08848
となる。B型の場合は、
[(1848+2542+1958)-(2589+1735+1460)]/3/6852 = 0.02744
である。Fig.6 に示された数値とほぼ同じであるが、微妙な違いはなんであろうか。
 もしかしたら、上で述べた「セル」ごとに先に平均値を出してしまい、A型はA型であるセルの平均値を、B型についてはB型であるセルの平均値をとって、Fig.6 にしたのかもしれない。しかしそうだとすれば、それは適切な重み(サンプルサイズ)を与えてないため、意味のある平均になっていないのではないか、と思われる。実際は似たような数値が出てきたので、おそらく血液型と性別・年齢・調査年次の相関がほぼないということを反映しているのであろう。
 なお、違いは微妙と書いたが、(100倍して)0.7, 0.3の違いは、そう小さい違いでもない(大きくはないが)。それは次回見ていこう。

 以上をふまえた上で、次エントリでは、「A-B」得点の、年齢及び調査年次による違いを見ていくことにしたい。かなり驚くことになるはずである。