「ムペンバ効果」?(追記あり) | ほたるいかの書きつけ

「ムペンバ効果」?(追記あり)

(追記)関連する以下のエントリも是非お読み下さい。
   ムペンバ効果の実験デザイン試案
   ムペンバ効果のみかた:タイムスケールと熱放出率
   ムペンバ効果:過冷却?

 時々、自分のブログにつけている「あわせて読みたい」に表示されるブログを読みに行っているのだが、おかげで今日は面白い現象を知ることができた。「ムペンバ(Mpemba)効果」。モリキンさんのブログ「学者のたまごでした」の、「ムペンバ効果、追記 」というエントリで詳細に触れられている。どうも、NHKの「ためしてガッテン」で取り上げられたらしい。
 どんな現象かというと、たとえば5℃の水と35℃の水をそれぞれ凍らせようとすると、35℃の水の方が先に凍る、というもの。つまり、早く氷を作ろうと思えば、水を少し温めてから冷凍庫に入れると良い、ということになる。

 これだけ見ると、そんなバカな、と思えるのだが、どうも現象自体は起こってもいいらしい。ただ、なぜそうなるのかの解明はまだ完全にはされていないようだ。そのことは、上述のモリキンさんのブログでも述べられている。

 さて、そこからリンクされていたページが、ガリレオ工房の滝川洋二さんの解説 だ。この解説に基づけば、主因は対流である。
 水は物質としては特殊で、4℃の時に密度が最大になる。氷の状態は水素結合により結晶化するのだが、結晶構造が空間的にスカスカで、液体の時より密度が低い。また高温では熱運動によりやはり密度が小さくなるので、だいたい4℃の時に一番分子が密集して密度が高くなる。
 そのため、コップに入れた水が準静的に冷えていくならば、いずれコップの底の水は4℃になり、上のほうは密度の低い、より低温の水がいることになり、やがてコップの上のほうから凍っていく。
 ところが、温かい水の場合は、準静的には冷えず、冷えて高密度になった領域が急速に落下し、(相対的に)激しい対流を引き起こす。そのためコップの中がほぼ一様の温度になり、全体が冷えていくので結果的に早く氷になる、というわけ。

 しかしですよ。ちょっとだけ考えると(ちょっとだけです)、35℃の水だろうと60℃の水だろうと、対流しながら冷えたとしても、やがては5℃の水となる時期がくる。すると、最初に入れた5℃の水と、その時点で同じ状況になるので、5℃まで冷える時間だけ、余計に凍るのに時間がかかるような気がするのですよね。
 その滝川さんの解説の状況で言えば、20℃の水は先に上から冷え始めるというが、60℃の水が20℃まで冷えたら、そこから先はやはり上から冷えるはずで、とすると、高温の水が先に凍るという説明にはなっていないのではないか。

 とすると、たしかに対流が主因だとしても、単純に「対流だから」というだけでなく、60℃の水が凍るまでに通る状態変化の道すじにおいては、「一様かつ静的に20℃」という状態を通ってはならない、ということになる。対流があれば温度は一様になろうとするので、破るべき条件は「一様」ではなくて「静的」ということになり、「20℃で対流がある」という状態を通らねばならない。しかもゆっくり冷やせば対流ではなくて熱伝導で冷えようとするので、静的という状態が回復されてしまう。とすると、冷やし方にもなにか条件があるのではないか、と思える。

 無論、上の考察は蒸発がないときの話なので、実際冷凍庫で凍らすなんて場合には条件が複合的になってややこしそうだ。例えば、水の気化熱は約10kcal/molもある。これがどれくらいデカイかというと、20℃の180cc(つまり10mol)の水を0℃にするために放出しなければいけないエネルギーは20[K]*1[cal/mol/K]*10[mol]=200[cal]=0.2[kcal]しかない。これは、0.02mol(0.36g)の水が蒸発すれば持ち逃げできるエネルギー量だ(自分で計算して驚いた^^;;)。つまり、180ccのコップに入った水のうち、わずか0.2%の水が蒸発すれば20℃の水を一気に0℃まで冷やすことができる(氷にはならず、0℃の水、だけど)。
 ただし、これも主因はなりそうもない。というのは、蒸発は表面から起こるので、60℃の水がどんどん蒸発して一気に温度を下げても、20℃に達すれば結局同じことだからだ。
 しかし、表面付近が急速に冷えることで、対流をより激しくし、20℃まで下がっても対流が続いているという状況を作ることには寄与しそうだ。
 となると、やはり複合的に考えないといけない、ということになりそうだ。

 ムペンバ効果を実証するための実験デザインは結構大変そうだ。だが、まずは非蒸発的状況下でどうなるのかを調べるのが先決だろう。密封した固い容器で違う温度の水を入れ、温度分布と速度分布をモニターしながらそれぞれが凍るようすを調べる。
 これで違いが出ないなら、あとは蒸発の影響や容器との熱のやりとりが問題になるだろう(他にも考えないといけないことはありそうだけど)。

 これはまさに非平衡開放系で、しかも動的に解かれなければならないという、実に難しそうな問題である。でも、面白いなあ。こんな面白い問題が身近にあったとは。
 やっぱ水って面白いですね。「ありがとう」とか「愛・感謝」とか言ってる場合じゃないよ。

 ついでに、こっちの問題 もまだ(私の中では)未解決なんだよなあ。なぜ水の沸点は100℃か、という問題(別に1気圧に限る必要はなくて、要するに、水素結合の結合エネルギーをたちきるには2000[K]ぐらいの熱運動が必要そうなんだけど、それよりもずっと低い温度で気化するのはなぜか、という問題)。
 本屋に行くついでに物理化学系の教科書とかヒタスラ立ち読みしたりしたんですが、よくわからんまんまです…。