第12回「戦略とは、優先順位づけ」
政治改革でも経営改革でも言えることですが、「あらゆる課題」を「いっぺんにやる」と言うやり方は、一見華やかですが実際は失敗する確率が高いものです。何もかも出来ると思うのは、「思い上がり」か「考えが足りない」かのどちらか。実際に成功するパターンは「やるべきこと」の優先順位をつけ、そのときに出来ること、先に解決すべきことだけに絞り込み、集中して確実にこなしていくやり方なのです。しかし、その優先順位付けの大切さを見誤ると・・・。
A社は新興のベンチャー企業。建材商社から始まり、勢いに乗って自らが建築業へも進出。独自の製品も開発し、まさに飛ぶ鳥を落とすような成長ぶりでした。その企業の実行策に、優先順位は無し。「市場開発・顧客開拓」も「新商品開発」も「ヒトづくり」も全て同時進行。創業社長は「走りながら組織を創る」が持論でした。社内はとにかく活気に溢れていましたが、しかし、創業3年目にあっさり倒産。ベンチャー企業は、勢いに乗っているときは良いのですが、何もかもいっぺんにしようとするとすぐに経営資源の欠乏によって立ち行かなくなるものなのです。
逆に老舗機械メーカーのB社。現社長の祖父の代から地道にモノづくりに励んで来た地域企業です。そんな田舎ののんきな企業に、突然「労働組合」が発足。労働者の権利を声高に主張する労組に与し、それまでの「職人気質の従業員による、昼夜をいとわない熱心なモノづくり」が強みだったこの企業は「大手企業並みの労働基準法優先」に変わりました。もちろん、遵法は大事。ヒトを大事するのも経営の要諦。でも競争原理上、必ずしも優先順位が一番とは限らないことも多いのです。この企業は、法優先にした結果、残念ながら競争力がみるみる落ちて行きました。企業体力を失った会社を、労組はどうすることも出来ません。彼らは一体何を得たかったのでしょう?・・・正に「角をためて牛を殺す」式になった訳です。
一方、C社は大正時代から続く歴史ある製造業。創業から50年間は日本のトップメーカーとして、ある製品を専業で作ってきましたが、中国等の台頭で国際競争力は大幅低下。そこで、3代目社長が業態転換を決断。着々とその準備を進め始めました。社長の「新事業優先」の方向付けに、多くの古参社員が不安と不信にとらわれて退職。代わりに新規事業のために新たに雇い入れた社員達は、玉石混合。中には、自らの立場も忘れて古参社員と結び陰で社長の悪口を言い出す者も出る始末。でも、この社長はくじけなかった。苦しいながら、しっかりと経営資源を新規事業分野に振り向け、どんな障害があろうと優先順位を変えない。その首尾一貫ぶりが徐々に残った社員の頑なな気持ちを溶かし出し、組織風土は確実に変わりました。現在、新規事業は成功し、創業事業からは完全撤退。新事業の有力メーカーとして日本国内にとどまらず、海外企業との提携を推進するなど、グローバルな展開を図っています。
ちなみに私は、その会社の新規事業立ち上げ期に人事労務担当コンサルとして「社員モラールサーベイ」を実施しました。当時の社員達の驚くほど低いモラールアンケート結果に唖然としましたが、それを見て言った社長の言葉は今でも忘れません。「実行が先。モラールは後から付いてくる」。それまでとかくアンケート結果の数値をかざし、これ見よがしに「社員のモラールを上げましょう」という指導をしていた私は、戦略の持つ「優先順位付け」の重要性について、このとき大いに学んだものです。