もうしばらく「マネー・ボール」の話。
オークランド・アスレチックスGMのビリー・ビーンは、独自の理論に基づいて未来のメジャーリーガーを探します。その鍵は、パソコンの中にあります。打撃陣では「出塁率」と「1打席あたりの投球数」を最も重視。過去のあらゆるデータを分析した結果、この指標が最も勝利に貢献すると判断されたからです。「体格」「外見」で他のチームから「使い物にならない」という烙印を押された選手達を、まんまと獲得していきます。
自チームの有力選手がFAで引き抜かれ場合、メジャーではルールに則ってドラフトで優遇されます。その権利もうまく行使するのですが、それでもあまり他のチームが注目しない無名選手にこだわっていきます。まともな選手を雇う資金が無いからだと、よその球団は思い込んでいます。しかし、実態は独自の選択基準で独自の指名を行った結果です。本人がせいぜい15位指名と思っていたような選手を、1位指名する。指名されるはずが無いとあきらめていた選手を、2位以降で指名する。だから、本人達は喜んで入団してきます。
ビリー・ビーンは言います。
「どう考えても、ヤンキースの真似はできない。もしヤンキースと同じやり方をしたら、必ず負けてしまう。向こうには3倍の資金があるんだから。」
資金力の乏しいチームは、絶好調の人気メジャーリーガーをよその球団からトレードで買い取ることもできません。元手が無いからには、「お買い得の選手」を探す以外にありません。2001年、プレーオフで最後の最後までアスレチックスに苦しめられたヤンキースは、当時のアスレチックスの主砲ジオンビーを1億2000万ドルで引き抜きます。それでもアスレチックスはくじけません。冷静にデータを分析し、「ジオンビーの穴をどうやって埋めるか」考えます。ヤンキースで現在も主軸を担う、ジオンビーそっくりの一塁手をどこかから探してくるのは不可能です。仮にいたとしてもアスレチックスでは雇えるだけの資金がありません。
ビリー・ビーンは「大事なのは個人を復旧することではない。集団全体を復旧することだ。」と明言し、ジオンビーを細かく分解して、そのひとつひとつの代替品を探し集めます。
検討の結果、ジオンビーの最大の長所である「出塁率の高さ」をカバーする、という結論に達します。これをジオンビーより安く買うには、出塁率以外の長所はあきらめなければなりません。完全な選手は獲れません。どこかしら弱点があるから、アスレチックスが獲得できるのです。そうして集めた選手は「パワーの衰えたベテラン」「肩の弱ったキャッチャー」「守備のへたくそな若手」の3人。この3人でジオンビーの穴を埋めようとします。
結果はどうなったか?
パワーの衰えたベテランは、ホームランにこだわらず泥臭く出塁します。肩の弱ったキャッチャーは指名打者となって効率よく得点機会を作り出します。守備のへたくそな若手は、得意の打撃センスを生かしつつ、やがて一塁手としても誉め上手なコーチに乗せられていつの間にか平均以上の守備力を身につけます。いずれも「弱点」をとがめるつもりのないフロントのなせる業です。要は「強み」である「出塁率」さえよければ評価する。そこに、偽り無く首尾一貫してこだわった結果、成果は上がったのです。
実際に出塁率が勝利に貢献するのは、間違いないでしょう。
しかし、守備力や長打力を犠牲にしてでも、と言い切れるかどうかはGMの信念にかかっています。あれもこれも、というのは金持ち球団がとるべき手法。貧乏球団は「何か」にこだわって、徹底するべきなのです。
(つづく)