彼と東京タワーに行きました。
まったく人気のないインフォメーションカウンター周辺に案内嬢が6人もいた。
以前勤めていた職場をふっと思い出して、彼女たちもいつかリストラされるのでは・・・?なんて、
初っ端からしんみりしてしまった。
土産物売り場には外国人がいっぱい。そこかしこで世界中の言葉が飛び交い、メインの展望台は換気がよくないせいか臭かった。
展望台からはみんな口を揃えたみたいに、ディズニーランドとスカイツリーを探していてた。
その日の天気は曇りだったから、視界が霞がかって、遠くが良く見えなかった。ビル群に降り注ぐように、夕日のオレンジ色をした光の筋が、霧の切れ間からすーっと差し込んで見えた。
彼はそれを見て、きれいだね、と言って、「いい時間に来たね」と、目を合わせずに、ちっとも楽しくなさそうに言った。
その後、フードコートで喧嘩をした。
喧嘩はしょっちゅうする。原因は他愛もないこと。
彼がいつも通り、「俺はもう帰る」と言って、私はいつも通りそれを追いかけた。
無言でビル街を歩き続けると、小さな森のような、ビル街に似合わないほど木が無作為に生い茂る公園が横道に広がった。
いいものを見つけたと思った。彼の気を紛らわす、キッカケになりそうだとピンときた。
「ここが芝公園なんだね。どこからどこまでが芝公園なのかな。ここ一体、公園だらけだけど」
彼はちっとも面白くなさそうな顔をして看板を見ると、「ここ一体、全てが芝公園なんでしょ」と言った。
私は彼の手を引いて芝公園に行った。それから少しづつ、遊具び始めた。
そこからはライトアップされた東京タワーを足元から、完璧な眺めで見れた。
私は確実に、東京タワーは外から眺める方が美しく、感動をくれると思った。
「小さいころ、鉄棒好きだった」と言うと、ぶら下がって足がぎりぎり地に着く高さの鉄棒で、彼は意外なほどたくましく、くるくると空中逆上がりをして見せてくれた。
ウチムラコウヘイがどうのこうのと、私は冗談を言って、意外と男らしい、驚いちゃった、と褒めると、彼はちっとも嬉しくなさそうな顔をして、「小さいころ、鉄棒めちゃやったんだよ」と、もう一度、回って見せてくれた。
彼は視力が良くて、スポーツが大好きな少年だった。
見たことないけど。
今の彼は、眼鏡をかけていて、表情があまり変わらない、不器用な男だ。
私はそれしか見たことがない。
出会ったばかりのころは、今よりもっと、笑ってたけど。
彼のお母さんが私に言った言葉を思い出す。
「昔は、こんなに心配させる子になるとは思ってもいなかった」
私は目をつむる。
赤羽橋駅周辺は、オフィスビルが軒を連ねて、どのビルも新しくて何気なくデザイン的。
一面が総ガラス張りのビルがあって、室内が外から見えた。白熱灯の暖かい色味のライト、背の高い観葉植物、大きくて薄い木製のテーブルを囲んで、話し合いをしている人たちが見えた。
女性も男性も、真剣そうに、でも足を組んだり、椅子に深くもたれ掛ったり、笑ったりしながら何かを話し合っている。
「かっこいい。くやしい」と私がつぶやいた。
「でも私は、あの人たちに負けているつもりはない」
彼は笑った。
やっと笑ったなぁと思って、誰もいない芝公園で、「くやしいから」おんぶをしてもらった。
おんぶをしてもらうと、私は年寄りになった気持ちになる。
もう1人では歩けない、情けなくて、申し訳ない気持ちだ。
でも、おんぶは年寄りにとって、安心するものでもある。おんぶは誰にでもしてもらえるものではないし、誰にでもねだっていいものじゃない。おんぶをしてくれる人がいるのは、安心で有難いことだ。
「おじいさん、東京タワーは外から見る方がいいですね」
彼はまた笑う。
「そうですね、おばあさん」
私はちょっと泣きそうになる。
結婚も、外から見る方が美しいのでしょうか。
中に入ってしまうと、思った以上の何かが、あるのでしょうか。
「昔はよかった」と、みんなが言います。
マリッジブルーかもしれません。
