ビフォア・ミッドナイト (ネタバレにご注意ください) | Let's talk about...

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あくまでも個人的な映画論です。ネタバレにご注意ください。







リチャード・リンクレイター監督のビフォア・サンライズ(邦題は恋人までの距離-ディスタンス)、約10年後の続編、ビフォア・サンセット、から9年を経ての今回のビフォア・ミッドナイト。
まさか、3作目が作られるなんて予想もしていなかったので、嬉しいサプライズだった。

今回も、見事に書き上げられたダイアローグが魅力で、(前作のビフォア・サンセットに続き、リンクレイター監督、ジュリー・デルピー&イーサン・ホークの共同執筆。今作の脚本では、今年の第86回のアカデミー賞の脚本賞にもノミネートされた。)素晴らしい構成の会話劇だ。


今回は陽光降り注ぐギリシャでのサマーホリデイが舞台。アメリカから遊びに来たジェシーの息子を加えてギリシャで夏休みを過ごしている。




それにしても、このシリーズはヨーロッパの夏が美しく描かれているのがとてもいい。
ビフォア・サンライズでは、ウィーンの夏だったが、ウィーンに行ったことはないが、雰囲気がロンドンに似ていて、ロンドンの夏の乾いた空気と少しべとついている石畳を思った。ビフォア・サンセットでも、パリの美しい夏が描かれていて、冒頭の小さなカフェや、こじんまりした美しい公園を歩きながら・・などのシーンもとても美しかった。そして今回はまばゆいばかりの太陽が素晴らしいギリシャ。
二人がヨーロッパのさっぱりとした夏に軽快に歩き回りながら会話するのは何年たっても変わらないのだ。


出会い・・ウィーン 95年




再会・・パリ 2004年





家庭、バカンス・・ギリシャ 2013年





セリーヌとジェシーはパリで劇的な再開を果たしてから結ばれ双子の女の子にも恵まれ、パリで暮らしている。ジェシーはそこそこ著名な小説家になっており、どこでも仕事が出来る、というのもパリに住める条件だろう。9年前にセリーヌと再会したときは、既婚者で一人息子にも恵まれていたが前の奥さんと息子はアメリカに住んでいる。

映画の冒頭は、ジェシーが、夏休みを父親と過ごすためにアメリカから来ていたティーンエイジャーの息子と彼らのホリデイ先のギリシャの空港で、彼らより先にホリデイを終えアメリカへの帰途に着く息子を見送るシーンから始まる。


休み中などの一時しか息子に会えないことに自責の念を感じ始めたジェシー。離れて暮らす息子には父親という存在が常に必要なのではないか・・。

このジェシーの息子への思いが今回のビフォア・ミッドナイトの軸になっていうように思う。

子供を持つもの、の立場から見れば、ジェシーへの息子への思いは尊重すべきだと思うし、セリーヌがその思いを尊重してあげられないないのはなぜだろう、と思ってしまった。セリーヌの夢だった仕事が決まってしまった、というのももちろんあるだろうが、旦那さんの気持ちは大切じゃないのだろうか???



彼らの互いの意見をまとめてみると・・・


ジェシー・・・・
アメリカに置いてきてしまった息子がティーンネイジャーになり、彼には、父親の存在というものが以前よりも必要、と感じられるようになり、もっと息子と日常的に時間を過ごしたい、と思いがよぎり始めた・・が、セリーヌは少しの間住んだアメリカにまた戻るのはごめんだ、という。彼女も仕事のチャンスが舞い込み、今はパリを離れるのは無理なのはわかっているが・・・。


セリーヌ・・・・
ジェシーが仕事の宣伝などで忙しく飛び回っている間もしっかり子育てをしたのも私。彼はあまり手伝ってくれなかった。双子たちが9歳になった今、夢だった仕事のチャンスも舞い込みパリを離れるなんて絶対考えられない。シカゴに住むなんて絶対絶対嫌。ジェシーの元嫁もちょっとアル中気味でお互いに好きになれないし。しかもジェシーは本の宣伝中でいろんなところを飛び回ってるときに、浮気もしたかもしれないなんて!もう彼を愛しているかもわからなくなってきた・・。


といった感じ。

まぁ、二人の口論のリアリティが細部にまでリアリティがあるなぁ・・と感心してしまった。
私事で恥ずかしいのだけど、私と主人も、せっかくどこかへ出かけたのに口論で台無しに・・・だがあとで仲直りして・・、ということがあったので、このシチュエーションのリアリティに膝を叩いてしまった。
後で考えると、なぜあんなつまらないことで熱を上げて怒ってしまったのか、冷静に考えればなんでもないことなのに・・・、とよく思うが、今回の二人もまさにそれだ。


それにしても、ジュリー・デルピーも役作りで増量したのか本当に太ったのか、わからないが、(後でグーグル検索で見てみたが、役作りで増量ということではなかったようです 欧米の女性は特にそうだが、太っても顔にでないタイプ、というのは羨ましい)
彼女の見事な産後体型には驚いてしまった。産後の女性の体系の変化は、自然に産後前の元の体型に戻るタイプと、妊娠中の体重増加をきっかけに産後も体重が減りリにくくなっていくタイプに分けられると思うのだが、セリーヌも後のタイプなのかもしれないし、中年太りもあるのかもしれない。(ちなみに私も残念ながら見事に後のタイプです・・)



二人はこの問題を解決していけるのだろうか・・・
観客に疑問を投げかけたままこの映画は二人を見守りながら静かに終わっていく。


あと10年後、また次回も二人の姿が見られることを期待している・・・。




私が最も尊敬する映画評論家の町山智浩さんのビフォア・ミッドナイト論、とても面白いので是非!