
Bodyguard: A New Beginning
製作:2008年
▼『ヒューマノイド』でハイテンポな格闘シーンを作り、『12 TWELVE』で新たなタイプの格闘映画を構築したチー・ケアン・チャン監督と俳優のマーク・ストレンジ…。日本では今のところ2本の作品が上陸していますが、実はこのコンビによる未公開作がもう1本存在していました。それが今回紹介するこの作品で、香港ノワールに挑戦した野心作となっています。
さてこの映画、単に香港映画を意識しただけの作品ではなく、なんと本場香港との合作で多くの香港系スタッフが投入されているのです。主演も武術指導も助演もほとんどが香港の人で、ロケ地も8割がた香港で占められているため、本作はマーシャルアーツ映画というよりは香港映画に雰囲気が近いといえます。ただ、それがこの作品の長所でもあり短所でもあるのですが…(詳しくは後述にて)。
■施祖男(ヴィンセント・ツェー)は、香港マフィアのドンである呉耀漢(リチャード・ウン)のボディガードとして日夜闘っていた。呉耀漢は施祖男に全幅の信頼を置いていたが、彼の息子の呉嘉龍(カール・ウン…呉耀漢の実子)は自分よりもボディガードを大事にする父親に対し、密かに不満を募らせていた。
そんな中、香港ではケイリー・ヒロユキ・タガワをボスとする新興勢力が現れ、一触即発の状況となっていた。ケイリーは呉耀漢を潰そうと、英国にいる彼の娘?であるステファニー・ラングトンを狙おうと計画。この動きを察知した呉耀漢は施祖男を派遣するが、一方でケイリーは呉嘉龍の心の隙を突き、彼を自陣に引き込んでしまう。
そうとは知らない施祖男は、イギリスでステファニーを守る任務に就いていた。ボディガード映画の例に漏れず、警護対象の人物と親密になっていく施祖男…しかし、ケイリーの手下となった呉嘉龍の調査で、彼らの所在が発覚してしまう。逃避行を続ける施祖男たちだが、息子の動向に気付かぬほど呉耀漢は愚かではなかった。呉嘉龍は勘当され、頼りにしていたケイリーからも裏切られ、あっという間に全てを失ってしまう。
これを機に呉耀漢とケイリーの両陣営は抗争へと発展し、ケイリー側は仲間や娘を失った。施祖男たちはようやく香港に帰国するが、ケイリーの報復でステファニーが捕まるというアクシデントが発生する。愛する者を助けるため、今ここに最後の死闘の幕が上がった!
▲ぶっちゃけてしまうと、本作はこれまでの『ヒューマノイド』『12 TWELVE』のようなインパクトはありません。確かに本作のプロットは香港ノワールらしい感じが出ているし、マーシャルアーツ映画としては格闘シーンも高度な部類に入ります。海外と香港の役者がいい具合に混ざりあい、歳を取って渋みが増した呉耀漢と呉嘉龍の親子共演など、出演者たちは大いに頑張っていました。
ですが、本作はあまりにも香港映画に近付きすぎたせいで、格闘映画ではなく普通の香港映画にしか見えなくなるという皮肉な結果に至っているのです。マーシャルアーツ映画で香港ノワールをやったのは斬新かもしれませんが、『12 TWELVE』のような作品を見た後では少々食い足りないのも事実。革新的な内容を期待していた身としては、ちょっと期待外れでした。
ただし本作は水準以上のクオリティは保っており、単にボディガード系のアクション映画として見る分なら普通に楽しめます。特にマーク・ストレンジとネイサン・ルイス演じる殺し屋コンビのアクションが痛快で、初登場シーンでの暴れっぷりは『ヒューマノイド』を彷彿とさせます。武術指導はアンソニー・カルピオ名義で賈仕峰(成家班出身)が担当しているため、格闘アクションの出来は保証済みといえるでしょう。
そして本作でもうひとつ忘れてならないのが、特別ゲストの成奎安(シン・フィオン)です。成奎安といえば香港ノワールで活躍を続けた名脇役だった人で、本作では序盤に呉耀漢の仲間として登場しています。まさに香港ノワール風の本作には最適のゲストといえますが、残念ながら成奎安は2009年にガンで他界…今回が遺作となってしまいました(製作時期を考えると、闘病生活中にも関わらず出演を決断したものと思われます)。
これから本作を視聴する方は、成奎安最後の映画出演となった出演パートにぜひ注目して欲しいです。

The Sensei
製作:2008年
▼前回に引き続き、今回も未公開マーシャルアーツ映画の香港映画関連作ですが、この作品はちょっと毛色が違います。本作は主演と監督をスタントウーマンのダイアナ・リー・イノサント氏が勤めているのですが…そう、かの『死亡遊戯』で李小龍と死闘を展開したダン・イノサントの愛娘・ダイアナによる唯一の主演作がこの『Tha Sensei』なのです。
彼女の出演作はいくつか日本に上陸していて、『デイ・オブ・ザ・ディシジョン3』ではバス・ルッテンと共に悪役に扮し、父親譲りのカリ捌きを見せていました。ちなみにこの『デイ・オブ~』なんですが、作品そのものは非常にアレな出来だったりします(苦笑
■物語は黒人の男女がチンピラに絡まれている場面から始まる。そこに颯爽と現れたマイケル・オラスキー2世は、並外れた格闘技の腕前でチンピラどもをあっという間に蹴散らしてのけた。助けられた男性は礼を言おうとするが、そこに1人の青年が駆け寄る。実はマイケルは同性愛者だったのだ。「どうして君はそんなに強いんだ?」男性の問いかけに対し、マイケルはある出来事を語り始めた…。
アメリカでHIVが発見されて間もない1985年。当時高校生だったマイケルは、HIVを恐れる人々から偏見の目で見られていた。周囲の差別と耐えがたい孤独…そして遂には不良から暴行を受け、入院する騒ぎになってしまう。そんな彼を心配した母親は、せめて身を守れるようにと拳法道場にレッスンを依頼する。そこでマイケルの面倒を見ることになったのは、5年ぶりに町へ帰って来た道場の門下生・ダイアナだった。
周りからあれこれ言われるのを避けるため、2人の授業は誰もいない夜の倉庫で行われた。この交流はマイケルの心に救いをもたらし、学校では襲ってきた不良たちを返り討ちにすることができた。しかし、ダイアナの兄がマイケルの個人授業を知り、即刻止めるようにと激怒。やむを得ず彼女はレッスンを打ち切ろうとするが、不良たちの親玉である悪党に襲撃を受け、流血沙汰の乱闘となってしまう。
戦いには勝てたものの、その際に流血したマイケルをダイアナが拒んだことから、2人の絆が揺らいでいく。師を拒絶するマイケルだったが、そのときダイアナはある重大な告白をする。それはとても辛く、そして悲しき事実だった……。
▲苛められっ子の青年が師匠と特訓して成長する、いわゆる『ベスト・キッド』タイプの作品…かと思いきや、本作はHIVをテーマにした真面目なものとなっています。
ストーリーも悪人と闘って終わるような簡単なものではなく、シリアスで感動的なヒューマンドラマとして仕上がっていました。ダイアナはこれが初の監督作ですが、なかなか完成度は高かったと思います(特に終盤でダイアナが○○として認められる場面が泣けます)。
また、ドラマに重点を置いていると格闘シーンの有無が気になりますが、ある程度の見せ場は用意されていました。数自体はそんなに無いものの、顔面に肘を入れる・走ってきてリアルヒッティングで膝を叩き込むなど、殺陣そのものは凝っています。これまでアクションありきでドラマは二の次という格闘映画は数多くあったけど、ドラマ重視&アクションも疎かにしない作品というのは珍しいのでは?
現在、ダイアナはスタントウーマンとしての仕事が主のようですが、私としてはぜひ李香凝(シャノン・リー)と共演して「次世代死亡遊戯対決!」みたいなバトルが見てみたいです。できれば前回紹介した楊成五と黄正利も一緒になって…って、それじゃあ『死亡の塔』じゃん!(爆

Mission: Killfast
製作:1991年
●これまで格闘映画スターの出演作をお送りしてきましたが、次は最近ご無沙汰だった香港映画のキャストが関わった未公開マーシャルアーツ映画を取り上げていきます。その最初のターゲットとなるのは、『死亡の塔』『酔殺拳スーパー・フィスト』で知られる凄腕キッカー、楊成五(タイガー・ヤン)です!
楊成五は韓国から来たテコンドーの達人で、本国や香港で数々の功夫片に出演した経歴を持っていますが、同時に国際的な武術家としても活動していました。その縁なのか、アメリカで『CIA殺しの報酬』の武術指導を任された事もあり、本作でとうとうハリウッド映画への出演を果たしたのです。
さてストーリーですが、正直言って詳細はよく解りません(爆)。大雑把に書くと、「米軍から奪われた核兵器の部品?がテロリストの手に渡りそうなので、CIAが楊成五と協力して武器商人を倒す!」という話のようです。
本作の楊成五はCIAに召集されたテコンドーの師範という、実際の本人に近いキャラクターとなっています(役名もそのまんまタイガーヤン!)。序盤は扱いの割りに登場頻度はやや少なめですが、劇中では中盤から主役扱いとなり、テコンドーを使った立ち回り以外にも演舞やトレーニングなどを披露していました。
ただ、本作は地味な捜査と駆け引きで話を進めていくため、派手なドンパチや格闘戦は要所々々にしか出てきません。本作のタッチも80年代の初期型格闘映画(『殺しの報酬』のような物)を感じさせますが、90年代の作品にしては少々古臭い作風に思えます。しかしラストにおけるテロリストとの決戦では、楊成五とその仲間たちによる格闘戦が一気に増え、それなりの盛り上がりを見せていました。
そんなわけでコテコテのC級アクション映画な本作ですが、主演に加えて武術指導をも一手に引き受け、『殺しの報酬』と同じ香港系の格闘シーンを演出した楊成五の手腕は、もっと評価されるべき存在と言えます。現時点では本作が最後の映画出演のようですが、少し前に話題になった黄正利の復活劇のように、楊成五もスクリーンへ帰ってこないか密かに期待しています。

「ジェイク・アイデンティティー」
原題:Code Name: The Cleaner
製作:2006年
▼この作品は今月の特集で取り上げる物の中で、唯一邦題が存在するタイトルです(過去にスターチャンネルで放送。今のところ国内未ソフト化ですが、私は海外版DVDにて視聴しました)。内容はいたってシンプルなコメディアクションで、主演は『バーバーショップ』のセドリック・ジ・エンターテイナー。製作にはブレット・ラトナーも加わり、小品ながら貧相さはあまり感じさせない作りとなっています。
そんなミニマムな作品をどうしてピックアップするのかと言いますと、ズバリ!本作でルーシー・リュウVSマーク・ダカスコスという夢の対決が実現しているからです。かたや様々な武術を習得した格闘技のサラブレッド、こなたハリウッドで活躍する現代の女ドラゴン…こんな2人が本作で邂逅を果たしているのだから、興味を持てないはずがありません!(嬉
■閑静なホテルの一室で目を覚ましたセドリックは、自分が記憶喪失になっていることに気付いた。おまけに側にはFBI捜査官の死体、その脇にはケースいっぱいに詰め込まれた大金が置かれ、自分の頭には記憶を失う原因になったと思しき傷…?とっさにケースを持ってホテルから逃げ出したセドリックは、自分の妻と称するニコレット・シェリダンに連れられて大豪邸へと通された。
「もしかしてオレって大富豪だったの?」と戸惑いつつ、セレブ生活を満喫するセドリック。しかしニコレットの様子がおかしく、身の危険を感じた彼は豪邸から脱出すると、ホテルに残されたIDカードを手がかりに調査を開始していった。断片的にフラッシュバックする記憶によれば、記憶を失う前の自分は特殊部隊のメンバーだったようだが…さて?
とにもかくにも、セドリックはIDカードに記載されていたD.A.R.T.という会社まで辿り着いた。が、近場のレストランでルーシー・リュウから「あんたはその会社の清掃員よ」と告げられてしまう。どうにも身元がハッキリしないセドリックだが、何らかの事件に巻き込まれている事だけは確かだ。
彼とルーシーはD.A.R.T.や警察の目をかいくぐりつつ、事件の核心へ近付こうと奔走し続けていった。最終的にニコレットはD.A.R.T.側の人間で、ルーシーはFBI捜査官だという事が発覚。戦いの中で徐々にセドリックの失われた過去も判明していく……。果たして彼は本当に特殊部隊のメンバーなのか?それとも単なる清掃員なのか?敵の根城を舞台に、最後の決戦が始まった!
▲ちょっと大げさに書いていますが、本作は基本的にコメディなので気軽に楽しく見られる作品となっています。ストーリーはスケールの小さい『Who am I ?』みたいですが、太っちょの勘違い気味な主人公が七転八倒する様は『ビバリーヒルズ忍者』に近いものを感じました(あちらほどはっちゃけてはいないのですが)。
ただし本作には『ビバリーヒルズ忍者』のようにビジュアル的なギャグは少なく、口八丁の喋りで笑わせようとするスタイルがメイン。セドリックの正体についても特に大したことは無いし、日本語字幕無しで見るにはちょっと辛いものがありました(苦笑
さて注目のルーシーVSダカスコスですが、こちらはクライマックスの決戦にて実現しています。ダカスコスは敵の親玉として直々にセドリックたちを襲い、銃撃戦の末に素手の勝負へと移行。ここで僅かですが両者の手合わせが見られます(アクションの密度はボチボチだけど、双方とも良い動きをしていました)。
その後、新たに2人の手下が加勢に現れるのですが、何故かダカスコスはそっちへ襲い掛かります(笑)。皮肉にも、先程のレア対決よりもこちらの方が充実しており、格闘アクションのレベルも上がっていました。ダカスコスは華麗な連続キックで攻め、ルーシーはトイレにあるスッポンを使った棒術を披露!その後の結末がちょっと腰砕けですが、最後の最後にルーシーVSニコレットの女闘美バトルもあったりして、そこそこ満足のいく結果となりました。
総評としては、物語は凡庸で演出も凡庸。格闘シーンもクライマックスに2つほどあるだけですが、ルーシーとダカスコスの共演にどれだけ価値を感じるかが評価の分かれ目…かもしれません。

Bloodfist II
製作:1990年
●兄の仇を討ち、数々の死闘を繰り広げた闘いから1年後…ドン・ザ・ドラゴン・ウィルソンは現役キックボクサーとして復帰を果たし、モーリス・スミスをセコンドに迎えて闘い続けていた。だが、ヘビー級のタイトルマッチで対戦相手を死なせてしまい、再びボクサーを辞めることを決意する。それから暫くして、ドンの元にモーリスから「マニラへ来られないか?」と連絡が入り、再び因縁の地を踏みしめる事となった。
ところが、モーリスから指定された道場で謎の集団に襲われ、ドンは捕らえられてしまう。気付くとそこは船の中で、先の道場にいたファイターたちも捕まっていた。奇妙な島に連行された彼らを待ち受けていたのは、島に居を構える大富豪ジョー・マリ・アヴェラナ(前作とは違う役)と悪に染まったモーリスの姿であった。彼らは、誘拐したファイターと子飼いの戦士を古代ローマの剣闘士のように、死ぬまで闘わせて楽しんでいたのだ。
連行される寸前に脱出したドンは、ファイターたちを解放させようとするが失敗。奮闘むなしく戦いに駆り出されてしまう。しかも分の悪いことに、敵側の戦士たちは特殊なステロイドで強化され、並大抵の力では敵わないほど強くなっていた。負ければ死、勝っても場合によっては殺されるという理不尽な状況の中、ドンたちは必死に闘い続けていくが…。
前回紹介した『Bloodfist』の正当な続編ですが、今回は路線を『キックボクサー』から『燃えよドラゴン』へと変更。ストーリー性はかなり希薄で、兄の仇討ちと格闘トーナメントという大筋のあった前作とは打って変わって、ただ単に闘って終わるだけの話に退化しています。思わせぶりに登場したヒロインのリナ・レイエスもパッとしないし、敵の悪事も月並みな物でしかありません。
しかし、それだけに格闘アクションは徹底しているので、個々のアクションシーンは前作以上に充実しています。『Bloodfist』では3人の格闘チャンプが起用されていましたが、本作では一気に5人以上に増員されていて、アクションを追っていくだけでも十分に楽しめます。
味方のファイターには『シンデレラボーイ』で主人公の父を演じたティモシー・D・ベイカー(空手の世界王者)、リチャード・ヒル(この人も空手チャンピオン)、香港映画にも出演経験したモンスー・デル・ロサリオ(フィリピンのテコンドー王者)、キックボクシング世界クルーザー級王者のジェームス・ワーリング等々…一方の敵サイドには実際にドンと試合で闘ったキックボクシングヘビー級チャンプのモーリス以下、前作にも出たクリス・アグラーら強豪が名を連ねているのです。
これでいつものドン作品なら間延びした殺陣になりそうですが、そうはなっていないのが本作のいいところ(ドン作品にとっては相当に凄い事です)。主役のドンを筆頭に全員が白熱したバトルを見せ、クライマックスのドンVSモーリスも良い勝負になっていました。ただ、『燃えよドラゴン』を元にしているので、最後はもちろん大乱闘→主人公が黒幕を追い詰めるという展開になりますが、普通のおっさんであるアヴェラナがラスボスを務めるのは無理がありすぎたような…(爆