
「ホンコントライアングル/悶楽の淫媚極」
原題:情不自禁之想入非非
英題:Power of Love
製作:1993年
●前回、前々回とアクション系の三級片を紹介してきましたが、どちらの作品にも日本のAV女優が起用されています。こうしたケースは他にもあるようで、多くのジャパニーズ・ビューティーが香港への進出を果たしました。
大手ゴールデン・ハーベストが製作した『真説エロティック・ゴースト・ストーリー/艶魔大戦』の工藤ひとみ、当ブログで以前紹介した『KEDAMONO/獣』の村上麗奈など、日本で公開された作品だけでも結構な人数に上ります。
なぜ日本人女優がここまで重宝されているのか? その答えの一端が「超・級・無・敵/香港電影王」という書籍に記されていました。その本の記事によると、彼女たちは香港ポルノ女優をフォローするために投入されたそうです。
90年代、香港では三級片ブームが巻き起こっていましたが、香港という狭い立地では親バレしてしまう確立が高く、それが原因でポルノ女優の層はあまり厚くなかったとのこと。そうした心配がない日本人女優は、製作側にとって実に便利な存在だったのでしょう。
本作や『愛殺』『艶魔大戦』に出演しているAV女優の大友梨奈も、そうした流れで香港映画界に足を踏み入れたのだと思われます。
この作品は大富豪の遺産を巡る愛憎劇で、話の筋は『KEDAMONO』とだいたい一緒。メイドの呂莉、大富豪の息子に取り入った悪妻の大友、そして殺し屋の宣[丹ミ](スウェン・タン)が、互いに憎しみ合うというストーリーです。
彼女たちは貞操観念が薄く、浮気や寝取るのなんて朝飯前。主人公の呂莉にいたっては、人畜無害そうに見えて計3人の男性(彼氏と大富豪とその息子)と関係を持っており、いくらポルノ映画でも節操が無さすぎだろ!とツッコまざるを得ません(爆
話は、大富豪に気に入られた呂莉が遺産を相続することになり、これに激怒した大富豪の息子・徐寶麟と大友が殺し屋の宣[丹ミ]を雇います。そこから人間関係が乱れに乱れ、因果応報のバッドエンドとなる所も『KEDAMONO』と同じでした。
ここで気になるのはアクションの有無ですが、中盤に殺し屋を紹介した仲介人による乱闘シーンがあります。この仲介人、やたらと手慣れた様子で立ち回りを見せますが、演じているのはなんと『少林皇帝拳』の汪禹(ワン・ユー)なのです。
かつて劉家班の一角を担い、ジャッキーよりも早くコメディ功夫片のスターとなった汪禹ですが、80年代に所属していたショウ・ブラザーズが崩壊するとフェードアウト。本作では初の武術指導も兼務していますが、当時は低迷期の真っ只中にありました。
さらに本作にはもう1人、ショウブラ出身の蕭玉龍(『南少林寺VS北少林寺』では南少林派の第二陣として鹿峰と対決)が出演しており、大友に手懐けられた殺し屋として登場。終盤に徐寶麟を叩きのめし、主役そっちのけで銃撃戦を演じています。
彼はショウブラ崩壊後も活動を続け、時には主役級の活躍を見せましたが、この作品が最後の映画出演作となりました。本作は取るに足らないポルノ映画ですが、活躍の場を失い、ここで戦うしかなかった功夫俳優たちの悲哀をひしひしと感じてしまいます。
…と、なんだか暗い話になってしまいましたが、次回はさらにダークかつ過激な三級片が登場! 数々の問題作を監督した某武打星による、容赦なきハードアクションに迫ります!

「チャイニーズ・ゴースト・ウエディング/霊幻花嫁」
「チャイニーズ・ゴースト・ウェディング/霊幻花嫁」
原題:倩女雲雨情/霊幻新娘
英題:Ghostly Love/Virgin
製作:1989年
▼今月はムフフでアダルティーなアクション三級片を追っていますが、本日は紹介の前にアクション監督である谷垣健治氏の著書「アクション映画バカ一代」に目を通してみましょう。
この本は、谷垣導演が香港映画界に飛び込んだ経緯や、『殺破狼』『新宿事件』『カムイ外伝』などの撮影エピソードが綴られた興味深い書籍で、その中に三級片に関する豆知識が書かれています。
それによると、香港で作られるポルノ映画にアクションシーンがあるのは、審査基準の厳しい国で性的なシーンをカットされた際、アクション映画としても売れるようにするための工夫なのだそうです。
まぁ、さすがに前回の『ザ・香港エクスタシー』でこの手法は無理っぽいですが(笑)、今回紹介するのはそんな谷垣導演の証言を裏付ける作品なのです。キャストやスタッフも驚くほど豪華で、こちらは話を追いながら触れていきたいと思います。
■叔父に会うため旅をしていた惠天賜(オースティン・ワイ)は、一夜を明かすために立ち寄った古寺で壊れた骨壺を見付けた。彼はそれを綺麗に直して立ち去り、骨壺の主である女幽霊・朱寶意(エミリー・チュウ)は恩返しをしようと決意する。
そして宿屋に泊った惠天賜のもとに現れた彼女は、フェロモン全開の女主人(笑)に言い寄られている彼を助け、そのまま男女の仲となった。翌朝、いつの間にか消えていた朱寶意と街中で再会した惠天賜は、声をかけるが拒絶されてしまう。
実は彼女は惠天賜の叔父の娘(朱寶意の二役)で、女幽霊の朱寶意はその姉だったのである。意中の男性と駆け落ちした姉の朱寶意は、見知らぬ地で病に倒れ、非業の死を遂げた末にあの古寺へ安置されていたのだ。
その夜、姉の朱寶意は自分が幽霊だと惠天賜に知られてしまうが、それでも彼は「君を愛している」と告げた。だが、魔王の龍天翔が彼女を虎視眈々と狙っており、逃れるには儀式で生き返るしかないという。
そこで惠天賜は、以前知り合った俗っぽい道士・龍冠武(マーク・ロン)や、事情を知った妹の朱寶意に協力を仰いだ。しかし、儀式の最中に乱入してきた龍天翔によって姉の朱寶意は誘拐され、惠天賜と龍冠武は奪回作戦に挑むのだが…!?
▲ストーリーや邦題を見れば一目瞭然ですが、本作は『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』の便乗作であり、特殊効果や演出も影響されまくっています(もちろん道士の龍冠武も踊りながら歌のようなものを唄います・爆)。
ただし配役についてはとても豪華で、王祖賢(ジョイ・ウォン)に当たる役を朱寶意が演じていますが、美しさという点では本家に負けていません。上記のほかに、冒頭で戦う剣士に林威(デビッド・ラム)、霊幻道士役に胖三(パン・サン)が扮しています。
さらに驚いたことに、プロデュースを金長[木梁]との共同で郭南宏(ジョセフ・クォ)が受け持っており、製作には金長權とともに『幽幻道士』を手掛けた王知政の名まで確認できました。武術指導も程天賜だし、フォロワー三級片にしては凄まじい顔触れです。
不思議なのは、データベースサイトの香港影庫(HKMDB)に存在する本作のページに、郭南宏と王知政の表記がない点です。香港影庫では監督が呉國仁となっていますが、こちらは日本版ビデオで張傑(張人傑?)とされており、情報の食い違いが気になります。
とはいえ、劇中では飛んだり跳ねたりのアクションシーンが多く、光学合成や特殊効果もショボいなりに頑張っている様子が窺えました。残念ながら結末は尻切れトンボですが、アクション的には十分満足できる内容だったと言えます。
一方、劇中では何度となくベッドシーンが挿入され、三級片としての機能は充分果たしています。日本からは伊藤さやか・岸本優美の両名が参戦しており、そちらの主役は彼女たちだったと言えるでしょう。
しかし、よくよく見ると一連のセクシー描写は作品の本筋に関わっておらず、飛ばして見てもストーリーに支障はありません。ヒロインである朱寶意についても、惠天賜とのラブシーンこそあるものの、抱き合うだけというソフトな描写に止まっています。
これは谷垣導演が仰ったように、他国に売り込んだ際、検閲でカットされても問題がないようにしたものと思われます。ひょっとしたら、この世界のどこかに本作のエロ無しバージョンが存在する…のかもしれませんね。
アクションにエロス、そしてサプライズに満ちた意外な拾い物。それにしても、三級片にはやたらと日本人女優が起用されているイメージがあります。次回はそのへんの事情に触れつつ、またもや登場する意外な人物にも迫ってみたいと思います。

「八神康子/ザ・香港エクスタシー」
原題:獻身/献身
英題:Killing in the Nude
製作:1985年
▼さて今月は、お子様厳禁!女人禁制?なアダルト作品の中から、いまだDVD化もされていない未踏の功夫片たち(+α)をピックアップしていきましょう。
香港映画でアダルトというと、誰しも90年代に一大ブームを巻き起こした三級片を想像すると思います。しかし、ポルノや成人映画は古くから盛んに作られていて、かのショウ・ブラザーズでも『愛奴』『女集中營』などが製作されていました。
本作は香港でレーティングが導入される数年前、台湾の映画監督である李作楠(リー・ツォーナン)がメガホンを取った作品です。李作楠といえば功夫片の傑作を連発し、他にもニンジャやキョンシーなど様々なタイプの作品を手掛けてきました。
そんな彼がどうしてポルノ映画を撮ることになったのかは不明ですが、キャストには同年に監督した『摩登女性』の主演女優である金姫美、『野豹』で初主演を飾ることになる常山、『南北腿王』の彭剛など、李作楠に縁のある面々が揃っています。
さらに日本では86年に劇場公開(!)を果たしたそうですが、いくら古装片(時代劇)でもポルノはポルノ。アクションシーンの有る無しも含め、その内容が気になる所ですが…。
■名家の娘である金姫美は、恋人の徐玉模とひそかに密会していた。だが家の者たちに見つかり、妹である八神康子のすすめで駆け落ちを決意する。ところが徐玉模の正体は詐欺師であり、何も知らない金姫美は娼館に売り飛ばされてしまう。
娼館で生きていくしかなくなった金姫美は、女の技や舞踊などを仕込まれていくが、そこに憎き徐玉模が現れた。彼は売り飛ばした女のことなどすっかり忘れ、将軍の彭剛に取り入ろうと躍起になっているようだ。
しかも徐玉模は将軍の第三夫人・艾蒂の間男となっているらしく、これに激怒した金姫美は復讐を誓った。まず彼女は娼館の上客でもあった彭剛に近付き、料理人として将軍府に着任。徐玉模の企みは彭剛も察知しており、2人の小悪党は処断される事となる。
その後、将軍の第四夫人に納まった金姫美であったが、今度は若将軍の常山が彼女を狙い始めた。直情的な彼は強引なアプローチで迫り、ついには誘拐を計画。こちらは未遂で終わるものの、今度は金姫美の寝室へと押し入ってきた。
これに気付いた彭剛は剣を振るうが、若さとパワーで勝る常山に斬殺され、金姫美も舌を噛み切って夫の後を追った。残されたのは忠臣の荊國忠と、金姫美が産んだ将軍の遺児だけ…それを見た八神は、静かに復讐の炎を燃やしていく。
さらに悲劇は続き、八神と交際していた家庭教師・張佩華が、常山の手下に捕えられてしまう。すぐに処刑の日取りが決まり、牢屋に忍び込んだ八神は「今生の名残に…」と最後の一夜を過ごした。
かくして姉と恋人を失った八神は、娼館の女主人から“男の弱点となる秘孔”(←下ネタにあらず)を教わり、たった1人で仇討ちに乗り出した。彼女は妖艶な姿で常山を誘い、忍ばせていた鍼を構えるのだが…!?
▲80年代の李作楠は功夫片から脱却し、先述したように多彩なジャンルに挑戦し続けました。しかし、物語の妙とアクションのアンサンブルで傑作を生み出していた時期に比べると、後年の監督作はいささか精彩に欠けていた感があります。
本作も、どん底を味わった女のリベンジが主軸になるかと思いきや、前半で復讐はあっさり達成。主人公が途中で死亡し、ポッと出のカップルがメインになるという迷走っぷりを見せていました。
演出もかなり雑で、いきなり数ヶ月ほど経過して子供が生まれていたりと、唐突な展開が頻出します。ただし、これは日本公開版が一部のシーンをカットしているため(海外のデータベースや動画サイトによると日本版は10分ほど短い)なので、全長版を見れば印象が変わるかもしれません。
また、一方で李作楠らしい…とは言い切れないものの、ユニークな描写がいくつか見られます。例えば、功夫片では憎まれ役として描かれることが多い娼館の女主人というキャラクターが、本作では面倒見のいい女将さんとして設定されているのです。
復讐に燃える八神の身を案じたり、必殺の秘孔を伝授したりと、本作の女主人は好意的な存在として描かれています(このキャラ付けはちょっと面白い)。さらに台湾デブゴン・荊國忠が忠臣役を好演しており、脇役ながらも最後まで美味しい活躍を見せていました。
しかし私としては功夫アクションの方が気掛かりで、オープニングには武術指導のクレジットが見当たりません。「ひょっとしてアクションの無い作品なんじゃ…」と思っていましたが、中盤の常山VS荊國忠で杞憂だったことが発覚します。
そして、このキャストなら絶対あると思っていた彭剛VS常山もなかなかの接戦で、剣術もこなせる常山の技量に目を引かれました。ラストでは再び常山VS荊國忠が始まり、フンドシ一丁で蹴りを放つ常山の姿は女性ファンなら必見!かもしれませんね(苦笑
李作楠作品の醍醐味は感じられないものの、ポルノとしてはきちんと成立している佳作。まだまだサプライズに満ちた作品はありますが、次回はさらなるビッグネームが参加したオカルト古装片を紹介いたします!

「女ギャンブラー リベンジ香港」
製作:1991年
●名うての女ギャンブラーである柏原芳恵は、香港の賭場で連日のように大勝し、関係者の間でクィーンと呼ばれていた。彼女が博打に挑むのは、凄腕のギャンブラーだった父を殺した相手に復讐し、行方不明となった妹・橋本実加子を探すためであった。
彼女は父の助手だった高川裕也のバックアップを受けるが、「普通の暮らしに戻るべきだ」と諭されてしまう。そんな中、柏原は賭場で黒社会の大物・谷峰(クー・フェン)の情婦である赤座美代子と対面する。
彼女は柏原の実母であり、父の死と同時に家族を捨てた冷徹な女だった。一方、谷峰の組織で娼婦として働かされていた橋本は、恋仲となった男の手引きで脱走。この一報を聞きつけた柏原は、高川や旧友の佐藤祐介とともに、香港の街を必死で捜索した。
だが必死の抵抗もむなしく、橋本は再び組織に捕らわれてしまう。柏原はその情報を谷峰の対抗馬・仇雲波(ロビン・ショウ)から知らされ、意を決して組織の経営するホテルへと突入する。
かくして妹の奪還には成功するが、敵は追及の手を緩めず、ついには佐藤と橋本の両名が死亡。高川も手傷を負う中、柏原は仇雲波の仕掛けた大博打に乗っかり、かつて大敗を喫した赤座とのギャンブル勝負に挑む事となる。
意地と誇りを賭けて戦おうとする柏原、命を捨ててでも仇を討とうとする高川、そして絶対的な自信とプライドを武器に立ちはだかる赤座。…今、香港を舞台に三者三様の思いを秘めた死闘が始まった!
私がこの作品の存在を知ったのは、日本人の武術指導家・鹿村泰祥の経歴を追っていく過程での事でした。鹿村さんといえば、倉田保昭とともに香港映画界で活躍した日本人であり、アクションスターとしても名を馳せた方です。
そんな彼と結婚している…と噂されるのが元アイドル歌手の柏原芳恵なんですが、本作こそが2人の出会った記念すべき(?)作品とのこと。しかし作品自体の情報が少なく、ネットで検索しても2人の関係を扱った記事ばかりがヒットします。
そのため、どんな内容なのかずっと気になっていましたが、今回その全貌を確認することが出来ました。
本作は香港でオールロケーションが行われており、柏原嬢は主演、鹿村さんはアクション指導をそれぞれ担当。先述の通り、香港からは仇雲波や谷峰、脇役で夏占士(同じVシネ合作の『霸拳』にも参加)の姿も確認できます。
この面子だとアクションに期待が高まるところですが…結論から申し上げますと、香港側のキャストによる肉弾戦は一切ありませんでした(涙)。全体的に銃撃戦の比率が多く、格闘シーンが集中しているのはホテルへ突入する場面ぐらいです。
まぁ、鹿村さんが指導しているとはいえ、主題がギャンブルなのでこうなることは予想していました。が、それにしたって仇雲波にアクションをまったくやらせない(僅かに銃を撃つだけ)という采配には納得できません!(爆
ちなみに、格闘シーンを彼らに代わって担当するのは柏原嬢と高川の2人で、両者ともそれなりの奮戦を見せていました。絡み役のスタントマンも派手に吹っ飛んだりしていますが、返す返すも仇雲波の活躍が…(←しつこい)
これでストーリーが良ければいいんですが、残念ながらこちらも不発気味。ギャンブラーとしての苦悩や、母子による確執の物語などが簡潔に描けておらず、役目を終えたキャラクターから順に殺していく展開も安易さを感じます。
特に問題なのが、主人公がギャンブラーという設定に必然性が感じられない点です。本作の主人公はギャンブラーに転身し、仇敵や妹の行方を捜していますが、彼女が賭け事で情報を掴むシーンなどは存在しません。
もしギャンブラーが主人公なら、「仇敵の情報が欲しけりゃポーカーで勝負だ!」「妹を救いたければバカラで勝負だ!」てな感じでストーリーを転がし、ギャンブル対決を主軸に展開していけたはずです。
しかし、本編では妹を奪還するために銃撃戦を仕掛けたり、棚ボタ的に情報を得たりと、まったくギャンブラー設定が機能していない有様。しまいには赤座から「ギャンブラーになって有効な情報は掴めたの?」とツッコまれるシーンまでありました。
母子の確執についても、赤座が徹底的に悪役として描写されているせいで、最後の献身的な行動が「何を今さら」としか思えないものになっています(死に際の台詞も母親としてではなく、ギャンブラーとしての発言だし…)。
単調なカメラワークや、香港ロケを生かさない地味な画作り(ロケ地が廃墟や倉庫街ばっかり)など、他にも問題が山積している本作。ネットで情報が少ないのも納得できる出来なので、どうしても鹿村さんの仕事が気になる方以外は避けた方が無難だと思います(爆

虎拳鐵掌
英題:On the Black Street/Eagle Claws Champion
製作:1974年
●(※画像は本作を収録したDVDセットの物です)
まったくもって無名の功夫片であり、キャストもスタッフも日本では馴染みのない顔だらけですが、ある一点で歴史に残ることになった作品です。
ストーリーは実にシンプルで、功夫の達人である主人公(後述)が武術大会で優勝するところからスタート。もともと素行の悪かった彼は、ケンカで人を死なせてしまったことで収監され、その間に父親が死んでしまいます。
悔い改めた彼は更生を誓いますが、因縁のあるヤクザ者たちが嫌がらせを開始し…。と、ここまで来れば明々白々ですが、本作は『ドラゴン危機一発』と同じ“不戦の誓いを立てた主人公”を描いたもので、ここから敵の兆発がひたすら続くのです。
時には仲間が庇ってくれるものの、戦いを避けたい主人公は苦悩するばかり。家計のために主人公の妹が楼閣で働いていたり、それが敵にバレて嫌がらせの材料にされたりと、じつに湿っぽい展開が続きます。
ラストは再び武術大会が開催され、ようやく主人公が怒りの鉄拳を振るいますが、その過程も実にアッサリしているのでカタルシスが得られません。最初から最後に至るまで、実に味付けの薄い作品と言えるでしょう。
ただ、アクションシーンは李小龍(ブルース・リー)の模倣ではなく、勢い重視でバチバチと殴りあうスタイルを選んでおり、平均以上の質は保たれています。
また、仲間の1人を若き日の蘇真平(スー・ツェンピン)が演じていて、戦えない主人公に代わって俊敏な立ち回りを披露! もう1人の仲間(演者不明)も伸びやかな足技を見せ、間延びしがちな主役不在の状況を乗り切っていました。
とはいえ、ラスボスとして登場する鐵掌の使い手・蔡弘があまり強そうに見えない(序盤と中盤で思いっきり主人公に負けてる)など、アクションの端々に演出の甘さが感じられます。
肝心の主人公についても、派手な拳法や必殺技を使わないので印象が薄く、せっかくのシャープな動きが生かせていません。タイトルに虎拳と付いているんだし、ビシッと主人公にやらせれば良かったのになぁ…。
さて、ここまでさんざん引っ張ってきましたが、悩める主人公を演じたのはコナン・ハンという人物です。あまり知らない方だったので調べたところ、中文名は向華勝ということが解りました。……ん? この名前、どこかで見たような……?
そう、向華勝とは永盛電影公司(現在の中國星)を率いた向華強(チャールズ・ヒョン)の弟! 兄と共に多くの映画を製作し、さらには黒い方面の重要人物としても知られています(汗
向華強が俳優としても活躍していた事は知っていましたが、まさか弟の向華勝も功夫片に出ていたとは驚きです。どうやら本作が唯一の主演作らしく、以後はプロデューサーへと転身。1978年には兄が主演した『梁山怪招』という作品を製作しています。
そういえば、監督の巫敏雄・共演の蔡弘という顔ぶれも、向華強の『子連れドラゴン女人拳』と共通しています。本作に兄の名前はありませんが、ひょっとしたら製作の背景に向華強の関与(意味深)があったのかもしれませんね。