『ドラゴン太極拳』 | 続・功夫電影専科

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香港映画を始めとした古今東西のアクション映画の感想などを書き連ねています。


「ドラゴン太極拳」
原題:太極氣功/太極元功
英題:Born Invincible
製作:1978年

▼70年代も後半に差し掛かった1977年において、2本の傑作功夫片が誕生しました。それが『少林虎鶴拳』と『鷹爪鐵布杉』です。前者は親子二世代に渡る大河アクション、後者は入念に練られたストーリーが特色で、今もなお高い評価を得ています(特に『少林虎鶴拳』は、その年の興行収入第3位の大ヒット作となりました)。
この『少林虎鶴拳』と『鷹爪鐵布杉』は、どちらも「鐵布杉」という技がキーポイントとなっていました。これは全身を気で鋼鉄化させ、あらゆる攻撃を無効化するというチート級の防御技であり、ラスボスの強大さを大いに引き立たせています。以前からそういった演出が無かったわけではありませんが、この2作品は合理的かつ迫力満点の功夫アクションを構築しており、他所とのレベルの違いを明確に打ち出しました。
これらの公開後、多くの功夫片で「鐵布杉」的な演出が模倣されていきます(『倉田保昭のカンフー大作戦』『成龍拳』などはその典型)。そんな中、台湾の郭南宏(ジョセフ・クオ)も同様のコンセプトの作品を製作しますが、過去の作品とは違う方向性を開拓しました。ただひたすらにラスボスに焦点を当て、傍若無人さを徹底的に強調した作品…それが『ドラゴン太極拳』となるのです。

■30年以上に渡る修行の末、恐るべき力を身に付けた銀魔王という男がいた。鐵布杉によって体は鋼鉄と化し、発動すれば相手は確実に死ぬという最終奥義・八卦の陣まで体得しているという。そんな銀魔王の配下である黒白小鬼(元奎&袁信義)が、龍冠武・龍世家たち町道場の門下生の前で蘇真平を殺そうとする場面から物語は始まる。
彼らは私闘を禁じられていたが、見かねた龍冠武が割って入ったため乱闘に発展。この騒ぎは師範の徐忠信(アラン・ツィ)が治めたが、龍冠武たちは師匠の龍飛(ロン・フェイ)から厳しい戒めを受けてしまう。翌日、銀魔王と金魔王の2人が道場へ攻め入ってきた。徐忠信は金魔王に倒され、龍飛も銀魔王の技で絶命。最後に出てきた蘇真平は善戦したが、魔王たちの合体攻撃に敗れ去った。
 この事態に門下生たちは仇討ちを誓い、黙々と修行に打ち込んでいく。その間、道場にやって来た黒白小鬼を返り討ちにするが、魔王たちはこれに大激怒。門下生たちは道場を引き払い、人里離れた洞窟に身を隠した。
その後、龍世家が金魔王の撃破に成功するも、圧倒的な実力の銀魔王には勝てず死亡。続いて「口から鉄球を飛ばす」というトンデモ技で挑んだ弟子も敗北し、強そうな門下生は龍冠武を残すだけとなった。ここに至って、龍冠武は銀魔王の師から「どこかに弱点があるはず」と曖昧な助言を受け、謎の尼さんから攻略の糸口を見出す。果たして、この戦いの結末は…?

▲要するに本作は2つの武館による抗争を描いたものなのですが、黄家達(カーター・ウォン)の演じるキャラクター・銀魔王の存在に目を引かれます。過去の鐵布杉映画の使い手たちに負けない実力を持ち、鐵布杉だけでなく八卦の陣のような独自の技も持っています。闘いでは手を挙げるとピューン!と音が鳴り、勝つと甲高い声で笑うという強烈なキャラ設定も、一度見たらなかなか忘れられません。
対する味方サイドは一見すると地味なんですが、それを補って余りあるのがその卑怯さです。黒白小鬼を罠で囲い込んで殺害したり、刀に細工を施したり、終盤では銀魔王を焼き討ちして殺そうと提案したりと、真っ向から闘っている銀魔王たちとスタンスが違いすぎます(笑
 このへんも本作の特異な点で、鐵布杉映画といえば「主人公が敵の弱点を探って勝つ」というゲーム感覚の要素が必ず存在しました。ところが、本作では敵味方で戦力差が開きすぎているため、なんとか差を埋めようと主人公たちは正攻法以外の手段に及ばざるを得なくなります(そのかわり弱点はあっさり発覚します)。冷静に見るとズルい気がしますが、これもまた本作の魅力のひとつであり、銀魔王の強さをより一層引き立たせているのです。
作品の大部分を占める功夫アクションを構築したのは、『鷹爪鐵布杉』も手掛けた袁和平(ユエン・ウーピン)。なのでアクションシーンは驚くほど水準が高く、アイデアに溢れたファイトが堪能できます。黄家達の動きも同時期の出演作とは明らかに違い、のちに郭南宏作品の新たな看板俳優となった龍冠武たちとの対決も感慨深いものを感じてしまいました。
傑作中の傑作に出演し、その実力を改めて知らしめた黄家達。しかし、時代の変革は刻一刻と迫りつつありました。同年に発表された『酔拳』の登場で、功夫片の世界が一気にコメディ一色へと変化します。そして80年代を目前に控え、黄家達は意外な製作会社からオールスター大作への出演を打診され…?(次回へ続く!)