
「ネイビー・ストーム」
原題:HOSTILE ENVIRONMENT
製作:1998年
▼マーシャルアーツ映画ファンなら、誰しも一度はマシアス・ヒューズという男を見た事があるはずだ。
ドイツ出身のマシアスは、役者になる前は193cmの長身を生かしてモデルの仕事などをこなしていたという。そんな彼が映画界へ踏み込むきっかけとなったのが、かの傑作『レイジング・サンダー』だ。当初、マシアスがこの作品で演じた悪の将軍は『シンデレラ・ボーイ』で呉思遠(ウン・シーエン)に発掘されたジャン=クロード・ヴァン・ダムが続投する予定だった。だがスターとなったヴァンダムはその依頼を蹴り、結果的にマシアスという新たな格闘スターが誕生することとなったのだ。
ちなみに話は反れるが、ヴァンダムはその後『キックボクサー』のヒットでスターへの階段を駆け上っていく事になるが、続く『キックボクサー2』にはマシアスが参加している。ヴァンダムとマシアスは呉思遠が製作した海外資本向けの擬似マーシャルアーツ映画の第1作と第2作にそれぞれ出演していたが、ハリウッドでも同様の構図が再現されるとは、なんとも不思議な縁である。
話を元に戻そう。その後ヴァンダムは格闘映画スターとして羽ばたいていったが、マシアスはあまりメジャー作品には出演せず、その映画人生をB級映画に捧げた。大作にこそ縁が無かったマシアスだが、彼は多くの格闘映画スターと拳を交える事となる。
『アンダー・カバー/炎の復讐』でジェフ・ウィンコットと、『バウンティ・ハンター/死の報酬』でロレンツォ・ラマスと、『キングオブドラゴン』でビリー・ブランクスと、『シューティング・サンダー』でドン・"ザ・ドラゴン"・ウィルソンと対決。極めつけは『ダーク・エンジェル』でのVSドルフ・ラングレン戦もあった。
■現在も活動を続けているマシアスだが、今回紹介する作品はそのマシアスの唯一といってもいい主演作だ。
作品自体は非常にスカスカで、設定やストーリーにもアラが多い。恐らくはメインの舞台となる場所が戦艦だったことが、本作の首を絞めたのではないだろうか?戦艦一隻をレンタルしてスケール感を出そうと背伸びをしたが、その他の部分に予算が回せず、結局は作品全体がショボいものになってしまった…というのが本作の真相だろう。明らかに失敗作の典型だが、しかしマシアスの事を考えると無下に否定することは出来ないし、共演のダレン・シャラビもいい格闘シーンを見せているので、一見の価値ぐらいはあるはずだ。
近未来の地球は水が汚染され、一握りの権力者が新鮮な飲み水を独占して世界を支配していた。ブリジット・ニールセンが率いる組織の一団は、抵抗する住民グループのリーダーから娘を奪い、ついでに反抗したマシアスも誘拐し、本拠の戦艦へと連れ込んだ。ここでは大勢の捕虜が犬のように労働を強いられている、まさに監獄のような場所だった。マシアスは一大反抗作戦を計画するが、同様に裏では組織の幹部による革命も着々と動いていた…。
▲まず本作は設定の根本からしておかしい。
人間の体は80%が水分で出来ているのだから、こんな設定だったら人類のほとんどは死滅しているはずだし、ラストでの超なげやりなオチも頂けない。また、戦艦で働かせている囚人たちの生活がかなり良い待遇だったのも妙な話だ。なにしろメシは食えるし貴重な水もちゃんと分配されている。強いられる労働自体もそんなにキツいものには見えなかったし、拷問を受けていたマシアスがちゃんとベッドに寝かされるシーンまであるのだ(普通ならそのまま鎖に繋いでおくはずなのに)。もしかしてこの戦艦、そんなに悪い所じゃなかったのかもしれない(苦笑
そして肝心のアクションだが、こちらは終始もっさり気味。マシアスはちゃんと動いているのだが、殺陣にバリエーションが無いのが欠点だ。その代わり本作で一番凄い動きを見せるのが、後半から登場するダレン・シャラビのアクションである。ダレンは『太極神拳』で呉京(ウー・ジン)と闘い、他にもいくつか香港映画に出ている人。その足技たるや素早くて力強く、ザコを一蹴するシーンはとても見ごたえがあった。
どうしてダレンのアクションだけこんなに良いのかというと、実はダレンの格闘シーンはダレン本人が振り付けている。本作には他にもファイトプロデューサーやスタントコーディネーターがいるのに、どうしてダレンにだけこんなことが起きたのかはよく解らない。多分、ダレンが現地のスタントマンの鈍さに痺れを切らし、せめて自分が活躍する所だけでも自分なりのやり方で貫き通したかったからこうなったのではないかと推測される(あくまで推測)。
けど、こんなに良質のアクションをやってくれるなら、アクション指導をダレンに一任させてしまっても良かったのでは?ダレンが目立ち過ぎたせいで、マシアスが完全に置いてきぼりを食わされた形になってしまっているので(折角の完全主演作なのに…)、そこらへんはもうちょっとどうにかしてほしかったです。