サン・ラ - ラヴ・イン・アウター・スペース(ライヴ・イン・ユトレヒト) (Leo, 1988) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ラヴ・イン・アウター・スペース(ライヴ・イン・ユトレヒト) (Leo, 1988)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - ラヴ・イン・アウター・スペース(ライヴ・イン・ユトレヒト) Love in Outer Space: Live in Utrecht (Leo, 1988) 

Recorded live at Utrecht, Holanda, December 11, 1983
Released by Leo Records LR-154 (LP and CD), 1988
All Compositions (expect as indicated) and arranged by Sun Ra
(Side A)
1. Along Came Ra - 1:13 (CD only)
A1. D.27 (Discipline 27) - 6:00
A2. 'Round Midnight (Hanighen-Monk-Williams) - 8:40 (Track 6 on CD)
4. Big John's Special (H. Henderson) - 3:18 (CD only)
A3. Fate In A Pleasant Mood - 10:50
(Side B)
B1. Blues Ra - 4:45 (Track 3 on CD)
B2. Love In Outer Space/Space Is The Place - 19:50
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - piano, keyboards, vocals
Michael Ray - trumpet
Ronnie Brown - trumpet, flugelhorn, percussion
Tyrone Hill - trombone
Marshall Allen - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, clarinet, vocals
Eloe Omoe - alto saxophone, bass clarinet, contra-alto clarinet; 
James Jacson - bassoon, flute, Ancient Egyptian infinity drum; 
Thompson - baritone saxophone, flute
Wilbur Little - possibly bass
Don Mumford - possibly drums, percussion
Matthew Brown - possibly conga
June Tyson - vocals 

(Original Leo "Love in Outer Space: Live in Utrecht" LP Liner Cover & Side A Label)


 今回でサン・ラのアルバム紹介も120回目、アルバム枚数にすれば150枚を越えます。前回・前々回採り上げた2連作のライヴ・アルバム『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』と『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』は、1983年3月~5月のヨーロッパ~エジプト・ツアー、7月~8月のヨーロッパ・ツアー、10月~1984年4月のヨーロッパ~エジプト・ツアー中に1984年1月のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのサン・ラ・オールスターズのライヴ「Stars that Shine Darkly」を中心に1976年にまでさかのぼる1984年までの未発表曲のライヴ・テイクをまとめたライヴ・コンピレーションだったので本作より先にご紹介しましたが、発表が1988年に遅れた本作『Love in Outer Space: Live in Utrecht』は1983年11月11日・オランダのユトレヒトでのライヴをほぼフル・セット収録したもので、アルバム化前提の録音が行われており、本作前後のサターン盤『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』や発掘ライヴ音源の5CD『Milan, Zurich, West Berlin, Paris』(Transparency, 2008)より格段に上質な録音の、スタジオ盤以上にクリアな音像と分離の良いミキシングの好作ライヴです。バンドも公式収録を意識したタイトな演奏でライヴ盤としての完成度も高く、さすが自主制作のサターン盤や発掘音源以上の公式盤の風格が感じられます。この音質と演奏ならサン・ラ・アーケストラのアルバム中でもファースト・チョイスに選んでも外さないだけの内容を備えますが、逆にサン・ラのアルバムを10枚、20枚と揃えていくと順当な内容に印象が稀薄になってくる、という不利な位置にあるアルバムでもあります。

 アルバム・タイトル曲「Love In Outer Space」は1965年のアルバム『Secrets Of The Sun』に初出、その後1970年のアルバム『The Night Of The Purple Moon』で再録され、’70年代~’80年代を通してサン・ラの晩年(1993年逝去)までライヴの定番曲だった曲です。またブルース曲の「Fate In A Pleasant Mood」は1965年の同名アルバム(ライヴ定番曲「Lights On A Satellite」の初出アルバムでもあります)のタイトル曲ですが、本作ではヴォーカル曲として新アレンジで演奏され、ほとんど別の曲になっています。CDリリースが普及した1988年発表のため、アナログLPでの収録曲と曲順は、

(Side A)
A1. D.27 (Discipline 27) - 6:00
A2. 'Round Midnight (Hanighen-Monk-Williams) - 8:40
A3. Fate In A Pleasant Mood - 10:50
(Side B)
B1. Blues Ra - 4:45
B2. Love In Outer Space/Space Is The Place - 19:50

 となっていますが、同時発売のCDでは、
(Tracklist)
1. Along Came Ra - 1:13 (CD only)
2. D.27 (Discipline 27) - 6:00
3. Blues Ra - 4:45
4. Big John's Special (H. Henderson) - 3:18 (CD only)
5. Fate In A Pleasant Mood - 10:50
6. 'Round Midnight (Hanighen-Monk-Williams) - 8:40
7. Love In Outer Space/Space Is The Place - 19:50

 となっており、1分13秒の1「Along Came Ra」の追加は2「D.27 (Discipline 27)」のイントロとしてさほど印象が変わりませんが、CDでは軽快なピアノ・ブルースの「Blues Ra」が3曲目、4曲目にCD追加曲のジャンプ・ナンバー「Big John's Special」がくり上げられ、LPでは2曲目だった「 'Round Midnight」が6曲目にくり下げられていることで、LPフォームとCDフォームで聴くのではかなり印象の異なる曲順になっています。セロニアス・モンクの「 'Round Midnight」は'70年代後半以降ライヴでの演奏頻度の高い曲になり、バンド全体は退いてサン・ラのソロ・ピアノ~キーボード・パフォーマンスの独壇場として演奏されることが多いのですが、このユトレヒトでのライヴではピアノ・トリオでのテーマが奏でられた後には、ジョン・ギルモアのテーマ吹奏とソロをフィーチャーし、フルート・アンサンブルを配したバンド全体での演奏を強調した新アレンジで聴かれます。これも公式ライヴ盤収録を意識してスタジオ録音での再録に近い工夫が凝らされたものと思われ、この「 'Round Midnight」がLPでの2曲目にくるか、CDでは最終曲の前の6曲目に置かれるかでアルバム全体の印象がまったく異なってきます。

 ラテン・テンポで普段以上に軽やかな「Love In Outer Space」と新アレンジのヴォーカル曲「Space Is The Place」はメドレーで20分近い長さにおよんでおり、「Space Is The Place」は中盤ではオルガン、シンセサイザーに移りますが、ここでイントロからヴォーカル・コーラスのバックまでピアノでバック・リフが奏でられ、スタジオ録音初演でのじっくりしたミドル・テンポのスペース・ジャズ・ファンク的な熱狂とは趣きの異なる、ファスト・テンポのクールなジャズ・ファンク曲になっています。本作はほぼ1コンサート・フル収録と言っても実際のアーケストラのライヴは2時間以上におよび、パーカッション・アンサンブルによる長い長いイントロや古典ジャズ曲、ライヴならではの「Unidentified Title」あつかいの新曲なども披露されたでしょうが、アルバム化された本作は一糸の乱れもない、ライヴ盤収録のためにリハーサルを積んだような完成度の高いトラックばかりが見事な構成でまとめられています。曲順に関してはLPフォームでの5曲の配曲により凝縮感があり、CD追加曲の2曲はアンコール・ナンバー的にLPの5曲の後に置かれても良かったのではないかとも感じられます。またライヴならではの熱狂や暴走はアーケストラのライヴ盤としては例外なほど抑制され、アーケストラならではの微妙に外れたピッチやタイム感も矯正されてまるで優秀なビッグバンドのようで、これまでリリースされてきた数々のサン・ラのライヴ名盤と較べると完成度が高く音質良好な分だけかえって旗色が悪い、という皮肉なことにもなっていますが、フリー・ジャズ色を極力抑えたビッグバンド・ジャズらしいサン・ラを聴くには、本作はアーケストラの実力を知らしめるだけの内容を誇るライヴ・アルバムです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)