サン・ラ- アウター・リーチ・インテンシティ・エナジー (El Saturn, 1985) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ- アウター・リーチ・インテンシティ・エナジー (El Saturn, 1985)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra / Sun Ra All Stars - アウター・リーチ・インテンシティ・エナジー Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2) (El Saturn, 1985)
Side A Recorded live surely on 1983 or 1984 (Or 1976 to 1984)
Side B Recorded live in Montreux, November 2-5, 1983
Released by El Saturn Records Saturn Gemini 9-1213-85, 1985
All composed and arranged by Sun Ra
(Side A) :  

A1. Outer Reach Intensity-Energy - 4:06
A2. Cosmos Rendezvous - 4:31
A3. Barbizon - 4:00
A4. The Double That... - 5:01
A5. The Ever Is... - 4:05
(Side B) :  

B1. Stars That Shine Darkly (part 2)  - 23:26
[ Personnel ]
Side A: « Sun Ra and his Arkestra »
Sun Ra - organ
Ahmed Abdullah - trumpet (en Cosmos Rendezvous)
Michael Ray - trumpet
Fred Adams, Al Evans, Martin Banks, or Ronnie Brown (poss.) - trumpet
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone
Eloe Omoe - alto saxophone, bass clarinet, contra-alto clarinet
James Jacson - basoon, percussion
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, modified basoon (on The Ever Is...)
2 unknown - drums
Side B: « Sun Ra All Stars »
Sun Ra - piano
with Sun Ra All Stars
Lester Bowie - trumpet
Don Cherry - trumpet, vocal
Archie Shepp - soprano saxophone, tenor saxophone, vocal
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone
Eloe Omoe (prob.) - bass clarinet
Richard Davis - bass
Philly Joe Jones - drums
Clifford Jarvis - drums
Famoudou Don Moye - percussion 

サン・ラ・オール・スターズ Sun Ra All Stars - ヒロシマ Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1) (El Saturn, 1985)
Side A Recorded Live in Montreux, Switzerland, November 2-5, 1983
Side B Recorded live at unknown place but surely in Europe, November 1983 (or At Atlanta, 1984 or 1985)
Released by El Saturn Records Saturn 10-11-85, 1985 (Matrix number Sun Ra 11-83 A/B)
All composed and arranged by Sun Ra
(Side A) :   

A1. Stars That Shine Darkly (part 1) - 14:50
(Side B) :  

B1. Hiroshima - 15:05
[ Personnel ]
Side A: « Sun Ra All Stars »
Sun Ra - piano
with Sun Ra All Stars
Lester Bowie - trumpet
Don Cherry - trumpet, vocal
Archie Shepp - soprano saxophone, tenor saxophone, vocal
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone
Eloe Omoe (prob.) - bass clarinet
Richard Davis - bass
Philly Joe Jones - drums
Clifford Jarvis - drums
Famoudou Don Moye - percussion
Side B: « Sun Ra Arkestra »
Sun Ra - pipeorgan
with unknown bass, drums.
(Original El Saturn "Stars That Shine Darkly" El Saturn 10-11-85/9-1213-85, 1985 LP Blank Label)

 今回ご紹介する2作は前回と同じ『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』と『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』の連作ですが、前回はアルバム成立の背景をまとめるだけで手いっぱいだったので、今回はアルバム収録曲に即して聴き返してみるつもりです。この2作は「Stars that Shine Darkly」1曲だけをA面にPart 1、B面にPart 2を収録した『Stars that Shine Darkly』を分割、追加トラックを収録して2連作にしたものであり、1984年1月のモントルー・ジャズ・フェスティヴァルでのサン・ラ・オールスターズによる「Stars that Shine Darkly」を目玉曲にして前後して収録されたサン・ラ・オーケストラのライヴ・トラックを抱き合わせたもので、ドン・チェリー(トランペット)、アーチー・シェップ(テナーサックス)、レスター・ボウイ(トランペット)、リチャード・デイヴィス(ベース)、ドン・モイエ(パーカッション)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(ドラムス)らが加わった豪華メンバーのオールスターズによる目玉曲1曲だけ、それも同じテイクの前半と後半を切り離して2枚分のアルバムにして売ろうという、普通思いついても実行しない、自主制作レーベルのサターン盤ならではの発想によるコンピレーション盤ですが、逆に追加トラックに注目すればこの2作のコンピレーション盤でしか聴けないためにオリジナル・アルバムとして押さえておかなければならないというリスナー泣かせの仕様になっています。ややこしい成立事情についてさらに補足すれば、まずAB面にタイトル曲のPart 1、Part 2を収めたサン・ラ・オールスターズの『Stars that Shine Darkly』(El Saturn, Saturn 10-11-85, 1985)がリリースされ、すぐさま同じレコード番号のままPart 2をサン・ラ・アーケストラの「Hiroshima」に差し換えた『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』が追加プレスされるとともに、B面にPart 2を収めてA面にアーケストラの未発表ライヴ5曲を収めた『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』(El Saturn, Saturn 10-11-85, 1985)が同時リリースされたので、オールスターズによる目玉曲「Stars that Shine Darkly」だけで3枚ものアルバムに引き延ばしたことになります。これは1982年録音・1983年リリースのアルバム2作『A Fireside Chat with Lucifer』と『Celestial Love』から前者のA面・後者のB面をカップリングした1984年のアルバム『Nuclear War』で前例がありますが、『Nuclear War』の場合はサターン盤の前2作からヨーロッパ諸国のインディー盤でリリースされた際にコンピレーション化されたものなので、『Stars that Shine Darkly』から『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』と『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』への分割拡張化とは似ているようで手順はまったく逆と言えます。

 1982年スタジオ録音のマテリアルからなる『A Fireside Chat with Lucifer』『Celestial Love』『Nuclear War』はスリーマイル島原発事故に言及したヴォーカル曲「Nuclear War」を中心に、同時期のアーティストで言えばグローヴァー・ワシントンJr.の「Just The Two of Us」、クインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」やハービー・ハンコックの「Rock It」のように広いポップス・リスナー層に向けたものでしたが、ゴリゴリのフリー・ジャズ・オールスターズによる「Stars that Shine Darkly」を軸とした、『Stars that Shine Darkly』『Hiroshima』『Outer Reach Intensity-Energy』の3作はいかにもファン限定(サン・ラのサターン盤はほとんどそうですが)の粗末なジャケット、収録内容の重複でリスナーを遠ざけています。しかしアルバム内容の質の高さは本気を出したサン・ラならではのもので、これでもうちょっと音質が良ければ'80年代サン・ラの代表作に上げてもいい、素晴らしい演奏内容を誇ります。モントルー・ジャズ・フェスティヴァルに先立ってこのメンバーのオールスターズが1983年10月からヨーロッパ各地でライヴを行っていたのは、前々回に採り上げたCD5枚組の発掘ライヴ盤『ミラノ、チューリッヒ、西ベルリン、パリ(Milan, Zurich, West Berlin, Paris』(Transparency, 2008)によって判明しましたが、そこではサン・ラ・アーケストラの通常レパートリーに古典ジャズ曲を多めにして、すでに新曲「Stars that Shine Darkly」が演奏されていました。もっともこれは順序が逆で、いつものサン・ラ・アーケストラのライヴでも「Unidentified Title」とされる新曲(即興曲の場合もあれば、事前に簡単なリブやモチーフが用意されたと思われるもの)が頻出します。オールスターズのライヴでもそれぞれ異なる「Unidentified Title」がステージごとに数曲ずつ演奏されています。サン・ラはスタジオ録音を前提として作曲する場合ももちろんありますが、特にライヴ音源が判明している'60年代後半以降はライヴで無題の新曲を試演し、それがレパートリーに定着してきたら公式ライヴ盤やスタジオ盤に収めるに当たって曲名をつけることが多いので、1983年末の段階では「Stars that Shine Darkly」も「Unidentified Title」の1曲であり、モントルー・ジャズ・フェスティヴァルで40分以上もの大作として演奏するに当たって「Stars that Shine Darkly」のタイトルがつけられ、練り上げられたものと推定していいでしょう。この曲はPart 1ではサン・ラのピアノが奏でる6音のモチーフによるホ短調・ドリアンモードの不吉な葬送曲として始まり、やがて嬰ホ短調に転調していきます。Part 1はサン・ラのピアノ・ソロからアーチー・シェップの意図的に抑制されたソロに受け渡され、シェップのソロの後半からジョン・ギルモアの鋭角的なソロが重なっていく展開で、2テナーサックス・ソロがフェイドアウトしていくところまででPart 1としてまとめられています。楽曲としてはこのPart 1だけでもまとまりがあり、フェイドアウトも不自然ではなくスタジオ録音だったらやはりここでフェイドアウトさせてLP片面分のアルバム収録テイクとするのが妥当だったろうと思われる処理になっています。Part 2ではドラムスのイントロからマーシャル・アレンのソロになりますが、ホ短調~嬰ホ短調への移調をともなうインプロヴィゼーションになり、一応調性はあるのですがホ短調、嬰ホ短調のどちらのドミナントからもソロが派生していくので聴覚上はほとんど無調に近いクロマティック(または全音階的)な集団即興の応酬になり、アレンのアルトからギルモアのテナー、エルモ・オーエのバスクラリネットにソロがバトンされたのち、リチャード・デイヴィスのアルコ・ソロを挟んでドン・チェリーとレスター・ボーイのトランペット・ソロにサックス陣がフラジオ音で応酬し、ホーン陣が疲れ果てたところでマーシャル・アレンのピックアップ・ソロに続いてサン・ラとフィリー・ジョー・ジョーンズのヴァース交換ソロに展開し、デイヴィスのベースとフィリー・ジョーのドラムスの同時並行ソロになり、この二人はキャリアから言ってもメインストリーム・ジャズでの活動の方が多く、フリー・ジャズとの接点は散発的なのですが、ここでの演奏はおそらく両者にとってもっとも過激な即興演奏に挑んだものでしょう。どれだけ暴れてもこのメンバーでならば即座に対応してくれるという信頼がこの演奏をオールスター・メンバーによるジャムセッションにとどまらない、一体感のあるものにしています。またPart 2はこの曲が1964年初演、アルバム『Magic City』1966(1965年録音)初出の、サン・ラのフリー・ジャズ路線の代表曲「The Shadow World」の発展型なのを暗示しており、タイトルの「Stars that Shine Darkly」自体が「The Shadow World」の呼び換えとも言えます。Part 1は新たなモチーフによる「Unidentified Title」を元にしており、Part 2は「The Shadow World」の発展型と、この「Stars that Shine Darkly」はもともと2曲をつなぎ合わせて新曲としたものでしょう。Part 1がフェイドアウトで終わり、Part 2がドラムスのイントロから始まりPart 1のテーマに回帰せずに終わるのが、実際のステージではこの曲が連続演奏された2曲から編集された痕跡を残しているとも言えます。またそうした成り立ちからもPart 1とPart 2を分割収録した『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』が編まれる余地があったともうかがえます。

 先に「Stars that Shine Darkly Part 1」のテーマ(モチーフ)を葬送曲と書きましたが、『Hiroshima』でカップリングされた「Hiroshima」はタイトル通りずばり原爆投下40周年を意識した鎮魂歌でもあり、「Nuclear War」を継承した告発曲でもあるでしょう。変ロ短調、つまり鍵盤楽器で言えば黒鍵のペンタトニック音階で奏でられる、ジャズではもっとも多く用いられる調でもあり、平均律で表すことのできる音階ではもっともジャズの基盤でもあるブルース音階に近い音階でもあります。アーケストラの演奏は最小限にサン・ラのパイプオルガン演奏のバックアップに始終しており、実質的に無伴奏ソロ・オルガン曲として演奏されているとも言えます。『Hiroshima』『Outer Reach Intensity-Energy』の2作に収録されているサン・ラ・アーケストラの新曲はいずれも日付と演奏場所が特定できないライヴ・ヴァージョンであり、やはり「Unidentified Title」としてライヴ演奏された楽曲からアルバム収録の水準に達したテイクにタイトルをつけてまとめられたものでしょう。たとえば「Hiroshima」は1985年に発売されるに当たって原爆投下40周年にちなんでタイトルがつけられたと思われますが、1985年にサン・ラは71歳で、すでにパート練習はサン・ラ没後にアーケストラのリーダーを継ぐマーシャル・アレンに任されていたと思われます。アルバムの選曲・編集もアレンやギルモアなど中心メンバーが行い、サン・ラが最終決定するという具合だったでしょう。『Hiroshima』『Outer Reach Intensity-Energy』の2作のアーケストラのライヴ曲は一定のムードの統一感があり、「Hiroshima」と『Outer Reach Intensity-Energy』A面の5曲はいずれも沈鬱なムードとサン・ラのオルガン使用で一貫しています。『Outer Reach Intensity-Energy』A面は短い曲ばかりなのもありますがソロ・スペースがサン・ラとフィーチャリング・ソロイストだけに限られ、バンド全体が所々、または全編にモヤッとしたアンサンブルでアクセントをつけており、A1「Outer Reach Intensity-Energy」はサン・ラとジョン・ギルモアのデュオにバンドのアンサンブルが重なる演奏ですし、A2「Cosmos Rendezvous」はサン・ラとトランペットのマイケル・レイがソロイストです。A3「Barbizon」は微妙にテンポとピッチをずらしたテーマのみの反復でマイルス・デイヴィスの「Nefertiti」を思わせます。アーケストラにマイルスのアルバムを聴いていないメンバーなどいなかったでしょうが、サン・ラがマイルスからインスピレーションを得たとは思えないので、このアレンジはサン・ラにテーマとムードの設定を与えられたメンバーたちが試行錯誤しているうちに偶然「Nefertiti」に似たアンサンブル手法にたどり着いたものと思われます。A4「The Double That...」はサン・ラのオルガンとベース、パーカッション陣のみによる曲で、A5「The Ever Is...」はサン・ラのオルガンからアルコ・ベース、トランペット、サックスと徐々に楽器が増えていくアンサンブルにいかにもLPフォームでのA面最終曲らしい選曲・配曲の妙が感じられます。『Outer Reach Intensity-Energy』B面全面の「Stars that Shine Darkly Part 2」は実質的にオールスターズ版「The Shadow World」ですから、アルバム構成としても良く出来ています。『Stars that Shine Darkly』『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』と『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』の3作は『Stars that Shine Darkly』が1985年の初回プレスのみ、『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』が1985年に追加プレス4ヴァージョンがリリースされたのみで、『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』だけがArt Yard社から2008年にアナログLP復刻されているだけの稀少盤になっており、ハーフ・オフィシャルのブート再発でしかこの3作を入手できませんが、サン・ラ'80年代半ばの傑作ライヴと言うべき充実した内容を誇ります。Art Yard社が『Hiroshima (Stars that Shine Darkly, Vol.1)』と『Outer Reach Intensity-Energy (Stars that Shine Darkly, vol. 2)』を2枚組CDで再発されるのが望まれます。また1993年のサン・ラの逝去まで10年を切った晩年作品の皮切りとして、この連作ライヴはサン・ラのキャリアの里程標的作品と見なせる重要作でもあります。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)