サン・ラ - ラァ・トゥ・ザ・レスキュー (El Saturn, 1983) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ラァ・トゥ・ザ・レスキュー (El Saturn, 1983)
(Reissued Enterplanetary Koncepts Front Cover)
サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - ラァ・トゥ・ザ・レスキュー Ra to the Rescue (El Saturn, 1983) (Reissued CD Version) :  

Originally Released by El Saturn Records Saturn IX/1983-220, 1983. Also Reissued as "When Spaceships Appear", "Cosmo-Party Blues" and "Children of the Sun", around 1985.
DD File Reissued by Enterplanetary Koncepts, Cosmic Myth Music SATURN 1983-­220, May 3, 2015
All composed and arranged by Sun Ra
(Reissued DD File Tracklist)
1. Mystery, Mr. Ra (Previously Unreleased) - 3:07
2. When Spaceships Appear (Ra to the Rescue, Ch. 1) - 5:21
3. Back Alley Blues (a.k.a. Fragile Emotion Blues) - 3:49
4. Drummerlistics - 2:49
5. Children of the Sun - 4:29
6. Cosmo-Party Blues - 4:39
7. Space Shuttle (Ra to the Rescue, Ch. 2) - 4:18
8. Fate in a Pleasant Mood - 8:43
9. They Plan to Leave - 6:08
10. When Lights are Dark (a.k.a. Back Alley Blues) - 4:37
[ Original El Saturn LP Tracklist ]
(Side A)
A1. Ra to the Rescue (Chapter 1) - 5:21
A2. Ra to the Rescue (Chapter 2) - 4:18
A3. Fate in a Pleasant Mood - 8:43
(Side B)
B1. When Lights are Dark - 4:37
B2. They Plan to Leave - 6:08
B3. Back Alley Blues - 3:49
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - piano, synthesizer, vocal
Marshall Allen - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone, vocal
Danny Ray Thompson (prob.) - baritone saxophone, flute
June Tyson - vocal
Hayes Burnett (prob.) - bass
Eric "Samurai Celestial" Walker (posib.) - drums
unknown - percussion 

(Original El Saturn "Ra To the Rescue" LP Liner Cover & Side A/B Label)

 前3回に渡ってご紹介した1982年9月セッションによる『A Fireside Chat with Lucifer』『Celestial Love』『Nuclear War』はサン・ラ・アーケストラ自身の自主制作レーベル、エル・サターン・レコーズからの最後のスタジオ録音アルバムでしたが、まだライヴ音源のリリースは続きます。本作は1980年にも『Voice of the Eternal Tomorrow (The Rose Hue Mansions of the Sun)』『Dance of Innocent Passion』のライヴ盤2作の会場になったニューヨークのハンガリー難民によるコミュニティ施設、スクワッド・シアターでのライヴ収録ですが、『Voice of~』が22人編成、『Dance of~』が18人編成だったのに較べるとヴォーカル、パーカッションの2名を含めて8人編成、実質6人のスモール・コンボ(3サックス、鍵盤、ベース、ドラムス)によるコアな編成になっています。1983年発売のオリジナルLPに収められたのはA面3曲・B面3曲の計6曲。これが2015年の配信再発売では10曲に増補されているのは、1985年に『When Spaceships Appear』『Cosmo-Party Blues』『Children of the Sun』と3枚新作として出されたアルバムがいずれも本作『Ra To the Rescue』から数曲オミットして未発表テイクを足した改題再編集再発売盤であり、『Ra To The Rescue』未収録のそれらの曲(と追加1曲)を合わせると再発ヴァージョンの全10曲になるのです。

 だったら『Ra To The Rescue』に未収録だったTk.1, 4, 5, 6(1のみ再発売で初発表)に別会場のテイクでもいいからライヴ録音を足してすっきり別のもう1枚にまとめれば済む話ではないか、何も本作と『When Spaceships Appear』『Cosmo-Party Blues』『Children of the Sun』のアルバム4枚に重複分散して発表しなくても、と思いますがそこがいつものサターン商法で、アルバムを変えると曲名まで変更して別内容に見せかけており、マニアの収集欲を突いた編集盤にしているのがあっぱれです。オリジナルLPフォームのソングオーダーは併記した通りですが、オリジナルLPフォームの『Ra To the Rescue』は選曲、配曲ともに優れたアルバムであり、『Voice of~』『Dance of~』の大作感に較べると小粒なアルバムとはいえ、このこぢんまりしたアンサンブルが親しみやすい好ライヴ盤として肩の力の抜けた良いアルバムになっています。その点では全10曲の再発CDの網羅的選曲よりもオリジナル『Ra To the Rescue』6曲の構成の方に分があるかもしれません。また本作はスタジオ盤『A Fireside~』『Celestial Love』『Nuclear War』三部作より後の録音と推定されますが、発売はスタジオ盤三部作より先になったものです。

 そこで本作のご紹介もオリジナルLP『Ra To the Rescue』の選曲・曲順に沿って見ていきたいと思います。A1「Ra to the Rescue (Chapter 1)」とA2「Ra to the Rescue (Chapter 2)」はサン・ラのシンセサイザーとマーシャル・アレンのアルトサックスの無伴奏即興ソロが炸裂するフリー・ジャズで、アレンはテナーのギルモア、バリトンのパット・パトリックとともにアーケストラ創立以来の不動のレギュラー・メンバーですが、アーケストラのソロイスト順位はサン・ラとギルモア、次いで第2アルトのダニー・デイヴィスやパトリックの後任トンプソンの場合が多く、アレンとパトリックはアンサンブルの要だった分ソロイストに抜擢される機会が少なかったのです。本作の爆発的なアレンの無伴奏ソロを聴くと実力のほどがうかがわれ、アレンに応えてサン・ラのシンセサイザーも過激を極めます。アーケストラの真価は60年代からの代表曲A3「Fate in a Pleasant Mood」によく表れており、ピアノ・トリオでスタンダード曲「思い出のたね (These Foolish Things)」を連想させられるテーマとソロが奏でられてから3サックスだけのホーン・セクションのアンサンブルになる展開は、鍵盤、ベース、ドラムスとの一体感によって5トランペット、4トロンボーン、4サックスの標準ビッグバンドのホーン・セクションに匹敵するサウンドになっています。なお本作のタイトルは『ラァ・トゥ・ザ・レスキュー』としましたが、本来Sun Ra(太陽王)は語尾上がりの「サン・ラァ」がカタカナ表記では実音に近く、日本では初紹介時からサン・ラで生前まではサン・ラ、没後には「サン・ラ」と「サン・ラー」という表記が混在しています。「サン・ラー」の方が原音表記に近いとも言えますが、その場合原綴が「Sun Rah」と誤解される懸念が生じます。このブログでは旧来定着している慣習的表記「サン・ラ」を原綴に近い点から採用していますが、「Ra」(王)とだけ略称される場合は「ラー」よりも「ラァ」の方が原音表記に近いので、本作の場合は「ラァ・トゥ・ザ・レスキュー」と表記しました。外国語固有名詞のカタカナ表記にはなるべく原綴を反映すべきという約束事があり、「サン・ラ」と「サン・ラー」の二通りの表記が行われていてどちらかに統一されないのは、「Ra」とだけ略称される場合は「ラァ」とカタカナ表記するのが妥当なだけに厄介です。

 さて、B面に移るとスタンダード「When Lights are Low」をもじったB1「When Lights are Dark」はリー・モーガンの「Sidewinder」を思わせるテーマの快調な8ビート・ブルースで、B2の美しいヴォーカル・コーラス曲「They Plan to Leave」に橋渡しされ、ピアノ・トリオによるアーシーなブルースのB3「Back Alley Blues」でアルバムは締めくくられます。本作はフリーに始まりビッグバンドに終わるA面、ブルース2曲にヴォーカル曲が挟まれたB面という構成で、特にこのアルバムの価値を高めているのは6/8拍子のミディアム・テンポの幽玄なヴォーカル・コーラス曲B2「They Plan to Leave」です。この曲は発掘ライヴ盤によってこの時期からコンサートの定番曲になっていたことが判明しますが、サン・ラ生前のアーケストラのアルバムではスタジオ・ヴァージョンはおろか本作に収められたこのライヴ・ヴァージョンが同曲の聴ける唯一のレコーディングでした。「Space Is the Place」と唱えるサン・ラが「Nuclear War」に直面すれば「They Plan to Leave」(aka "We plan to leave from here")となるのもごもっともで、曲調にもその悲哀がにじみ出ているような本作のハイライト・トラックです。試聴リンクは現行の10曲構成の再発売ヴァージョンですが、オリジナルLPフォームの選曲・曲順の方がさらに完成度の高い佳作と言える所存です。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)