サン・ラ- ニュークリア・ウォー (El Saturn/Y Records, 1984) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ- ニュークリア・ウォー (El Saturn/Y Records, 1984)
サン・ラ Sun Ra and his Outer Space Arkestra - ニュークリア・ウォー Nuclear War (El Saturn/Y Records, 1984) :  

Recorded at Variety Recording Studios, New York, September 1982.
Released by Music-Box Records SMB 40242 (Greece, LP and cassette, 1984), Y Records Y RA 2 (Italy, LP, 1984), El Saturn Records Saturn 1984-A/1984-C (US, LP, 1983 as "Nuclear War/Celestial Love")
All composed and arranged by Sun Ra except as credited.
[ On Music-Box & Y Records LP Song Order]
(Side A)
A1. Nuclear War - 7:44
A2. Retrospect - 5:42
A3. Drop Me Off in Harlem (Ellington) - 5:04
A4. Sometimes I'm Happy (Caesar-Youmans) - 4:28
(Side B)
B1. Celestial Love - 5:31
B2. Blue Intensity - 5:17
B3. Nameless One #2 - 4:01
B4. Smile (Chaplin) - 4:23
[ On El Saturn LP "Nuclear War/Celestial Love" Song Order]
(Side A)
A1. Nuclear War - 7:44
A2. Retrospect - 5:42
A3. Makeup - 4:56
(Side B)
B1. Celestial Love - 5:31
B2. Sometimes I'm Happy (Caesar-Youmans) - 4:28
B3. Interstellarism - 6:15
B4. Blue Intensity - 5:17
[ Sun Ra and his Outer Space Arkestra ]
Sun Ra - piano, keyboard, organ
Walter Miller - trumpet
Tyrone Hill - trombone
Vincent Chancey - french horn
Marshall Allen - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
James Jacson - basoon, percussion
Hayes Burnett or John Ore - bass (pos.)
Eric Walker - drums (prob.)
Atakatune (Stanley Morgan) - conga
June Tyson - voc on Smile & Sometimes I'm Happy.  

(Alternate El Saturn "Nuclear War" LP Front Cover, Original Y Records Liner & Lato A Label)

 このアルバムについては前々回、前回の『A Fireside Chat with Lucifer』と『Celestial Love』と1曲を除き全曲が重複しています。ギリシャ盤・イタリア盤『Nuclear War』はA面に『A Fireside~』のA1, A2を順番通りに置き、A3はオリジナル盤では唯一このアルバムにしか含まれないエリントン曲のカヴァー「Drop Me Off in Harlem」(もっともこの曲も現行版再発売版『Celestial Love』にボーナス収録されました)で、A4とB面4曲の計5曲は『Celestial Love』の全8曲から「Interstellarism (Insterstellar Low Ways)」「Sophisticated Lady」と「Nameless One #3」を割愛した5曲から曲順を変えて収録しています。サターン盤の『Nuclear War/Celestial Love』に至ってはもっと安直で、A面は『A Fireside~』A面そのまま、B面は『Celestial Love』B面そのままです。ここで引いたリンクはギリシャ・イタリア盤『Nuclear War』の方です。A3「Drop Me Off in Harlem」にしか存在価値がないアルバムかといえばそうとも言えず、アルバム『A Fireside Chat with Lucifer』はタイトル曲こそがハイライトなので、「Nuclear War」をアルバム・タイトル曲に格上げして『Celestial Love』からのセレクト曲で密度の高いアルバムに構成し直した本作には編集盤ならではの工夫があります。ストーンズ1967年のアメリカ独自編集盤『Flowers』みたいなものです。またサターン側としては自社の国内盤は事実上『A Fireside~』と『Celestial Love』を半々にカップリングしたアルバムで良しとしても、国際盤『Nuclear War』はギリシャのミュージック・ボックス、イタリアのYレコーズ側で独自編集の強力なアルバムにしたかった、という意図があったのでしょう。サン・ラは当初これら11曲・3作分の「Nuclear War」セッションをメジャーのCBSコロンビアに売りこんだものの、コロンビアから拒否されたため自社のサターンからの発売になったと伝えられます。サン・ラは「Nuclear War」をアルバムの中心トラックと考えていたため、もしコロンビアから発売されていたら『A Fireside Chat with Lucifer』と『Celestial Love』はアルバム『Nuclear War』のアウトテイク集として異なる編集・選曲で発売されていたでしょうし、おそらくサン・ラがコロンビアに持ちこんだ時のアルバム選曲も本作とは異なった『Nuclear War』だったろうと思われます。

 現行CDもギリシャ・イタリア盤『Nuclear War』の選曲で再発売されていますからこのアルバムについてはこれで良いのですが、すると『A Fireside~』と『Celestial Love』の立つ瀬がなくなります。特に『A Fireside Chat with Lucifer』はB面全面21分を費やしたタイトル曲が聴きものですから、オープニング曲「Nuclear War」を持って行かれてアルバム『A Fireside~』そのものが消滅してしまうのでは大きな損失です。一方「Nuclear War」はサン・ラのオリジナル曲でもここまでストレートな核戦争反対のメッセージ・ソングは珍しいのですが、キャッチーな魅力では「Rocket Number Nine」「Space is The Place」にも匹敵するポップかつアーケストラらしさを湛えたヴォーカル曲で、しかもかつ先行シングル発売もされ完成度も高いため再録音の必要もなく、これをそのままタイトル曲に格上げした再編集アルバムを出したいというアイディアも自然に上がってきたのでしょう。実際A面4曲、B面4曲とコンパクトにまとまり、かつ曲数の多さにヴォリューム感もあり魅力的なヴォーカル曲もフィーチャーしたアルバム『Nuclear War』は、ジャズのジャンル以外のリスナーにも聴きやすく広くアピールする構成の作品になっています。A面3曲、B面1曲の『A Fireside Chat with Lucifer』はサン・ラの、またはフリー・ジャズのリスナー以外にはとっつき難い構成のアルバムでしょうし、メインストリーム・ジャズ系のアルバムとはいえ『Celestial Love』もジャズのリスナーに向けたアルバムです。ともあれ、発掘アルバムを別にすれば本作の1982年9月セッションはサン・ラ・アーケストラ最後のスタジオ録音のサターン盤となり、次作以降のアーケストラのスタジオ盤の新作は世界各国の見識あるインディー、またメジャー・レーベルに録音され、リリースされることになるのです。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)