サン・ラ - チェレスティアル・ラヴ (El Saturn, 1983) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - チェレスティアル・ラヴ (El Saturn, 1983)
(Reissued Enterplanetary Koncepts Front Cover)
サン・ラ Sun Ra and his Outer Space Arkestra - チェレスティアル・ラヴ Celestial Love (El Saturn, 1983) 

Released by El Saturn Records Saturn Gemini 19842; C/D 1984SG-9, 1983
Reissued by 
Enterplanetary Koncepts, Cosmic Myth Music SATURN 19842, 2015
All composed and arranged by Sun Ra except as noted.
(Side A)
A1. Celestial Love - 5:32
A2. Sometimes I'm Happy (Caesar-Youmans) - 4:28
A3. Interstellarism (Insterstellar Low Ways) - 6:15
A4. Blue Intensity - 5:17
(Side B)
B1. Sophisticated Lady (Carney-Ellington) - 7:30
B2. Nameless One #2 - 4:10
B3. Nameless One #3 - 5:44
B4. Smile (Chaplin) - 4:23
(Reissued Bonus track)
9. Drop Me Off in Harlem - 5:04
[ Sun Ra and his Outer Space Arkestra ]
Sun Ra - piano, keyboard, organ
Walter Miller - trumpet
Tyrone Hill - trombone
Vincent Chancey - french horn
Marshall Allen - alto saxophone, flute
John Gilmore - tenor saxophone
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
James Jacson - basoon, percussion
Hayes Burnett or John Ore - bass (pos.)
Eric Walker - drums (prob.)
Atakatune (Stanley Morgan) - conga
June Tyson - vocal on Smile & Sometimes I'm Happy.  

(Original El Saturn "Celestial Love" LP Handmade Front Cover, Liner Cover & Side A Label)

 本作は前回ご紹介した『A Fireside Chat with Lucifer』と双子のような、というより本来2枚組アルバムとして構想されたようなアルバムです。ともに1982年9月セッションからのスタジオ録音で、『A Fireside Chat with Lucifer』のレコード番号は19841; A/Bなら本作は19842; C/Dですから、1984年度アルバム1枚目のA/B面、2枚目のC/D面、という意味にとっていいでしょう。実際には『A Fireside~』も本作も1983年に発売されたことが確認されていますが、1984年というのはジョージ・オーウェルの同名小説(1948年刊。オーウェルはこの未来小説の設定を48をひっくり返して84年としました)で全世界が全体主義国家化する年、と仮定した年度ですので、'80年代前半には象徴的意味を持っていたのです。ですがサン・ラのことですからオーウェルから取ったとは限りません。本当に1984年発売の予定だったのかもしれませんし、メジャー・レーベルでも公式リリース日の記録月日よりおおよそ1か月先に実売されているのが普通です。年末年始にかかれば1984年の奥付のものが1983年中に発売されていてもおかしくなく、ライヴ会場の手売りと通信販売が販路のほとんどだったサターン盤の場合、1984年としながらプレス分はできた先からさっさと売っていたでしょうし、3か月~半年の奥付違いなど意にも介さなかったに違いありません。これを日本語でどんぶり勘定というと正しくないのは、土星人を称するサン・ラはアメリカ政府に税金などほとんど払わなかったという証言にも基づきます。いつの奥付のものをいつ売ろうが税金など払う気はない以上正確な発売日など記録する必要はないわけです。

 そんなわけで『A Fireside Chat with Lucifer』はレコード1のA/B面、本作はレコード2のC/D面というのがレコード番号上からうかがえるデータですが、アルバムの性格上やはりこれは2枚別々のコンセプトのあるアルバムでした。『A Fireside~』は「Nuclear War」から始まりB面全面のアルバム・タイトル曲で終わる「核戦争クソったれ(Motherfucker)アルバム」であり、本作はスタンダードとオリジナル・ブルースを集めた軽みが持ち味のストレート・ジャズ・アルバムで、これを2枚組にするとコンセプトは霧消してしまうでしょう。好みによりけりですが、明確なコンセプトを持つ点で『A Fireside~』と本作はともにまとまりの良い、ひさしぶりのスタジオ録音アルバムらしい力の入った完成度の高いアルバムになっています。しかもこの1982年9月セッションはサターン盤のための最後のスタジオ録音になり、この後1993年のサン・ラの逝去までサターン盤の新録音はなく、すべて他社のレーベルから発売されることになります。これはこの時点で予定されていたことかどうかわかりませんが、それだけ外部からのサン・ラ・アーケストラの新作依頼と販路が広がっていったということでもあります。また音楽的自由を保証されているのであれば手間のかかる自主制作のサターン盤より外部レーベルに販路を任せた方がバンド側の負担もなくなります。サン・ラ・アーケストラのデビュー・シングルは1955年、アルバム・デビューは1956年ですから、25年以上かけてようやく自主制作バンドから完全に脱し得たことになります。思えば長い道のりだったと言えるでしょう。

 これが最後のサターン盤セッションらしく『A Fireside Chat with Lucifer』、本作、『Nuclear War』の3作はいずれもサターン盤らしからぬまともなジャケットで発売されました。ただしLP時代の自主制作盤はLPそのものと同じくらいジャケットの制作実費の原価がかさんだので、従来のサターン盤が見本盤用ジャケットに紙を貼っただけ、メンバーみずからマジックペンで着色しただけ、あるいはレーベル面くり抜きジャケットにLPを収めただけだったのはジャケット制作費がなかったからです。本作もLP盤の枚数よりジャケット制作枚数の方が少なかったらしく、マジックペン着色ジャケットも存在します。ちなみにLPレコード中央のレーベル部分は通常プレス段階で接着されますが、サターン盤はレーベル費用も惜しんだのか別紙印刷のレーベルをメンバーやスタッフ、協力者一堂でLP盤に貼りつけたものも多く、A面とB面を貼り間違えたものも多く存在します。レーベル自体にAB面の記載がないものも多く、マニアによってデータの整理された現在だからこそ信用できるデータを参照してアルバムを聴けますが、昔のサターン盤はひょっとしたらレーベルとLP内容とジャケットがどれも間違っている場合すらあったのです。さらに同一内容のアルバムを4種類の別タイトルで売り出したりするのもサターン盤の手口であり、これらをすべて収集してデータをまとめたマニアの情熱には平身低頭しないではいられません。

 本作収録曲中スタンダード曲はビバップのジャズマンの愛奏曲のA2「Sometimes I'm Happy」のジューン・タイソンによるヴォーカル・ヴァージョン(シングル「Nuclear War」B面にも収録)とアメリカの結婚式の定番曲デューク・エリントンのB1「Sophisticated Lady」、チャールズ・チャップリンの映画『Modern Times』1936の挿入歌B4「Smile」で、A2とB4はジューン・タイソンのヴォーカルで聴かせます。また A3「Interstellarism (Insterstellar Low Ways)」は'50年代の代表曲の改題再演です。「Smile」のホーン・バッキングのリハーモナイズ、オーソドックスなテナー・ソロは正統派ジャズ・バンドとしてのアーケストラの実力を示すもので、アルバムのクロージング・ナンバーに相応しいムードが漂います。アルバム・タイトル曲「Celestial Love」はメインストリームに限りなく近いフリー・ジャズで、聴き流せばフリー・ジャズと意識する人は少ないのではないかと思われるくらいこなれた演奏です。マーシャル・アレンはジョン・ギルモアとともに最古参メンバーにもかかわらずメイン・ソロイストのギルモアほどソロは取らせてもらえずホーン・セクションのリーダー役の責の方が大きいようですが、珍しく「Celestial Love」では素っ頓狂なソロで楽しませてくれます。本作と前作『A Fireside~』については次作『Nuclear War』でまた触れる機会があるでしょう。なお本作の公式再発盤はアナログLPのB3「Nameless One #3」が本編から外され、未発表曲の「Drop Me Off in Harlem」とともに巻末のボーナス・トラック扱いになっています。これもサターン盤ならではの混乱と言えるでしょう。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)