ザ・カーズ - フランス・ライヴ1978 (TV Broadcast, 1978) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

ザ・カーズ - フランス・ライヴ1978 (TV Broadcast, 1978)
Shooted at Empire Theatre for French TV, November 27, 1978
(Tracklist)
1. Good Times Roll 00:00~
2. Bye-Bye Love 03:50~
3. Best Friend‘s Girl 08:04~
Total Time: 12:04
[ The Cars ]
Ric Ocasek - vocals, rhythm guitar
Elliot Easton - lead guitar, backing vocals
Benjamin Orr - vocals, bass
David Robinson - drums, percussion, Syndrums, backing vocals
Greg Hawkes - keyboards, percussion, saxophone, backing vocals

 マサチューセッツ州ボストンで1976年に結成されたザ・カーズは1978年6月にワーナー傘下の老舗レーベル、エレクトラから『錯乱のドライヴ/カーズ登場 (The Cars)』で鮮やかなデビューを飾りました。プロデュースはクイーンをデビュー作から‘70年代いっぱいまで手がけていたイギリス人プロデューサー、ロイ・トーマス・ベイカーで、よくこれまで毛色の違ったバンドを見事にプロデュースしたものです。アルバムは全米18位・全英29位が最高位でしたが全米年間チャートでは4位になり、現在まで600万枚のロングセラーとなっています。第1弾シングル・カットの「燃える欲望 (Just What I Needed)」は全米27位・全英17位でしたが、第2弾シングルの「ベスト・フレンズ・ガール (My Best Friend's Girl)」は全米35位ながら全英3位となり、第3弾シングルの「Good Times Roll」は全米41位とトップ40圏外ながらアルバムのロングセラーに貢献しました。収録曲全9曲はいずれもカーズの代表曲となり、2024年4月16日には「全米録音資料登録簿」に永久保存される音楽作品として登録されることになりました。
 1979年6月に発表された次作『キャンディ・オーに捧ぐ (Candy-O)』はさらにチャート成績を上げ、全米3位・全英30位のヒット作となり、シングル・カット3枚もヒットしましたが、全米年間チャートでは32位、現在までの通算売り上げ400万枚と、これからカーズを聴くリスナーはまずデビュー作、次いで特大ヒット曲「drive」(全米3位)、「you might think」(全米7位)を含む1984年の『ハートビート・シティ (Heartbeat City)』(全米3位)を買う、というのが、全アルバムのトータル売り上げからもわかります。ヴァン・ヘイレンの場合も全アルバム中トータル売り上げは1978年のデビュー・アルバムが最大(1000万枚)、次いで全米No.1ヒット「Jump」他3曲のヒット曲を含んだ1983年末の『1984』(全米2位、トータル1000万枚)というのと似ています。
 カーズはイギリスのニュー・ウェイヴに呼応したアメリカのニュー・ウェイヴ・バンドとして売り出されましたが、デビュー作当時すでにメンバーの平均年齢が29歳だったように、最初から醒めた非マッチョ的なバンドでした。一言で言えば汗くさくないロックです。音楽的な立ち位置ではロキシー・ミュージックに近いのですが、ロキシーのような頽廃感は微塵もありません。歌詞のテーマは他愛ないラヴ・ソング、バンド名に絡めたカー・ドライヴと女の子とのデートくらいしか歌いませんが、全曲の作詞作曲を務めるリーダーのリック・オケイセックのセンスにメンバー全員が強い団結力で応えており、演奏は非常に安定感があって上手く、声質の似たオケイセックとベンジャミン・オールが持ち味を生かしてリード・ヴォーカルを分けあっているのも魅力で、ストレートなロック曲や抒情的な曲は張りと色艶のある唱法のオール、やや屈折した曲やユーモラスな曲はくねくねした唱法のオケイセックと、二人のリード・ヴォーカリストがいるのも強みでした。
 カーズはメンバー不動のまま約10年の活動後6枚のアルバムを残して解散し、ベンジャミン・オールが2000年に53歳で逝去したのち、プロデューサーに転向していたオケイセックを除く3人(倉木麻衣など、スタジオ・ミュージシャンとして活動していました)がトッド・ラングレンを迎えて「New Cars」としてライヴ活動をしていましたが、2011年にはオケイセックが復帰、故人のオールを除くオリジナル・メンバーでインディー・レーベルから通算7作目の『Move Like This』をリリースしましたが、オールの不在は大きく往年のファンの期待に届かない出来に終わりました。カーズは地道にライヴ活動を続け(オールのリード・ヴォーカル曲もオケイセックが歌いました)、2018年にはロックの殿堂入りしましたが、リック・オケイセック(1944年生まれ)は2019年9月に75歳で逝去、完全にカーズの活動はピリオドを打たれました。オケイセックの生前にロックの殿堂入りがかなったのはせめてもの慰めだったと思います。
 今回引いたのはデビュー・アルバム発表後のプロモーション・ツアー中のフランス公演からの映像ですが、元モンキーズのマイク・ネスミスも絶賛した、デビュー・アルバムのハイライト曲にして、うちシングル・カット曲が2曲、スタジオ盤の再現にとどまらない生きいきとした演奏が観られます。カーズの音楽は革新的でも画期的でもありませんが、本当に良いロック・バンドだったなと思わずにはいられません。