サン・ラ - オブリーク・パララックス (El Saturn, 1982) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - オブリーク・パララックス (El Saturn, 1982)
(Reissued Enterplanetary Koncepts Front Cover)(Art Yard "Detroit Jazz Center 1980" Front Cover)サン・ラ Sun Ra and his Arkestra - オブリーク・パララックス Oblique Parallax (Journey Stars Beyond) (El Saturn, 1982) :  

Recorded live at unknown location, possibly December 1980. Possibly A3 recorded live at Jazz Center Detroit, December 26-31, 1980. The middle section of Side B has a cameo appearance by the Arkestra, Jazz Center Detroit, July 28, 1981
Released by El Saturn Records Saturn IX SR 72881, 1982
Compiled Reissued by Art Yard CD 005, with "Beyond the Purple Star Zone" as "Detroit Jazz Center 1980", 2010
Reissued by Enterplanetary Koncepts, 4 x File, FLAC, 2015
All composed and arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Oblique Parallax - 2:34
A2. Vista Omniverse - 4:43
A3. Celestial Realms - 4:50
(Side B)
B1. Journey Stars Beyond - 13:13
[ Sun Ra and his Arkestra ]
Sun Ra - organ and synthesizer
Vincent Chancey - french horn (Track A3 & Side B only)
Eric "Samarai Celestial" Walker - drums  (Track A3 & Side B only)
Tony Bethel - trombone (Side B only)
Tyrone Hill - trombone (Side B only)
Marshall Allen - alto saxophone (Side B only)
John Gilmore - tenor saxophone (Side B only)
Danny Ray Thompson - baritone saxophone (Side B only)
Eloe Omoe - bass clarinet (Side B only)
Hayes Burnett - bass (Side B only) 

(Various El Saturn "Oblique Parallax" LP Handmade Drawing Front Covers & Labels)

 今回でサン・ラのアルバム紹介も107回目、アルバム枚数にすれば130枚を越えます。今回のアルバムは1980年12月収録ですが1980年だけですでに7作目、AB面合わせて全編25分20秒の短いライヴ盤で、先にご紹介したアルバム『Beyond the Purple Star Zone』と収録時・コンセプトとも対をなすアルバムですが、本作もサン・ラの怪物性を余すことなく伝える傑作です。自主レーベルのサターン盤の例によってアルバム・ジャケットやレーベル・デザインは一定しておらず、まとめて代表的な異版ジャケットを載せました。アルバムの性格としては完全にサン・ラのオルガンとシンセサイザーを主役にしたアルバムです。少なくとも3回のライヴから抜粋編集されたものと推定され、A1とA2はサン・ラのソロ・インプロヴィゼーションです。A3はフレンチホルンとドラムスが加わってB面全面を占める「Journey Stars Beyond」の前奏をなす曲、そしてB面「Journey Stars Beyond」では2トロンボーン、3サックス、1クラリネット、ベースが加わり、8分目からは再びサン・ラのソロ・インプロヴィゼーションが始まりアルバムの最後まで続きます。A1、A2はソロによるメドレーなのでこれを(1)とすると、トリオ演奏のA3は(2)、B面の大曲は10人編成の前半8分を(3)、ソロになる後半5分を(4)と見なせます。この4パートのうち(2)は以前ご紹介した『Beyond the Purple Star Zone』と同じ1980年12月末のデトロイト・ジャズ・センターの一週間連続公演からの抜粋と推定され、(3)は1981年7月28日に再び行われたデトロイト・ジャズ・センター公演からのもの、とされています。出処不明なのはサン・ラのソロ・インプロヴィゼーション(1)と(4)で、同日か別公演かはわかりません。アルバム発表が1982年のため(2)と(3)のどちらに近い時期か特定できませんが、1980年のスクワッド・シアター公演や同年末のデトロイト・ジャズ・センター一週間公演と近い演奏なのでおそらく1980年12月の、デトロイト公演(12月26日~1981年1月1日、1日2回公演)直前と推定されています。つまり本作はライヴ音源を元に作品性を重視して編集されており、単純なライヴ・アルバムではないということです。

 1980年12月12月26日~1981年1月1日公演の全貌はTransparency社の発掘盤ボックス・セット『The Complete Detroit Jazz Center Residency』が2007年に28枚組(!)CD-R・限定500セットでリリースされていますが、さすがにこれは気軽にお薦めできません。MP3-ディスクまたはUSBメモリーでの再リリースを望みたいと思います。同レーベルからはCD2枚組のダイジェスト盤『Gods Private Eye, Live 1980』が先行発売されていますが2000年発売、400セット限定とこれも入手困難で、一般的にはデトロイト・ジャズ・センター公演はArt Yard社からサン・ラ生前リリースの2作『Beyond the Purple Star Zone』と本作をカップリングし15分近い未発表曲を追加した1CD『Detroit Jazz Center』2010を優先・重視すべきでしょう。ちなみにキング・クリムゾンは2013年に自主レーベル、ディシプリン・グローバル・モービルから21枚組CD+3枚組Blu-rayオーディオの24枚組『The Road To Red』をリリースしましたが、スタジオ盤『Red』と1974年4月28日~7月1日の20公演の収録ながら、固定セットリストで1公演が1時間強と、1日に2回2時間以上のライヴ、しかもセット・リストは毎回変更、という1980年末のサン・ラ・アーケストラの一週間公演には到底太刀打ちできない内容で、1965年から1995年のライヴを1年1公演ずつ収録したグレイトフル・デッドのCD80枚組(!)『30 Trips Around the Sun』2015というライヴ・ヒストリー的なものはともかく、おそらくロックでは(ジャズでも)サン・ラの記録を破る連続公演の集大成ライヴは今後も出ないのではないかと思われます。

 本作『Oblique Parallax』はAB面全編で1曲と見なしてもいいもので、合計収録時間が短いのもそのためでしょう。ただしLP片面に収めるには長いので、AB面に分割されて編集・発表されたものと思われます。サン・ラのソロ・インプロヴィゼーションに始まってトリオ、テンテットと編成が拡大し、再びサン・ラのソロ・インプロヴィゼーションで締めくくられる構成です。これはアーケストラ1969年発表の傑作『Atlantis』のB面全面を占めるタイトル曲「Atlantis」(1967年録音)の構成に似ており、エンディングの大爆発まで似ています。ただし「Atlantis」はオラトゥンジ黒人文化センターの特別公演ですし、サン・ラもシンセサイザー使用前でした。今回のB面は凄まじいことになっています。A面1、2のソロ・インプロヴィゼーションではシークエンサー機能を使って比較的整然としたシンセサイザーとオルガンの同時ソロを披露していますが、B面ラストの5分間のシンセサイザーとオルガンは完全な爆音ノイズ・ミュージックです。シンセサイザーとオルガンのみによるものではなくアンプのフィードバック・ノイズまで計算したプレイで、ジミ・ヘンドリックスやリッチー・ブラックモアのギター・クラッシュ以上のノイズの洪水をシンセサイザーとオルガンから引き出しています。キーボード奏者でこれに近い演奏を披露していたのは往年のキース・エマーソンとマリアン・ヴァルガ(コレギウム・ムジカム)くらいで、キースもジミのギター・フィードバックにキーボードで肉迫しようとしたプレイでしたが、ジミもキースもリッチーもその発想はショーマンシップによるものでした(チェコのヴァルガはやや違いますが)。音楽的な意図によるフィードバック・ノイズはキング・クリムゾン1972年のライヴ・アルバム『Earthbound』のエンディング部分にもありましたが、サン・ラの本作もこの爆音は完全に音楽的な必然に基づいたものです。ミキサー卓、またはスタジオ・ミキシング段階のフィードバック加工かもしれませんが、少なくとも3公演からの入念な編集による本作は爆音で終わるノイズ組曲として見事な作品性を備えたアルバムになりました。これもジャズです。しかもこの、売る気あるのかと疑問が浮かぶようなオリジナルLPジャケット(1974年の旧作『Sub Underground 』からの使い回しジャケットまで使用し、1982年中に8回の追加プレスが確認されています)です。現行盤はArt Yard社からの『Detroit Jazz Center 1980』とバンド直営のEnterplanetary Konceptsによるダウンロード販売しかありません。すでに済ませたコンサートのライヴ盤とはいえ、いったいサン・ラ・アーケストラ側には本作を本気で売る気があったのでしょうか。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)