サン・ラ - ビヨンド・ザ・パープル・スター・ゾーン (El Saturn, 1981) | 人生は野菜スープ~アエリエルのブログ、または午前0時&午後3時毎日更新の男

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元職・雑誌フリーライター。バツイチ独身。午前0時か午後3時に定期更新。主な内容は軽音楽(ジャズ、ロック)、文学(現代詩)の紹介・感想文です。ブロガーならぬ一介の閑人にて無内容・無知ご容赦ください。

サン・ラ - ビヨンド・ザ・パープル・スター・ゾーン (El Saturn, 1981)サン・ラ Sun Ra Omniverse Jet-Set Arkestra - ビヨンド・ザ・パープル・スター・ゾーン Beyond the Purple Star Zone (Immortal Being) (El Saturn, 1981) :  

Recorded at Live at the Jazz Center, Detroit, December 26-31, 1980
Released by El Saturn Records Saturn 123180, 1981 also with "Oblique Paralax" in an ArtYard cd named "Detroit Jazz Center 1980", 2006
All Composed and Arranged by Sun Ra
(Side A)
A1. Beyond the Purple Star Zone - 5:50
A2. Rocket Number Nine - 8:14
(Side B)
B1. Immortal Being - 4:02
B2. Romance on a Satellite - 5:01
B3. Planetary Search - 4:19
[ Sun Ra Omniverse Jet-Set Arkestra ]
Sun Ra - organ, synthesizer, vocal
Tony Bethel - trombone
Vincent Chancey - fluegelhorn or french horn
Marshall Allen - alto saxophone
John Gilmore - tenor saxophone, vocal
Danny Ray Thompson - baritone saxophone, flute
James Jacson - basoon, percussion, vocal
Skeeter McFarland - electric guitar
Taylor Richardson - electric guitar
Richard Williams - bass
Luqman Ali - drums
June Tyson - vocal 

(Original El Saturn "Beyond the Purple Star Zone" LP Liner Cover & Side A Label)

 今回のアルバムもライヴ録音、ただし収録はひさしぶりにデトロイト録音で、'60年代から親交のあるブラック・パンサー支援者の左翼白人政治活動家ジョン・シンクレア主催のコンサートからのものです。こういう人と親交が深いのがサン・ラの懐深いところで、シンクレアは直前に友人ジョン・レノンを亡くしたばかりですから('80年12月8日)何らかのスピーチもあったかもしれません。シンクレア主催の同会場でのライヴからはもう1作『Oblique Paralax』が編まれ、2006年のCD化の際に『Detroit Jazz Center 1980』として1枚にまとめられました。このクリスマス明け~大みそかに渡るコンサートではサン・ラ・アーケストラは「Omniverse Jet-Set Arkestra」と名乗り、デトロイト滞在中の一週間公演(12月26日~1981年元旦)のライヴは1日2セット、毎回3時間(1日6時間!)に及んだそうですから、本作はコンサートのほんの片鱗にしか過ぎないとも言えますし、それだけエッセンスが凝縮されているとも言えます。ハードコアなリスナーには2008年にサン・ラ作品の発掘レーベルTransparencyから1980年12月26日~1981年1月1日の全公演を収録した28枚組CD-R(!)『The Complete Detroit Jazz Center Residency』が限定500セットでリリースされていますが、さすがにこれは手が届きません。MP3-ディスクまたはUSBメモリーでの再リリースを望みたいと思います。同レーベルからはCD2枚組のダイジェスト盤『Gods Private Eye, Live 1980』が先行発売されていますが2000年発売、400セット限定とこちらも入手が難しいので、Art Yardレーベルから2012年に再発売された本作のボーナス・トラック(本作+『Oblique Paralax』全3曲とアルバム未収録曲1曲追加)入りリマスタリングCDが手頃です。これも7日間におよぶ公演の1/28にすぎませんが、28枚組CDともなると作品というよりもむしろ記録的な意味合いの方が大きいものでしょう。

 今回はあくまで1981年発売のLP『Beyond the Purple Star Zone』のご紹介なので作品としての本作を楽しみたいと思いますが、傾向はやはり同1980年度のスクワッド・シアター(ニューヨーク)でのライヴ盤『Voice of Eternal Tomorrow』と『Dance of Innocent Passion』に似ています。サン・ラはピアノは使わずオルガンとシンセサイザーに専念し、'70年代初頭のシンセサイザー導入直後のアルバムを思わせるエレクトリック・フリー・ジャズをくり広げています。'80年というとポップ・ミュージックでのシンセサイザー使用が飛躍的に拡大した年ですから、シンセサイザー奏者のパイオニアとしてサン・ラも改めてサン・ラ流のシンセサイザー演奏を試したかったのかもしれません。これは同じ'80年にピアノに専念した快演をバンド作『Sunrise in Different World』やソロ・ピアノ作『Aurora Borealis』に残していることと矛盾はしないでしょう。シンセサイザー使用には'78年初頭の『Disco 3000』三部作での革新があり、'69年~'70年のシンセサイザー導入直後のアルバムよりも'80年のシンセサイザー使用アルバムには格段なアンサンブルの向上が見られます。サン・ラは多様な音楽アイディアを同時進行で推進していたので、ソロ・ピアノや小編成バンド、モダン・ビッグバンド・ジャズからファンク、フュージョン、フリー・ジャズまでその時々で最新の成果を披露してきました。本作でもアーケストラ'50年代からのヴォーカル・バップ・ナンバーの代表曲「Rocket Number Nine」の最新ヴァージョンがあり、この曲はシンクレアと活動をともにしていたデトロイトのプロト・パンク・バンド、MC5が'69年のデビュー・アルバムで改作カヴァーしており、最近ではレディー・ガガのカヴァーでも知られます。

 このアルバムはA1「Beyond the Purple Star Zone」とA2「Rocket Number Nine」の対照でもわかりますが、専任ヴォーカルのジューン・タイソンを入れて12人の中規模編成アーケストラにもかかわらずビッグバンドらしさはほとんどありません。A1はフリューゲルホーンとサン・ラのオルガン/シンセサイザーとのデュオです。それもフリューゲルホーン(明記されていないためフリューゲルホーンとフレンチホルンの2説ありますが、トランペット奏者の持ち替えならばフリューゲルホーンでしょう)がオルガン/シンセサイザーをバックにソロを取っているのではなく、同時進行で即興アンサンブルが展開されるようになっています。これはこの時のデトロイト・コンサートからの姉妹作『Oblique Paralax』でもそうで、サン・ラのオルガン/シンセサイザーのフィーチャー度が非常に高く、ギター・ソロがやや目立つ程度で管楽器はアンサンブルに徹しており、「Rocket Number Nine」のようなヴォーカル・ナンバーこそあれアルバム全体はアヴァンギャルドな面が目立ちます。28枚組『The Complete Detroit Jazz Center Residency』の曲目によると、初日12月26日第1部(3時間)のセットリストは、

(Announcement)
1. Discipline 27 
2. Untitled Improvisation
3. Queer Notions 
4. Yeah Man! 
5. Round Midnight 
6. Space Loneliness 
7. Lady Bird 
8. Half Nelson 
9. Cocktails For Two 
10. Big John's Special 
11. Love In Outer Space (Includes Long Drum Section) 
12. Fate In A Pleasant Mood 
13. Space Is The Place 
14. Untitled Improvisation
15. We Travel The Spaceways 
16. Gone With The Wind 
(Encore)
1. Angel Race~This Place Is Not My Home~Stranger In Paradise~Astro Nation
2. Greetings From The 21st Century~Interplanetary Music~Moonship Journey~Next Stop Mars~Second Stop Is Jupiter~Rocket Number Nine~Do That Thang~Pluto Too 

 --となっており、2月録音のスイスのライヴ盤『Sunrise in Different Dimensions』と選曲には違いがないように見えます。だいたいこれが基本セットで、乗っている回のセットリストほど「Untitled Improvisation」が増えています。ライヴ・アルバム『Beyond the Purple Star Zone』と『Oblique Paralax』はこれらライヴでのインプロヴィゼーションをピック・アップして楽曲扱いとし、レコード作品にまとめたものと考えられます。これはマイルス・デイヴィスやフランク・ザッパもよくやっていた手法ですが、サン・ラ・アーケストラは彼らより早く、アプローチはより過激に、楽曲性より純粋に演奏に特化したもので、本作を『Oblique Paralax』と合わせたリマスターCDのボーナス・トラックなどはサン・ラの意図を汲んで14分弱シンセサイザーの爆音が続くノイズ・ミュージックが採用されています。

 あえてアーケストラのライヴのビッグバンド的な側面を取らず、オルガンとシンセサイザーの暴走ぶりをフィーチャーした意図はレコード作品としては成功していますが、本作は『Sunrise in Different Dimensions』のようにバンドが一体になって盛り上がるストレート・ジャズ作品とは補いあう関係にあるアルバムで、'75年の一時的活動休止を経た'76年以来のサン・ラは比較的ポピュラリティを重視したレコード制作が続いていたともいえます。前年'79年には8枚もの新作を制作しているほどで、'80年に入っては本作が4枚目、さらに2枚のアルバムを制作します。『Sunrise in~』のようなジャズはサン・ラならではのものに違いはありませんが、ジャズ作品として較べられる作品が他のジャズマンにもなくもないでしょう。しかし本作となるとサン・ラ・アーケストラ以外には作れないアルバムで、白人キーボード奏者には絶対弾けない黒人音楽のフィーリングを本質としながらサン・ラほど徹底していた黒人キーボード奏者もいないのが痛感されます。録音は主催者側に任せていたらしくメジャー・レーベルどころかインディー・レーベル作品でもアーケストラの自主レーベル、サターン以外でしたら難色を示すようなオン・マイク過ぎの音割れしているサウンドですが、それも本作の不穏なムードを高めて内容を引き立てています。サン・ラを聴くのはこれが初めての人でも案外楽しめるのではないかという気もします。

(旧記事を手直しし、再掲載しました。)